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12.②
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『なんだよ。話くらい聞いてくれても良いだろ。今からお前んち行くからな、追い出そうとしても無駄だぞ』
「なに考えてんの、やめてよ」
『じゃあちゃんと話聞いてくれよ』
「嫌に決まってんでしょ。奥さんと話し合いなさい」
『あんな女、もう信用出来ねえよ』
大輔の言葉にまた凌さんの影がチラついて、胸の奥がギュッと痛む。もしかして、今頃彼女の方は凌さんに泣き縋ってるんだろうか。そんなことばかりが気になってしまう。
「とにかく、私には関係のない話よ。夫婦のことは二人で話して解決して。今は本当に手が離せないからもう切るよ」
『ちょっと待ってくれよ秋菜。俺が心配じゃないのかよ』
「これ以上話すことないから」
苛立ちを静かに収めて電話を切ると、通話中に届いていたのか、タイミングよく凌さんから届いたメッセージには、初詣に行けなくなったと短く事務的な文字が並んでいる。
「そんな……」
大輔の話が本当なら、果穂乃さんは凌さんの元に戻ったのかも知れない。
あんなに彼女に対して嫌悪感を抱いてた様子だったのに、やっぱり好きだった相手が戻って来た上に、お腹に自分の子どもがいるって聞かされたら気持ちが揺らぐんだろうか。
なにも信じられなくなって、しばらくその場から動けずに、廊下に置かれたベンチに座って呆然として過ごす。
パーティーでチラッと見ただけだけど、果穂乃さんは華やかで綺麗な人だったし、冷静に話し合えば凌さんだって考え直したかも知れない。
初詣に誘ってくれて、同情じゃないって言われたからって、二度も体を許してどこか有頂天になってたけど、私は大輔への失恋からなにも学んでない。
どうしてこうも盲目的に、好き以外が見えなくなってしまうんだろう。
虚しさで苦笑して溜め息を吐くと、いまだに大輔からの着信でうるさいスマホを握り締め、凌さんへのメッセージの返信を打ち込み、着信が途切れたタイミングで大輔をブロックする。
そして大きく深呼吸すると、文章を確認してから震える指で送信ボタンを押して凌さんに返事を送った。
結局私の恋は空回りしてる。
たかが二、三回会って話しただけの相手への感謝を、恋だなんて勘違いしてバカみたいにはしゃいでしまって恥ずかしい。
初詣のことだって、凌さんはあの場ではああ言ってくれたけど、やっぱり惨めな私を慰めたかっただけで、好意があるとかそういうことじゃなかったんだ。
「バカみたい」
声にして吐き出すと、乾いた笑いが漏れた。
三十にもなって恋の仕方すら分からない。
傷付いて落ち込んでる時に優しくされたからって、簡単に身も心も許すなんて。しかも凌さんの言葉や気遣いを、都合のいいように解釈してしまった。
だけどあの優しさまで嘘だとは思いたくないし、実際に凌さんは良い人だから、口から出た言葉や表情が作られたものだったとはやっぱり思えない。思いたくない。
「結局、私だけ空っぽだな」
今年は本当にとことんついてない。
もちろん相手がどうあれ、自分の恋愛に対する姿勢が悪いんだって分かってる。誰のせいでもなく自分が招いた結果だ。
「ちょっと秋菜、こんなところに居たの。探したわよ」
「ごめん、電話が長引いちゃって」
スマホを振って見せて、用事が終わってるのになかなか切ってくれなかったと適当に言い訳すると、美鳥が心配した顔で隣に座って私の顔を覗き込んでくる。
「どうかしたの。なんか元気ないけど」
「なんでもないよ。ちょっと面倒臭い電話だっただけ」
「そっか。まあ言いたくなったらいつでも話してよ」
「……ありがと」
気にはなってるんだろうけど、色々聞いてこない美鳥の気遣いに感謝してギュッとハグすると、何事もなかったように座敷に戻ってお酒を飲んだ。
何年振りか分からない深酒をして、案の定悪酔いした私は、タクシーに乗って自宅に帰ると、ベッドにダイブして以降記憶がないまま翌朝を迎えた。
「なに考えてんの、やめてよ」
『じゃあちゃんと話聞いてくれよ』
「嫌に決まってんでしょ。奥さんと話し合いなさい」
『あんな女、もう信用出来ねえよ』
大輔の言葉にまた凌さんの影がチラついて、胸の奥がギュッと痛む。もしかして、今頃彼女の方は凌さんに泣き縋ってるんだろうか。そんなことばかりが気になってしまう。
「とにかく、私には関係のない話よ。夫婦のことは二人で話して解決して。今は本当に手が離せないからもう切るよ」
『ちょっと待ってくれよ秋菜。俺が心配じゃないのかよ』
「これ以上話すことないから」
苛立ちを静かに収めて電話を切ると、通話中に届いていたのか、タイミングよく凌さんから届いたメッセージには、初詣に行けなくなったと短く事務的な文字が並んでいる。
「そんな……」
大輔の話が本当なら、果穂乃さんは凌さんの元に戻ったのかも知れない。
あんなに彼女に対して嫌悪感を抱いてた様子だったのに、やっぱり好きだった相手が戻って来た上に、お腹に自分の子どもがいるって聞かされたら気持ちが揺らぐんだろうか。
なにも信じられなくなって、しばらくその場から動けずに、廊下に置かれたベンチに座って呆然として過ごす。
パーティーでチラッと見ただけだけど、果穂乃さんは華やかで綺麗な人だったし、冷静に話し合えば凌さんだって考え直したかも知れない。
初詣に誘ってくれて、同情じゃないって言われたからって、二度も体を許してどこか有頂天になってたけど、私は大輔への失恋からなにも学んでない。
どうしてこうも盲目的に、好き以外が見えなくなってしまうんだろう。
虚しさで苦笑して溜め息を吐くと、いまだに大輔からの着信でうるさいスマホを握り締め、凌さんへのメッセージの返信を打ち込み、着信が途切れたタイミングで大輔をブロックする。
そして大きく深呼吸すると、文章を確認してから震える指で送信ボタンを押して凌さんに返事を送った。
結局私の恋は空回りしてる。
たかが二、三回会って話しただけの相手への感謝を、恋だなんて勘違いしてバカみたいにはしゃいでしまって恥ずかしい。
初詣のことだって、凌さんはあの場ではああ言ってくれたけど、やっぱり惨めな私を慰めたかっただけで、好意があるとかそういうことじゃなかったんだ。
「バカみたい」
声にして吐き出すと、乾いた笑いが漏れた。
三十にもなって恋の仕方すら分からない。
傷付いて落ち込んでる時に優しくされたからって、簡単に身も心も許すなんて。しかも凌さんの言葉や気遣いを、都合のいいように解釈してしまった。
だけどあの優しさまで嘘だとは思いたくないし、実際に凌さんは良い人だから、口から出た言葉や表情が作られたものだったとはやっぱり思えない。思いたくない。
「結局、私だけ空っぽだな」
今年は本当にとことんついてない。
もちろん相手がどうあれ、自分の恋愛に対する姿勢が悪いんだって分かってる。誰のせいでもなく自分が招いた結果だ。
「ちょっと秋菜、こんなところに居たの。探したわよ」
「ごめん、電話が長引いちゃって」
スマホを振って見せて、用事が終わってるのになかなか切ってくれなかったと適当に言い訳すると、美鳥が心配した顔で隣に座って私の顔を覗き込んでくる。
「どうかしたの。なんか元気ないけど」
「なんでもないよ。ちょっと面倒臭い電話だっただけ」
「そっか。まあ言いたくなったらいつでも話してよ」
「……ありがと」
気にはなってるんだろうけど、色々聞いてこない美鳥の気遣いに感謝してギュッとハグすると、何事もなかったように座敷に戻ってお酒を飲んだ。
何年振りか分からない深酒をして、案の定悪酔いした私は、タクシーに乗って自宅に帰ると、ベッドにダイブして以降記憶がないまま翌朝を迎えた。
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