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13.②
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そんな風に思えたのは凌さんの存在がやっぱり大きい。だけどあれはあくまでも偶然の産物で、決して新しい出会いじゃなかったんだと思うと寂しい気持ちになる。
それに、初詣の約束が流れてから凌さんからは一切連絡もないし、私から彼に連絡をしてみる勇気もない。
(ダメだ。考えるのやめよう)
沈んだ気持ちのまま、美鳥の家がある最寄り駅で地下鉄を降り、駅前でお土産代わりのワインやチーズ、オリーブやバゲットなんかを買い込んだ。
「買い過ぎたかな」
ビニール袋がガサガサ鳴る音を、水気を多く含んだ雪が傘を叩く音で上書きするように掻き消していく。
手袋をしていない指先がジンジンして、寒さで耳も痛くなってきた。
白い息を吐きながら、記憶を頼りにしばらく歩き、住宅街の小さな公園を通り過ぎると、見慣れたマンションのポストが並ぶ軒下に入って傘をたたむ。
「めちゃくちゃ寒い」
バッグからスマホを取り出すと、すっかり悴んだ指先で画面をタップして、部屋番号が思い出せずにインターホンが押せないからと、美鳥にエントランスのドアを開けてもらう。
通話しながらエレベーターに乗り込むと、五階で降りて、エレベーターのすぐ近くの503号室のインターホンを押した。
「着いた。開けて」
『はいはい。ちょっと待ってね。今開ける』
そのタイミングで電話は切れ、スマホをバッグにしまうと、玄関が開いて美鳥がお疲れ様と顔を出した。
「やだ、なんか買ってきたの」
「うん。ワインとかおつまみをね」
「気を遣わなくて良いのに。ていうか寒かったでしょ、入って入って」
玄関に入って荷物を手渡し、ずぶ濡れになったブーツをなんとか脱いで部屋に上がると、部屋着を貸すから着替えろと美鳥に手を引かれて中に入る。
「うひゃ! 手、めっちゃ冷たいじゃない」
「手袋苦手なんだよね」
「すぐあったかいタオル用意するわ。相当寒かったでしょ。暖房効きにくいもん」
「美鳥が帰った時間より降ってたのかも」
「こんな日にごめんね」
「こっちこそ。あ、着替えありがとう」
「構わんよ」
美鳥はにっこり笑って寝室を出ると、私の好きなワインだとか騒ぎながら、キッチンでなにかし始めた。
リビングから入ってくる暖房の恩恵を受けながら、用意してもらったモコモコの部屋着に着替えると、泥が跳ねてしまったスカートを洗濯させて欲しいと美鳥の元へ向かう。
「スカートだけ、洗濯お願いして良いかな」
「大丈夫だよ。はいこれ、あったかいおしぼりね」
「わぁ、ありがとう」
蒸しタオルを用意してくれていたらしく、悴んでいた指先がじんわり暖かさを取り戻していく。
「なに突っ立ってんの。こたつに入ってて」
「ありがとう」
早速こたつに入ると、このところ気分が沈んでいたから、美鳥の何気ない気遣いに涙が込み上げそうになる。
「どうかしたの?」
「いや、大丈夫」
「そう? 今日は鍋にしたよ」
美鳥はテキパキと食器やカセットコンロを用意すると、キッチンで温めていた土鍋を持ってリビングに戻ってきた。
「とりあえず、最初はビールね。秋菜が買ってきてくれたワインは第二弾にしよう」
「了解」
缶ビールをグラスに注いで乾杯すると、鍋をつつきながら美鳥の結婚についてを改めて聞かせてもらう。
「それにしても、婚約だなんて。随分突然じゃない? 彼氏が欲しいとか言ってなかったっけ」
「それがね、縁があったんだろうね。四年前に海外赴任のタイミングで別れた元カレなの」
「え、復縁したの⁉︎」
それに、初詣の約束が流れてから凌さんからは一切連絡もないし、私から彼に連絡をしてみる勇気もない。
(ダメだ。考えるのやめよう)
沈んだ気持ちのまま、美鳥の家がある最寄り駅で地下鉄を降り、駅前でお土産代わりのワインやチーズ、オリーブやバゲットなんかを買い込んだ。
「買い過ぎたかな」
ビニール袋がガサガサ鳴る音を、水気を多く含んだ雪が傘を叩く音で上書きするように掻き消していく。
手袋をしていない指先がジンジンして、寒さで耳も痛くなってきた。
白い息を吐きながら、記憶を頼りにしばらく歩き、住宅街の小さな公園を通り過ぎると、見慣れたマンションのポストが並ぶ軒下に入って傘をたたむ。
「めちゃくちゃ寒い」
バッグからスマホを取り出すと、すっかり悴んだ指先で画面をタップして、部屋番号が思い出せずにインターホンが押せないからと、美鳥にエントランスのドアを開けてもらう。
通話しながらエレベーターに乗り込むと、五階で降りて、エレベーターのすぐ近くの503号室のインターホンを押した。
「着いた。開けて」
『はいはい。ちょっと待ってね。今開ける』
そのタイミングで電話は切れ、スマホをバッグにしまうと、玄関が開いて美鳥がお疲れ様と顔を出した。
「やだ、なんか買ってきたの」
「うん。ワインとかおつまみをね」
「気を遣わなくて良いのに。ていうか寒かったでしょ、入って入って」
玄関に入って荷物を手渡し、ずぶ濡れになったブーツをなんとか脱いで部屋に上がると、部屋着を貸すから着替えろと美鳥に手を引かれて中に入る。
「うひゃ! 手、めっちゃ冷たいじゃない」
「手袋苦手なんだよね」
「すぐあったかいタオル用意するわ。相当寒かったでしょ。暖房効きにくいもん」
「美鳥が帰った時間より降ってたのかも」
「こんな日にごめんね」
「こっちこそ。あ、着替えありがとう」
「構わんよ」
美鳥はにっこり笑って寝室を出ると、私の好きなワインだとか騒ぎながら、キッチンでなにかし始めた。
リビングから入ってくる暖房の恩恵を受けながら、用意してもらったモコモコの部屋着に着替えると、泥が跳ねてしまったスカートを洗濯させて欲しいと美鳥の元へ向かう。
「スカートだけ、洗濯お願いして良いかな」
「大丈夫だよ。はいこれ、あったかいおしぼりね」
「わぁ、ありがとう」
蒸しタオルを用意してくれていたらしく、悴んでいた指先がじんわり暖かさを取り戻していく。
「なに突っ立ってんの。こたつに入ってて」
「ありがとう」
早速こたつに入ると、このところ気分が沈んでいたから、美鳥の何気ない気遣いに涙が込み上げそうになる。
「どうかしたの?」
「いや、大丈夫」
「そう? 今日は鍋にしたよ」
美鳥はテキパキと食器やカセットコンロを用意すると、キッチンで温めていた土鍋を持ってリビングに戻ってきた。
「とりあえず、最初はビールね。秋菜が買ってきてくれたワインは第二弾にしよう」
「了解」
缶ビールをグラスに注いで乾杯すると、鍋をつつきながら美鳥の結婚についてを改めて聞かせてもらう。
「それにしても、婚約だなんて。随分突然じゃない? 彼氏が欲しいとか言ってなかったっけ」
「それがね、縁があったんだろうね。四年前に海外赴任のタイミングで別れた元カレなの」
「え、復縁したの⁉︎」
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