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15.③
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今は果穂乃さんがそばにいる様子はないけど、もしかするとその場にいないだけで、このショッピングモールのどこかにいるのかもしれない。
震え始めた手でカップを持ち、なんとか紅茶を飲み込んで、大きく深呼吸をしてざわつく心を落ち着ける。
予期せず凌さんに遭遇してしまったけれど、美鳥が彼と面識があるなら、後で彼女に正直に話した方がいいかもしれない。
「ごめん秋菜、お待たせ」
「ううん。大丈夫だよ」
カフェに戻って来た美鳥の後ろに、先ほど窓から見えた品のあるご婦人の姿が見え、女性は心苦しそうに私に頭を下げる。
「急で悪いんだけど、相席してもいいかな。どの店も混んでてゆっくり出来るところがないって話でさ。お義母さんに偶然会っちゃって」
「おかあさん?」
美鳥の言葉にますます混乱する。
このご婦人と一緒にいたのは、確かに凌さんだった。それが美鳥のお母さんというのはどういことだろうか。
「お義母さん、荷物はこっちに。そちらに座ってください」
「ごめんね、美鳥ちゃん。あとお友だちも、おくつろぎのところ、突然お邪魔してすみませんね」
「いえいえ、こちらは大丈夫ですよ。逆になんだかすみません」
とりあえず無難に挨拶を済ませると、美鳥とおかあさんの様子をそっと見守る。
おかあさんと呼ぶ割にはなんだか距離があるようだけど、一体どういうことなんだろうか。
「ここのケーキ、凄く美味しいですよ」
「あらそうなのね」
「お義母さんチーズケーキお好きでしたよね。彼女が注文したんですけど、これなんか中にベリーソースが入ってて凄くオススメですよ」
やっぱり美鳥とおかあさんには、親しそうだけど少し距離があるように感じる。
どういうことなのか意味が分からないまま、二人が会話する様子を眺めていると、不意に美鳥が顔を上げて入口の方に向かって手を振った。
「お義兄さん、こっちですよ」
この状況で美鳥が呼ぶとしたら、おかあさんと呼んでいるこのご婦人と一緒にいた凌さんしかいない。
そして案の定、視線を上げて店の入り口を見ると、スラッと背の高い男性がこちらに気付いて驚いた顔をしているのが見えた。
(やっぱり、凌さんだ)
彼は美鳥に手を振り返すと、私たちが座るテーブルに近付いて、こんにちはと私の顔を見た。
「お義兄さん、さっき伝えましたけど彼女が……」
「大丈夫だよ、美鳥ちゃん。秋菜ちゃん、意外なところで会えたね」
「はい。ご無沙汰してます」
にっこり微笑む凌さんに、私は気まずさを隠せなくて引き攣った笑顔になってしまったけれど、なんとか挨拶を済ませて彼が座るのを待った。
「ちょっと、秋菜。お義兄さんと知り合いなの」
「うん、まあ」
「そうなんだよ、美鳥ちゃん。でもちゃんと紹介してもらっても良いかな。美鳥ちゃんとどういう関係なのかは俺も知りたいし」
美鳥の質問にどう答えて良いか分からず言葉を濁した私に、助け舟を出すように凌さんが口を開いた。
「あ、そうですよね。ごめんね秋菜。こちらは私の婚約者のお母様とお兄さん。で、こっちは林原秋菜さん、私と同じ職場の友人です」
「初めまして。いつも美鳥ちゃんがお世話になってます」
謎が解けたところで、凌さんのお母様が私に笑顔を向けると、でも凌の知り合いなのよねと不思議そうに彼を見ている。
私だって驚きで頭がパンクしそうだ。
「改めまして、秋菜ちゃん。なかなか連絡出来なくてごめんね。でもまさか美鳥ちゃんの友だちだったとはね」
「私も知らなかった。秋菜、お義兄さんと知り合いだったんだ」
「あ、うん」
苦笑して答えてから、美鳥にだけ聞こえるように、例の相手なのと耳打ちする。
すると最初はキョトンとしてた美鳥が、やっと私と凌さんの関係に気付いたらしく、驚いたように私と彼を交互に見つめて口を開けて固まった。
震え始めた手でカップを持ち、なんとか紅茶を飲み込んで、大きく深呼吸をしてざわつく心を落ち着ける。
予期せず凌さんに遭遇してしまったけれど、美鳥が彼と面識があるなら、後で彼女に正直に話した方がいいかもしれない。
「ごめん秋菜、お待たせ」
「ううん。大丈夫だよ」
カフェに戻って来た美鳥の後ろに、先ほど窓から見えた品のあるご婦人の姿が見え、女性は心苦しそうに私に頭を下げる。
「急で悪いんだけど、相席してもいいかな。どの店も混んでてゆっくり出来るところがないって話でさ。お義母さんに偶然会っちゃって」
「おかあさん?」
美鳥の言葉にますます混乱する。
このご婦人と一緒にいたのは、確かに凌さんだった。それが美鳥のお母さんというのはどういことだろうか。
「お義母さん、荷物はこっちに。そちらに座ってください」
「ごめんね、美鳥ちゃん。あとお友だちも、おくつろぎのところ、突然お邪魔してすみませんね」
「いえいえ、こちらは大丈夫ですよ。逆になんだかすみません」
とりあえず無難に挨拶を済ませると、美鳥とおかあさんの様子をそっと見守る。
おかあさんと呼ぶ割にはなんだか距離があるようだけど、一体どういうことなんだろうか。
「ここのケーキ、凄く美味しいですよ」
「あらそうなのね」
「お義母さんチーズケーキお好きでしたよね。彼女が注文したんですけど、これなんか中にベリーソースが入ってて凄くオススメですよ」
やっぱり美鳥とおかあさんには、親しそうだけど少し距離があるように感じる。
どういうことなのか意味が分からないまま、二人が会話する様子を眺めていると、不意に美鳥が顔を上げて入口の方に向かって手を振った。
「お義兄さん、こっちですよ」
この状況で美鳥が呼ぶとしたら、おかあさんと呼んでいるこのご婦人と一緒にいた凌さんしかいない。
そして案の定、視線を上げて店の入り口を見ると、スラッと背の高い男性がこちらに気付いて驚いた顔をしているのが見えた。
(やっぱり、凌さんだ)
彼は美鳥に手を振り返すと、私たちが座るテーブルに近付いて、こんにちはと私の顔を見た。
「お義兄さん、さっき伝えましたけど彼女が……」
「大丈夫だよ、美鳥ちゃん。秋菜ちゃん、意外なところで会えたね」
「はい。ご無沙汰してます」
にっこり微笑む凌さんに、私は気まずさを隠せなくて引き攣った笑顔になってしまったけれど、なんとか挨拶を済ませて彼が座るのを待った。
「ちょっと、秋菜。お義兄さんと知り合いなの」
「うん、まあ」
「そうなんだよ、美鳥ちゃん。でもちゃんと紹介してもらっても良いかな。美鳥ちゃんとどういう関係なのかは俺も知りたいし」
美鳥の質問にどう答えて良いか分からず言葉を濁した私に、助け舟を出すように凌さんが口を開いた。
「あ、そうですよね。ごめんね秋菜。こちらは私の婚約者のお母様とお兄さん。で、こっちは林原秋菜さん、私と同じ職場の友人です」
「初めまして。いつも美鳥ちゃんがお世話になってます」
謎が解けたところで、凌さんのお母様が私に笑顔を向けると、でも凌の知り合いなのよねと不思議そうに彼を見ている。
私だって驚きで頭がパンクしそうだ。
「改めまして、秋菜ちゃん。なかなか連絡出来なくてごめんね。でもまさか美鳥ちゃんの友だちだったとはね」
「私も知らなかった。秋菜、お義兄さんと知り合いだったんだ」
「あ、うん」
苦笑して答えてから、美鳥にだけ聞こえるように、例の相手なのと耳打ちする。
すると最初はキョトンとしてた美鳥が、やっと私と凌さんの関係に気付いたらしく、驚いたように私と彼を交互に見つめて口を開けて固まった。
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