46 / 84
12.①
しおりを挟む
仕事納めの当日、午前中には仕事を終えて午後からオフィスの大掃除を済ませると、そのまま会場へ直行して、社員全員が揃った賑やかな忘年会が始まった。
「今年も一年、よく頑張ってくれました。みんな飲み物は揃ってるな? それじゃあ、乾杯」
「乾杯!」
例に漏れず私もグラスを掲げて乾杯すると、キンキンに冷えたビールを喉に流し込む。
みんなと一年を振り返って話をしながら、本当にうっかりでも結婚の予定があるとか言ってなくて良かったと、浮かれてた過去の自分を恥じる。
大輔のことは、今となっては封印したい人生の黒歴史だ。
「ねえ秋菜、さっきからすごいスマホ鳴ってない? 私のじゃなかったっぽい」
「分かった。見てみるね」
座席の後ろに置いていたバッグを手に取ってスマホを取り出すと、夥しい数の着信にギョッとした。
表示されてる名前は近藤大輔。メッセージは二十件以上溜まってて、着信は今なお鳴り続けてる。
「ごめん、ちょっと電話してくるね」
座敷を離れて通路に移動すると、途切れては何度もかかり続けるスマホを見つめて溜め息を吐き、意を決して電話に出た。
「もしもし」
『お前、どんだけ待たせんだよ。やっとかよ』
聞き慣れた大輔の声は、お酒が入ってるのか少し乱暴で、電話に出た途端にキレた様子で言葉をぶつけられる。
「なに突然。酔ってるの」
『酔ってちゃ悪いのかよ。そもそも連絡よこさないお前が悪いんだろ』
あの一件以来、確かに私から大輔には一切連絡を取ってない。
「用事もないのに連絡する必要ないでしょ」
『なんだよお前、まだヤキモチ拗らせてんのかよ』
「……は?」
『俺と結婚出来なくてそんなに寂しいのかよ』
「そんなくだらないことで電話してきたなら切るよ。私これでも忙しいんだよ」
『待てよ。正直になれって』
「なんの話してるのか分かんないんだけど、正直になって良いならもう二度と電話して来ないで」
『はあ? なんでだよ』
「なんでって。少し考えたら分かるでしょ。いくら幼馴染みだからって、奥さんが知ったら良い気分する訳ないじゃない」
『良いんだよ。お前と俺は親友だろ、結婚したからってそれは変わらないはずだろ。お前を選ばなかったからってヤキモチ焼くなよ、機嫌直せって』
「大輔こそ、なにを勘違いしてんの? あんな約束を真に受けるはずないでしょ」
こんな男をずっと好きでいた自分が情けない。
『意地張るなって。秋菜』
「ねえ、何がしたいの? 要件があるなら簡潔にしてくれる?」
『実は果穂乃と喧嘩したんだけどさ、ハッタリなのか分かんないけど、子どもの父親は俺じゃないって今更言われて』
「は?」
『秋菜、俺どうしたら良い? どうしたら良いのか分かんなくて』
大輔の縋るような声を聞きつつ、頭の中には凌さんの姿が浮かんだ。
財布として扱われていたとは言ってたけど、付き合ってると思ってた訳だし、あれだけかっこいいんだから、そういう関係がなかったとは言い切れない。
じゃあ、果穂乃さんが言うお腹の子の父親って、もしかしたら凌さんなんじゃないか。そこに行き着いて一気に谷底に突き落とされた気分になった。
『……い、おい秋菜。聞いてんのかよ』
「聞いてる。奥さんの言ってることは本当なの? ちゃんと確認したの」
『知らねえよ。実家帰るって出てった。俺が趣味の車につぎ込んでることにもキレてたし、株で失敗して貯金もほとんどないの分かったら急に態度変えやがってさ』
「そんなの自業自得でしょ。子どものことだって、大輔がそんなだから口から出まかせ言ったんじゃないの」
『なあ秋菜、俺めっちゃ凹んでんだよ。会って話聞いてくれよ』
「会わないよ。奥さんと話し合いなさいよ」
『なんでそんな冷たいんだよ。そりゃ結果的に他の女と結婚したけど、間違いだって気付いたんだって。俺にはお前しか居ないんだよ、秋菜』
甘えて縋るような大輔の声に、一気にはらわたが煮えくり返ってくる。
「どう勘違いしてるのか知らないけど、私は大輔の持ち物じゃないの。そういう話なら、本当に迷惑だから二度と連絡して来ないで」
「今年も一年、よく頑張ってくれました。みんな飲み物は揃ってるな? それじゃあ、乾杯」
「乾杯!」
例に漏れず私もグラスを掲げて乾杯すると、キンキンに冷えたビールを喉に流し込む。
みんなと一年を振り返って話をしながら、本当にうっかりでも結婚の予定があるとか言ってなくて良かったと、浮かれてた過去の自分を恥じる。
大輔のことは、今となっては封印したい人生の黒歴史だ。
「ねえ秋菜、さっきからすごいスマホ鳴ってない? 私のじゃなかったっぽい」
「分かった。見てみるね」
座席の後ろに置いていたバッグを手に取ってスマホを取り出すと、夥しい数の着信にギョッとした。
表示されてる名前は近藤大輔。メッセージは二十件以上溜まってて、着信は今なお鳴り続けてる。
「ごめん、ちょっと電話してくるね」
座敷を離れて通路に移動すると、途切れては何度もかかり続けるスマホを見つめて溜め息を吐き、意を決して電話に出た。
「もしもし」
『お前、どんだけ待たせんだよ。やっとかよ』
聞き慣れた大輔の声は、お酒が入ってるのか少し乱暴で、電話に出た途端にキレた様子で言葉をぶつけられる。
「なに突然。酔ってるの」
『酔ってちゃ悪いのかよ。そもそも連絡よこさないお前が悪いんだろ』
あの一件以来、確かに私から大輔には一切連絡を取ってない。
「用事もないのに連絡する必要ないでしょ」
『なんだよお前、まだヤキモチ拗らせてんのかよ』
「……は?」
『俺と結婚出来なくてそんなに寂しいのかよ』
「そんなくだらないことで電話してきたなら切るよ。私これでも忙しいんだよ」
『待てよ。正直になれって』
「なんの話してるのか分かんないんだけど、正直になって良いならもう二度と電話して来ないで」
『はあ? なんでだよ』
「なんでって。少し考えたら分かるでしょ。いくら幼馴染みだからって、奥さんが知ったら良い気分する訳ないじゃない」
『良いんだよ。お前と俺は親友だろ、結婚したからってそれは変わらないはずだろ。お前を選ばなかったからってヤキモチ焼くなよ、機嫌直せって』
「大輔こそ、なにを勘違いしてんの? あんな約束を真に受けるはずないでしょ」
こんな男をずっと好きでいた自分が情けない。
『意地張るなって。秋菜』
「ねえ、何がしたいの? 要件があるなら簡潔にしてくれる?」
『実は果穂乃と喧嘩したんだけどさ、ハッタリなのか分かんないけど、子どもの父親は俺じゃないって今更言われて』
「は?」
『秋菜、俺どうしたら良い? どうしたら良いのか分かんなくて』
大輔の縋るような声を聞きつつ、頭の中には凌さんの姿が浮かんだ。
財布として扱われていたとは言ってたけど、付き合ってると思ってた訳だし、あれだけかっこいいんだから、そういう関係がなかったとは言い切れない。
じゃあ、果穂乃さんが言うお腹の子の父親って、もしかしたら凌さんなんじゃないか。そこに行き着いて一気に谷底に突き落とされた気分になった。
『……い、おい秋菜。聞いてんのかよ』
「聞いてる。奥さんの言ってることは本当なの? ちゃんと確認したの」
『知らねえよ。実家帰るって出てった。俺が趣味の車につぎ込んでることにもキレてたし、株で失敗して貯金もほとんどないの分かったら急に態度変えやがってさ』
「そんなの自業自得でしょ。子どものことだって、大輔がそんなだから口から出まかせ言ったんじゃないの」
『なあ秋菜、俺めっちゃ凹んでんだよ。会って話聞いてくれよ』
「会わないよ。奥さんと話し合いなさいよ」
『なんでそんな冷たいんだよ。そりゃ結果的に他の女と結婚したけど、間違いだって気付いたんだって。俺にはお前しか居ないんだよ、秋菜』
甘えて縋るような大輔の声に、一気にはらわたが煮えくり返ってくる。
「どう勘違いしてるのか知らないけど、私は大輔の持ち物じゃないの。そういう話なら、本当に迷惑だから二度と連絡して来ないで」
53
お気に入りに追加
135
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
優しい愛に包まれて~イケメンとの同居生活はドキドキの連続です~
けいこ
恋愛
人生に疲れ、自暴自棄になり、私はいろんなことから逃げていた。
してはいけないことをしてしまった自分を恥ながらも、この関係を断ち切れないままでいた。
そんな私に、ひょんなことから同居生活を始めた個性的なイケメン男子達が、それぞれに甘く優しく、大人の女の恋心をくすぐるような言葉をかけてくる…
ピアノが得意で大企業の御曹司、山崎祥太君、24歳。
有名大学に通い医師を目指してる、神田文都君、23歳。
美大生で画家志望の、望月颯君、21歳。
真っ直ぐで素直なみんなとの関わりの中で、ひどく冷め切った心が、ゆっくり溶けていくのがわかった。
家族、同居の女子達ともいろいろあって、大きく揺れ動く気持ちに戸惑いを隠せない。
こんな私でもやり直せるの?
幸せを願っても…いいの?
動き出す私の未来には、いったい何が待ち受けているの?


包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる