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13.③
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「うん。実は転勤の時にプロポーズされたんだけど、海外で生活する決断が出来なくてお断りしたの。私もまだ若かったし、好きだったけど不安の方が大きくてね」
「そうだったんだ」
「そうなの。それでね、また日本での勤務になるらしくて、一時帰国したタイミングで連絡をくれたのよ」
「その時に再会したってこと?」
「そう。もう四年も経つし、あの頃のことは昔話として、笑って話せれば良いかと思って会ったんだけどね」
「けど?」
「その日にまたプロポーズされちゃって」
「ええ! ドラマチック」
「結婚願望は別としても真剣に付き合ってはいたし、お互いの両親とも会ったことはあるし。どうしても諦め切れなかったなんて言われちゃったら、断ったり出来なくて」
「なにそれ。羨ましすぎる」
聞いているだけで胸が熱くなって、ついでに目頭も熱くなる。
「ちょっとやだ。泣かないでよ」
「だって」
「もう。じゃあ私の話はこれくらいで。秋菜の話聞かせてよ」
そう言われてドクンと心臓が大きく疼く。
私の話は、そんな風に笑って話せる感じじゃない。
「どしたの、秋菜」
美鳥が心配そうに顔を覗き込んでくる。
苦しくてしんどい話だけど、私一人で抱え込むにはもう限界が近い。
「えっと、あんまり楽しい話は出来ないんだけど」
前置きを呟くと、それで察してくれたのか、美鳥がそっと手を握ってなんでも聞くよと真剣な顔をした。
「溜め込むのは良くないよ。我慢ばっかりはしんどいからね」
美鳥の何気ない言葉が、いつかの凌さんの言葉と重なって一気に涙腺が崩壊する。
「あらら、大丈夫?」
「うん」
咄嗟に差し出されたティッシュを受け取って鼻をかむと、どこから話せば良いかと呟いてから、凌さんと出会った経緯を美鳥に打ち明けることにした。
「幼馴染みのことはね、本当にもうどうでもいいんだけど、気落ちしてる時に優しくしてくれた人だから、心を許し過ぎたのかもしれない」
涙なのか鼻水なのか分からない状態で、何度も鼻をかみながら愚痴り続けると、美鳥はなにも言わずに私の頭を撫でる。
「結局ずっと一人ぼっちなのかな」
不意にそんな独り言が口から溢れた。
「一人じゃないでしょ。私がいるじゃない」
「そだね。ありがと」
また同じ失敗を繰り返すのが怖くて、誰かを好きになることなんて出来ない気がする。
正直なところ大輔に関しては本当にどうでもいいと思えるところまで来た。それは紛れもない事実で、そう思わせてくれたのは凌さんのおかげだ。
なのに大輔のせいで、そんな凌さんの心が私とは向き合ってないことを突き付けられてしまった。
「生まれてくる子が自分の子どもだったら、彼は放って置けないタイプだと思うんだよね」
必死になって、連絡がないことへの言い訳を探す。
だけど自分の吐き出したそんな言葉が、鋭い刃になって心を抉る。今更なにをどう言い繕おうとも、私が凌さんに恋をしてしまった事実は変えられない。
どうして私は、恋の一つや二つ程度、上手にすることが出来ないんだろう。
「そうだったんだ」
「そうなの。それでね、また日本での勤務になるらしくて、一時帰国したタイミングで連絡をくれたのよ」
「その時に再会したってこと?」
「そう。もう四年も経つし、あの頃のことは昔話として、笑って話せれば良いかと思って会ったんだけどね」
「けど?」
「その日にまたプロポーズされちゃって」
「ええ! ドラマチック」
「結婚願望は別としても真剣に付き合ってはいたし、お互いの両親とも会ったことはあるし。どうしても諦め切れなかったなんて言われちゃったら、断ったり出来なくて」
「なにそれ。羨ましすぎる」
聞いているだけで胸が熱くなって、ついでに目頭も熱くなる。
「ちょっとやだ。泣かないでよ」
「だって」
「もう。じゃあ私の話はこれくらいで。秋菜の話聞かせてよ」
そう言われてドクンと心臓が大きく疼く。
私の話は、そんな風に笑って話せる感じじゃない。
「どしたの、秋菜」
美鳥が心配そうに顔を覗き込んでくる。
苦しくてしんどい話だけど、私一人で抱え込むにはもう限界が近い。
「えっと、あんまり楽しい話は出来ないんだけど」
前置きを呟くと、それで察してくれたのか、美鳥がそっと手を握ってなんでも聞くよと真剣な顔をした。
「溜め込むのは良くないよ。我慢ばっかりはしんどいからね」
美鳥の何気ない言葉が、いつかの凌さんの言葉と重なって一気に涙腺が崩壊する。
「あらら、大丈夫?」
「うん」
咄嗟に差し出されたティッシュを受け取って鼻をかむと、どこから話せば良いかと呟いてから、凌さんと出会った経緯を美鳥に打ち明けることにした。
「幼馴染みのことはね、本当にもうどうでもいいんだけど、気落ちしてる時に優しくしてくれた人だから、心を許し過ぎたのかもしれない」
涙なのか鼻水なのか分からない状態で、何度も鼻をかみながら愚痴り続けると、美鳥はなにも言わずに私の頭を撫でる。
「結局ずっと一人ぼっちなのかな」
不意にそんな独り言が口から溢れた。
「一人じゃないでしょ。私がいるじゃない」
「そだね。ありがと」
また同じ失敗を繰り返すのが怖くて、誰かを好きになることなんて出来ない気がする。
正直なところ大輔に関しては本当にどうでもいいと思えるところまで来た。それは紛れもない事実で、そう思わせてくれたのは凌さんのおかげだ。
なのに大輔のせいで、そんな凌さんの心が私とは向き合ってないことを突き付けられてしまった。
「生まれてくる子が自分の子どもだったら、彼は放って置けないタイプだと思うんだよね」
必死になって、連絡がないことへの言い訳を探す。
だけど自分の吐き出したそんな言葉が、鋭い刃になって心を抉る。今更なにをどう言い繕おうとも、私が凌さんに恋をしてしまった事実は変えられない。
どうして私は、恋の一つや二つ程度、上手にすることが出来ないんだろう。
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