54 / 84
14.②☆ 凌視点
しおりを挟む
そんな彼女相手に、今の状況を説明するのは重たすぎる気がしてしまう。
実際、俺だって彼女からそんな話を聞かされたら、返答する内容に困ってしまう。もちろん心配はあるけど、今の俺の立場でどこまで立ち入っていいか分からないからだ。
「もう少し、声聞きたかったな」
ポケットに入れたままになってたスマホを取り出すと、未練がましく秋菜ちゃんからきたメッセージを改めて見返してしまう。
まだ二十二時過ぎ。もしかしたらメッセージを送れば、秋菜ちゃんが返信をくれるかもしれない。
さっきは母が呼びにきたせいで、電話は中途半端に切ることになってしまった。だから彼女にきちんと謝りたいけど向こうはそもそも、初詣を楽しみにしてくれてたんだろうか。
「約束断った上に、こっちの都合で一か月も放置する形になってたのに、調子良すぎるよな」
メッセージを打とうとした指が止まる。
彼女に癒しを求めるのは、毎日緊張の糸を張り過ぎて、疲れが溜まってる証拠かもしれない。
秋菜ちゃんは俺の恋人でもなんでもない。だから都合よく寄りかかったり、甘えたりしていい人じゃない。
ソファーから立ち上がって母の様子を確認すると、まだしばらくは眠っていそうなので、なるべく音を立てないようキッチンに移動する。
そして冷蔵庫から冷えた缶ビールを二本取り出すと、父の遺影に線香をあげ、一本を備えて缶を鳴らして乾杯する。
「なんで逝っちまったんだよ。お袋泣かせるなよ」
誰に言えるでもない愚痴が、つい口から漏れた。
いくら在宅勤務の都合がつくからって、いつまでも仕事を人任せにもしていられない。
どこかで線引きをして、母にはもう少し心を強く持ってもらわないと困るのは事実だ。
それでも今は、いや、これからは俺が母を支えないといけない。
(やっぱり、もう少し声を聞いていたかったな)
そう思ったら自然と指が動いて、秋菜ちゃんにメッセージを送るのを止められなかった。
【さっきはごめん。話したいことがたくさんあるよ。だけど少し重たい話かも知れない。相談じゃないんだけど、愚痴に付き合ってもらえるかな】
我ながら、なんとも女々しい文章だと思いつつも、俺と秋菜ちゃんの関係ならここまでが精一杯だ。
父が亡くなったとか、母がそれで不安定だなんて唐突に伝えてしまったら、優しい彼女は当然のように俺を支えてくれる気がする。
それなのにこんな文章を送ってしまうのは、このひと月過ごした母を支えなければいけない生活が、思ってる以上に堪えたからだと思う。
でも同情を買いたい訳じゃない。
そう思って送信を取り消そうと画面をタップした瞬間、メッセージが既読になってしまった。
(……間に合わなかったか)
こんなことならクリスマスに、きちんと思いを告白すればよかったと思う反面、付き合ってすぐにこんな状況になるのもなかなかハードだなと思い直す。
俺が秋菜ちゃんの立場なら、出来ることはしてあげたいと思うけど、彼女の家庭事情にまで入り込むほど付き合いが長い訳じゃない。
「どうしたいんだよ、俺は」
モヤモヤして独り言を呟くと、そんなタイミングで秋菜ちゃんからメッセージが返ってきた。
【私なんかでお役に立てるんでしょうか】
想像とは違う、少し違和感を覚えるメッセージに驚きながらも、返事がすぐにきたのが嬉しくて、そんな風に言わないで欲しいとすぐにメッセージを返す。
だから俺はこの時、彼女と俺との間で、なにかがすれ違い始めてることに気付きもしていなかった。
実際、俺だって彼女からそんな話を聞かされたら、返答する内容に困ってしまう。もちろん心配はあるけど、今の俺の立場でどこまで立ち入っていいか分からないからだ。
「もう少し、声聞きたかったな」
ポケットに入れたままになってたスマホを取り出すと、未練がましく秋菜ちゃんからきたメッセージを改めて見返してしまう。
まだ二十二時過ぎ。もしかしたらメッセージを送れば、秋菜ちゃんが返信をくれるかもしれない。
さっきは母が呼びにきたせいで、電話は中途半端に切ることになってしまった。だから彼女にきちんと謝りたいけど向こうはそもそも、初詣を楽しみにしてくれてたんだろうか。
「約束断った上に、こっちの都合で一か月も放置する形になってたのに、調子良すぎるよな」
メッセージを打とうとした指が止まる。
彼女に癒しを求めるのは、毎日緊張の糸を張り過ぎて、疲れが溜まってる証拠かもしれない。
秋菜ちゃんは俺の恋人でもなんでもない。だから都合よく寄りかかったり、甘えたりしていい人じゃない。
ソファーから立ち上がって母の様子を確認すると、まだしばらくは眠っていそうなので、なるべく音を立てないようキッチンに移動する。
そして冷蔵庫から冷えた缶ビールを二本取り出すと、父の遺影に線香をあげ、一本を備えて缶を鳴らして乾杯する。
「なんで逝っちまったんだよ。お袋泣かせるなよ」
誰に言えるでもない愚痴が、つい口から漏れた。
いくら在宅勤務の都合がつくからって、いつまでも仕事を人任せにもしていられない。
どこかで線引きをして、母にはもう少し心を強く持ってもらわないと困るのは事実だ。
それでも今は、いや、これからは俺が母を支えないといけない。
(やっぱり、もう少し声を聞いていたかったな)
そう思ったら自然と指が動いて、秋菜ちゃんにメッセージを送るのを止められなかった。
【さっきはごめん。話したいことがたくさんあるよ。だけど少し重たい話かも知れない。相談じゃないんだけど、愚痴に付き合ってもらえるかな】
我ながら、なんとも女々しい文章だと思いつつも、俺と秋菜ちゃんの関係ならここまでが精一杯だ。
父が亡くなったとか、母がそれで不安定だなんて唐突に伝えてしまったら、優しい彼女は当然のように俺を支えてくれる気がする。
それなのにこんな文章を送ってしまうのは、このひと月過ごした母を支えなければいけない生活が、思ってる以上に堪えたからだと思う。
でも同情を買いたい訳じゃない。
そう思って送信を取り消そうと画面をタップした瞬間、メッセージが既読になってしまった。
(……間に合わなかったか)
こんなことならクリスマスに、きちんと思いを告白すればよかったと思う反面、付き合ってすぐにこんな状況になるのもなかなかハードだなと思い直す。
俺が秋菜ちゃんの立場なら、出来ることはしてあげたいと思うけど、彼女の家庭事情にまで入り込むほど付き合いが長い訳じゃない。
「どうしたいんだよ、俺は」
モヤモヤして独り言を呟くと、そんなタイミングで秋菜ちゃんからメッセージが返ってきた。
【私なんかでお役に立てるんでしょうか】
想像とは違う、少し違和感を覚えるメッセージに驚きながらも、返事がすぐにきたのが嬉しくて、そんな風に言わないで欲しいとすぐにメッセージを返す。
だから俺はこの時、彼女と俺との間で、なにかがすれ違い始めてることに気付きもしていなかった。
62
お気に入りに追加
135
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~
椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」
私を脅して、別れを決断させた彼の両親。
彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。
私とは住む世界が違った……
別れを命じられ、私の恋が終わった。
叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
※視点切り替えあり。
※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。
英国紳士の熱い抱擁に、今にも腰が砕けそうです
坂合奏
恋愛
「I love much more than you think(君が思っているよりは、愛しているよ)」
祖母の策略によって、冷徹上司であるイギリス人のジャン・ブラウンと婚約することになってしまった、二十八歳の清水萌衣。
こんな男と結婚してしまったら、この先人生お先真っ暗だと思いきや、意外にもジャンは恋人に甘々の男で……。
あまりの熱い抱擁に、今にも腰が砕けそうです。
※物語の都合で軽い性描写が2~3ページほどあります。
10 sweet wedding
国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。
不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました
入海月子
恋愛
有本瑞希
仕事に燃える設計士 27歳
×
黒瀬諒
飄々として軽い一級建築士 35歳
女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。
彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。
ある日、同僚のミスが発覚して――。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる