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19.①
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凌さんと付き合うとこになり、一緒にコテージで過ごした翌週。
北原さんとデザインを詰めたサンプルの第一号が完成したので、今日はそれを持ってターコイズウィングに打ち合わせに来ている。
「失礼します」
コーヒーを持って現れたのは、来社受付をしてくれた総務の守田さんという女性で、北原さんは直前の会議が長引いているという。
「お待たせして申し訳ありません」
「いえ、ありがとうございます」
目の前に置かれたコーヒーのおかわりのお礼を言うと、まだ会議の終わりが読めないと申し訳なさそうに彼女が続けるので、大丈夫ですよと答えて笑顔を作る。
今日はサンプルのチェックがメインだし、私自身も急ぎの案件は抱えていないので、戻りが遅くなっても問題はない。
深々と頭を下げて退室する守田さんを見送ると、バッグから手帳を取り出して、他に取り掛かってる仕事のスケジュールを確認する。
(賀茂屋百貨店さんね……。新しいバイヤーさん感じ良かったな)
蔵本さんの後任は斉藤さんという女性で、中部地方の担当から本社に移動してきたかなりのやり手のようだ。
その後、蔵本さんは関連企業の地方工場に異動になったと聞いている。
もちろん今でも逆恨みされている可能性はあるけれど、凌さんのおかげで常務から直々にうちの社長に謝罪があり、蔵本さんの件はそれを落とし所として収束した。
思えば短期間で色んなことがありすぎたなと、今は落ち着いていることに安堵して溜め息を吐くと、会議室のガラス越しに北原さんの姿が見えた。
「すみません、大変お待たせしました」
ドアを開けるなり頭を下げる北原さんに、慌てて立ち上がって対応すると、ようやく頭を上げた北原さんが向かいの席に腰を下ろす。
「こちらの都合でお待たせしてしまい、本当に申し訳ありません」
「もう結構ですよ。本当に大丈夫ですから」
「ありがとうございます」
「では早速、本日はサンプルをお持ちしましたので、ご確認いただけますか」
バッグからサンプルを取り出してテーブルに並べ始めると、北原さんはそれを見ながら少しいいですかと口を開いた。
「それなんですが、また鈴浦を同席させても問題ありませんか」
「ええ、それは構いませんけど」
少し驚いて北原さんを見た。
確かに仕事の話になった時、凌さんは打ち合わせに同席したがってたような気もするけど、いくら北原さんの上司とはいえ、ちょっと公私混同が見え隠れしてる気がする。
「では鈴浦を呼んで参りますので、申し訳ありませんが少しお待ちください」
会議室を出ていく北原さんを見送ると、少しだけモヤモヤした気持ちのままサンプルを整理して、説明のためにタブレットを起動させて用意した資料を確認する。
(凌さん、なに考えてるんだろう)
そんなにいい加減な人じゃないことは分かっているけれど、いくら仕事で接点が出来たからって、なんだかこういうのは凌さんらしくない気がする。
そんな風に一人で考え込んでいると、北原さんがお茶を持って会議室に戻ってきた。
「すみません、お待たせしてます」
「いえ。それで鈴浦さんは」
「もうすぐ来ると思います。あ、来ました」
北原さんの視線に誘われて会議室の外に目を向けると、廊下を歩いてくる凌さんの姿が見えた。
(え⁉︎ ……嘘)
こちらに向かって歩いてくるのは確かに凌さんだけれど、その風貌のあまりの変わりようにドキッとする。
いつもなら重たい前髪が降りて黒縁メガネの目元を覆い隠しているはずが、前髪はスッキリとポンパドールにして纏められ、ハーフアップで纏められた髪もきっちりとセットされている。
しかも白いインナーに、ベルト周りにいくつも付いたジッパーが印象的な燕脂のライダースジャケットを羽織り、タイトな黒いデニムを履いている。
(え、なに。なんで)
北原さんとデザインを詰めたサンプルの第一号が完成したので、今日はそれを持ってターコイズウィングに打ち合わせに来ている。
「失礼します」
コーヒーを持って現れたのは、来社受付をしてくれた総務の守田さんという女性で、北原さんは直前の会議が長引いているという。
「お待たせして申し訳ありません」
「いえ、ありがとうございます」
目の前に置かれたコーヒーのおかわりのお礼を言うと、まだ会議の終わりが読めないと申し訳なさそうに彼女が続けるので、大丈夫ですよと答えて笑顔を作る。
今日はサンプルのチェックがメインだし、私自身も急ぎの案件は抱えていないので、戻りが遅くなっても問題はない。
深々と頭を下げて退室する守田さんを見送ると、バッグから手帳を取り出して、他に取り掛かってる仕事のスケジュールを確認する。
(賀茂屋百貨店さんね……。新しいバイヤーさん感じ良かったな)
蔵本さんの後任は斉藤さんという女性で、中部地方の担当から本社に移動してきたかなりのやり手のようだ。
その後、蔵本さんは関連企業の地方工場に異動になったと聞いている。
もちろん今でも逆恨みされている可能性はあるけれど、凌さんのおかげで常務から直々にうちの社長に謝罪があり、蔵本さんの件はそれを落とし所として収束した。
思えば短期間で色んなことがありすぎたなと、今は落ち着いていることに安堵して溜め息を吐くと、会議室のガラス越しに北原さんの姿が見えた。
「すみません、大変お待たせしました」
ドアを開けるなり頭を下げる北原さんに、慌てて立ち上がって対応すると、ようやく頭を上げた北原さんが向かいの席に腰を下ろす。
「こちらの都合でお待たせしてしまい、本当に申し訳ありません」
「もう結構ですよ。本当に大丈夫ですから」
「ありがとうございます」
「では早速、本日はサンプルをお持ちしましたので、ご確認いただけますか」
バッグからサンプルを取り出してテーブルに並べ始めると、北原さんはそれを見ながら少しいいですかと口を開いた。
「それなんですが、また鈴浦を同席させても問題ありませんか」
「ええ、それは構いませんけど」
少し驚いて北原さんを見た。
確かに仕事の話になった時、凌さんは打ち合わせに同席したがってたような気もするけど、いくら北原さんの上司とはいえ、ちょっと公私混同が見え隠れしてる気がする。
「では鈴浦を呼んで参りますので、申し訳ありませんが少しお待ちください」
会議室を出ていく北原さんを見送ると、少しだけモヤモヤした気持ちのままサンプルを整理して、説明のためにタブレットを起動させて用意した資料を確認する。
(凌さん、なに考えてるんだろう)
そんなにいい加減な人じゃないことは分かっているけれど、いくら仕事で接点が出来たからって、なんだかこういうのは凌さんらしくない気がする。
そんな風に一人で考え込んでいると、北原さんがお茶を持って会議室に戻ってきた。
「すみません、お待たせしてます」
「いえ。それで鈴浦さんは」
「もうすぐ来ると思います。あ、来ました」
北原さんの視線に誘われて会議室の外に目を向けると、廊下を歩いてくる凌さんの姿が見えた。
(え⁉︎ ……嘘)
こちらに向かって歩いてくるのは確かに凌さんだけれど、その風貌のあまりの変わりようにドキッとする。
いつもなら重たい前髪が降りて黒縁メガネの目元を覆い隠しているはずが、前髪はスッキリとポンパドールにして纏められ、ハーフアップで纏められた髪もきっちりとセットされている。
しかも白いインナーに、ベルト周りにいくつも付いたジッパーが印象的な燕脂のライダースジャケットを羽織り、タイトな黒いデニムを履いている。
(え、なに。なんで)
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