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16.④
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ようやく到着したコテージは、想像していたログハウスとは違って、外国のどこかの森に迷い込んだような可愛らしい一軒家だ。
「これがコテージですか」
「びっくりするよね。元々の持ち主のこだわりが詰まってて、南仏のイメージだそうだよ。さあ、入って」
「お邪魔します」
靴のままでいいと案内された中に入ると、本当に外国に来たような造りの部屋に、お洒落な家具がバランスよく配置されている。
外観は凄く可愛らしい印象が強かったけれど、中は洗練されていて、特にソファーに掛けてあるモノトーンのキルトが凄く良いアクセントになっている。
「どうかな」
「凄い素敵です!」
ちょっと興奮して答えると、凌さんは安心したように良かったと呟いて、奥のキッチンに荷物を運ぶ。
「今暖炉に火を入れるから待ってね」
「ありがとうございます」
リビングに戻った凌さんは、手慣れた様子で暖炉に火を焚べると私をソファーに座らせ、それでも冷えるだろうからとブランケットを渡し、オイルヒーターも用意してくれた。
「ちょうど今日は清掃と換気に来てくれてたらしいから、とりあえず暖かくなるまでここで待ってて」
「え、私もお手伝いします」
「ゆっくりしててよ。お客さんなんだから」
「でも、凌さんだって運転でお疲れでしょうし」
「だーめ。秋菜ちゃんはゲストだから、ちゃんとおもてなしさせて」
そう言うと、面白いものがあると言って凌さんがリモコンを手に持った。
「ちょっとだけ照明落とすね」
部屋の明かりが少しだけ暗くなって、天井から壁伝いに大きなスクリーンが降りてくる。
「うわぁ」
「俺ね、これでゲームしてんの。呆れるでしょ」
壁一面を覆うロールスクリーンには、プロジェクターから投影された海の景色が映し出され、備え付けられたスピーカーから波の音が聞こえてきた。
「凄い迫力なんじゃないですか」
「慣れるまでは、画面酔いが凄かった」
可笑しそうに笑う凌さんに釣られて私も笑うと、彼はラックの前に移動して、普段遊んでいるというゲームをすぐに遊べるようにセッティングしてくれた。
「映画の方が良かったら、配信サービスに繋ぐけど」
「いえ。ゲームなんてすることがないので、このままでお願いします」
「分かった。じゃあ、俺はご飯作ってくるね」
「なんだかすみません」
「いいのいいの。ゆっくりしてて」
私の肩をポンと叩くと、少し躊躇ってから身を屈めて私の顔を覗き込んだ。
(……え?)
唇に柔らかい感触が当たって、にっこりと笑う凌さんと目が合う。
一瞬のことに思考が追いつかない私の頭をポンポンと撫でると、彼はそのままキッチンに向かってしまい、しばらくすると調理を始めたらしい音が聞こえてきた。
「キス……だったよね」
ベッドを共にして、何度ももっと淫らなキスをしたくせに、今ごろになって羞恥で顔が熱くなる。
(付き合って初めてのキスなのに、そんなさりげなく)
気恥ずかしさで足をばたつかせると、凌さんがせっかく用意してくれたゲームをして意識を紛らわせる。
真剣になればなるほどコントローラーを握る手に力が入り、上手くボタンを押せなくて失敗ばかりしてしまう。
レースゲームに夢中になっていると、しばらくしてキッチンからいい香りがしてきた。
「随分楽しそうだね」
「凌さん」
「料理が出来たんだけど、並べても良いかな」
「うわぁ、すごく美味しそうです」
分厚く切った野菜たっぷりのポークジンジャーに、小松菜ときのこたっぷりの和風パスタ。オニオンコンソメスープは、薄くスライスした玉ねぎを炒めて粉末スープと合わせただけらしい。どれも良い香りで食欲をそそられる。
「よし、じゃあいただこうか」
最初に会った日みたいに隣同士並んで手を合わせると、凌さんが缶ビールを開けてグラスに注ぐ。
「いただきます」
用意されたおしぼりで手を拭くと、早速ポークジンジャーにナイフを入れる。
たっぷりとソースをまとった豚肉を頬張ると、ジュワッと口の中で旨みが溢れる。ソースがよく絡んだ野菜もトロッとしていて美味しい。
「すっごく美味しいです」
「そう? 良かった」
料理をするためか、前髪をピンで留めて綺麗な顔が剥き出しになった凌さんは、なんだか可愛らしくって、いつもより幼い感じに見える。
不躾に顔を見つめてしまった私に、凌さんはどうかしたのかと首を傾げ、その姿も可愛くて見てる方が恥ずかしくなってくる。
「顔真っ赤だよ」
「いや、ピンで髪を留めてるのが可愛くて」
「ああ、取り忘れてた」
「できればそのままで。めちゃくちゃ可愛いので」
「こんなオッサンに可愛いなんて言うの、秋菜ちゃんだけだよ」
「凌さんはオッサンじゃないですよ」
「ありがと」
そんな雑談をしながら凌さんの手料理とお酒を楽しむと、あっという間に時間は過ぎて、食べ切れるか不安だった食事も全部平らげてしまった。
「これがコテージですか」
「びっくりするよね。元々の持ち主のこだわりが詰まってて、南仏のイメージだそうだよ。さあ、入って」
「お邪魔します」
靴のままでいいと案内された中に入ると、本当に外国に来たような造りの部屋に、お洒落な家具がバランスよく配置されている。
外観は凄く可愛らしい印象が強かったけれど、中は洗練されていて、特にソファーに掛けてあるモノトーンのキルトが凄く良いアクセントになっている。
「どうかな」
「凄い素敵です!」
ちょっと興奮して答えると、凌さんは安心したように良かったと呟いて、奥のキッチンに荷物を運ぶ。
「今暖炉に火を入れるから待ってね」
「ありがとうございます」
リビングに戻った凌さんは、手慣れた様子で暖炉に火を焚べると私をソファーに座らせ、それでも冷えるだろうからとブランケットを渡し、オイルヒーターも用意してくれた。
「ちょうど今日は清掃と換気に来てくれてたらしいから、とりあえず暖かくなるまでここで待ってて」
「え、私もお手伝いします」
「ゆっくりしててよ。お客さんなんだから」
「でも、凌さんだって運転でお疲れでしょうし」
「だーめ。秋菜ちゃんはゲストだから、ちゃんとおもてなしさせて」
そう言うと、面白いものがあると言って凌さんがリモコンを手に持った。
「ちょっとだけ照明落とすね」
部屋の明かりが少しだけ暗くなって、天井から壁伝いに大きなスクリーンが降りてくる。
「うわぁ」
「俺ね、これでゲームしてんの。呆れるでしょ」
壁一面を覆うロールスクリーンには、プロジェクターから投影された海の景色が映し出され、備え付けられたスピーカーから波の音が聞こえてきた。
「凄い迫力なんじゃないですか」
「慣れるまでは、画面酔いが凄かった」
可笑しそうに笑う凌さんに釣られて私も笑うと、彼はラックの前に移動して、普段遊んでいるというゲームをすぐに遊べるようにセッティングしてくれた。
「映画の方が良かったら、配信サービスに繋ぐけど」
「いえ。ゲームなんてすることがないので、このままでお願いします」
「分かった。じゃあ、俺はご飯作ってくるね」
「なんだかすみません」
「いいのいいの。ゆっくりしてて」
私の肩をポンと叩くと、少し躊躇ってから身を屈めて私の顔を覗き込んだ。
(……え?)
唇に柔らかい感触が当たって、にっこりと笑う凌さんと目が合う。
一瞬のことに思考が追いつかない私の頭をポンポンと撫でると、彼はそのままキッチンに向かってしまい、しばらくすると調理を始めたらしい音が聞こえてきた。
「キス……だったよね」
ベッドを共にして、何度ももっと淫らなキスをしたくせに、今ごろになって羞恥で顔が熱くなる。
(付き合って初めてのキスなのに、そんなさりげなく)
気恥ずかしさで足をばたつかせると、凌さんがせっかく用意してくれたゲームをして意識を紛らわせる。
真剣になればなるほどコントローラーを握る手に力が入り、上手くボタンを押せなくて失敗ばかりしてしまう。
レースゲームに夢中になっていると、しばらくしてキッチンからいい香りがしてきた。
「随分楽しそうだね」
「凌さん」
「料理が出来たんだけど、並べても良いかな」
「うわぁ、すごく美味しそうです」
分厚く切った野菜たっぷりのポークジンジャーに、小松菜ときのこたっぷりの和風パスタ。オニオンコンソメスープは、薄くスライスした玉ねぎを炒めて粉末スープと合わせただけらしい。どれも良い香りで食欲をそそられる。
「よし、じゃあいただこうか」
最初に会った日みたいに隣同士並んで手を合わせると、凌さんが缶ビールを開けてグラスに注ぐ。
「いただきます」
用意されたおしぼりで手を拭くと、早速ポークジンジャーにナイフを入れる。
たっぷりとソースをまとった豚肉を頬張ると、ジュワッと口の中で旨みが溢れる。ソースがよく絡んだ野菜もトロッとしていて美味しい。
「すっごく美味しいです」
「そう? 良かった」
料理をするためか、前髪をピンで留めて綺麗な顔が剥き出しになった凌さんは、なんだか可愛らしくって、いつもより幼い感じに見える。
不躾に顔を見つめてしまった私に、凌さんはどうかしたのかと首を傾げ、その姿も可愛くて見てる方が恥ずかしくなってくる。
「顔真っ赤だよ」
「いや、ピンで髪を留めてるのが可愛くて」
「ああ、取り忘れてた」
「できればそのままで。めちゃくちゃ可愛いので」
「こんなオッサンに可愛いなんて言うの、秋菜ちゃんだけだよ」
「凌さんはオッサンじゃないですよ」
「ありがと」
そんな雑談をしながら凌さんの手料理とお酒を楽しむと、あっという間に時間は過ぎて、食べ切れるか不安だった食事も全部平らげてしまった。
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