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14.②☆ 凌視点

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 そんな彼女相手に、今の状況を説明するのは重たすぎる気がしてしまう。
 実際、俺だって彼女からそんな話を聞かされたら、返答する内容に困ってしまう。もちろん心配はあるけど、今の俺の立場でどこまで立ち入っていいか分からないからだ。
「もう少し、声聞きたかったな」
 ポケットに入れたままになってたスマホを取り出すと、未練がましく秋菜ちゃんからきたメッセージを改めて見返してしまう。
 まだ二十二時過ぎ。もしかしたらメッセージを送れば、秋菜ちゃんが返信をくれるかもしれない。
 さっきは母が呼びにきたせいで、電話は中途半端に切ることになってしまった。だから彼女にきちんと謝りたいけど向こうはそもそも、初詣を楽しみにしてくれてたんだろうか。
「約束断った上に、こっちの都合で一か月も放置する形になってたのに、調子良すぎるよな」
 メッセージを打とうとした指が止まる。
 彼女に癒しを求めるのは、毎日緊張の糸を張り過ぎて、疲れが溜まってる証拠かもしれない。
 秋菜ちゃんは俺の恋人でもなんでもない。だから都合よく寄りかかったり、甘えたりしていい人じゃない。
 ソファーから立ち上がって母の様子を確認すると、まだしばらくは眠っていそうなので、なるべく音を立てないようキッチンに移動する。
 そして冷蔵庫から冷えた缶ビールを二本取り出すと、父の遺影に線香をあげ、一本を備えて缶を鳴らして乾杯する。
「なんで逝っちまったんだよ。お袋泣かせるなよ」
 誰に言えるでもない愚痴が、つい口から漏れた。
 いくら在宅勤務の都合がつくからって、いつまでも仕事を人任せにもしていられない。
 どこかで線引きをして、母にはもう少し心を強く持ってもらわないと困るのは事実だ。
 それでも今は、いや、これからは俺が母を支えないといけない。
(やっぱり、もう少し声を聞いていたかったな)
 そう思ったら自然と指が動いて、秋菜ちゃんにメッセージを送るのを止められなかった。
【さっきはごめん。話したいことがたくさんあるよ。だけど少し重たい話かも知れない。相談じゃないんだけど、愚痴に付き合ってもらえるかな】
 我ながら、なんとも女々しい文章だと思いつつも、俺と秋菜ちゃんの関係ならここまでが精一杯だ。
 父が亡くなったとか、母がそれで不安定だなんて唐突に伝えてしまったら、優しい彼女は当然のように俺を支えてくれる気がする。
 それなのにこんな文章を送ってしまうのは、このひと月過ごした母を支えなければいけない生活が、思ってる以上に堪えたからだと思う。
 でも同情を買いたい訳じゃない。
 そう思って送信を取り消そうと画面をタップした瞬間、メッセージが既読になってしまった。
(……間に合わなかったか)
 こんなことならクリスマスに、きちんと思いを告白すればよかったと思う反面、付き合ってすぐにこんな状況になるのもなかなかハードだなと思い直す。
 俺が秋菜ちゃんの立場なら、出来ることはしてあげたいと思うけど、彼女の家庭事情にまで入り込むほど付き合いが長い訳じゃない。
「どうしたいんだよ、俺は」
 モヤモヤして独り言を呟くと、そんなタイミングで秋菜ちゃんからメッセージが返ってきた。
【私なんかでお役に立てるんでしょうか】
 想像とは違う、少し違和感を覚えるメッセージに驚きながらも、返事がすぐにきたのが嬉しくて、そんな風に言わないで欲しいとすぐにメッセージを返す。
 だから俺はこの時、彼女と俺との間で、なにかがすれ違い始めてることに気付きもしていなかった。
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