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12.①

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 仕事納めの当日、午前中には仕事を終えて午後からオフィスの大掃除を済ませると、そのまま会場へ直行して、社員全員が揃った賑やかな忘年会が始まった。
「今年も一年、よく頑張ってくれました。みんな飲み物は揃ってるな? それじゃあ、乾杯」
「乾杯!」
 例に漏れず私もグラスを掲げて乾杯すると、キンキンに冷えたビールを喉に流し込む。
 みんなと一年を振り返って話をしながら、本当にうっかりでも結婚の予定があるとか言ってなくて良かったと、浮かれてた過去の自分を恥じる。
 大輔のことは、今となっては封印したい人生の黒歴史だ。
「ねえ秋菜、さっきからすごいスマホ鳴ってない? 私のじゃなかったっぽい」
「分かった。見てみるね」
 座席の後ろに置いていたバッグを手に取ってスマホを取り出すと、おびただしい数の着信にギョッとした。
 表示されてる名前は近藤大輔。メッセージは二十件以上溜まってて、着信は今なお鳴り続けてる。
「ごめん、ちょっと電話してくるね」
 座敷を離れて通路に移動すると、途切れては何度もかかり続けるスマホを見つめて溜め息を吐き、意を決して電話に出た。
「もしもし」
『お前、どんだけ待たせんだよ。やっとかよ』
 聞き慣れた大輔の声は、お酒が入ってるのか少し乱暴で、電話に出た途端にキレた様子で言葉をぶつけられる。
「なに突然。酔ってるの」
『酔ってちゃ悪いのかよ。そもそも連絡よこさないお前が悪いんだろ』
 あの一件以来、確かに私から大輔には一切連絡を取ってない。
「用事もないのに連絡する必要ないでしょ」
『なんだよお前、まだヤキモチ拗らせてんのかよ』
「……は?」
『俺と結婚出来なくてそんなに寂しいのかよ』
「そんなくだらないことで電話してきたなら切るよ。私これでも忙しいんだよ」
『待てよ。正直になれって』
「なんの話してるのか分かんないんだけど、正直になって良いならもう二度と電話して来ないで」
『はあ? なんでだよ』
「なんでって。少し考えたら分かるでしょ。いくら幼馴染みだからって、奥さんが知ったら良い気分する訳ないじゃない」
『良いんだよ。お前と俺は親友だろ、結婚したからってそれは変わらないはずだろ。お前を選ばなかったからってヤキモチ焼くなよ、機嫌直せって』
「大輔こそ、なにを勘違いしてんの? あんな約束を真に受けるはずないでしょ」
 こんな男をずっと好きでいた自分が情けない。
『意地張るなって。秋菜』
「ねえ、何がしたいの? 要件があるなら簡潔にしてくれる?」
『実は果穂乃と喧嘩したんだけどさ、ハッタリなのか分かんないけど、子どもの父親は俺じゃないって今更言われて』
「は?」
『秋菜、俺どうしたら良い? どうしたら良いのか分かんなくて』
 大輔の縋るような声を聞きつつ、頭の中には凌さんの姿が浮かんだ。
 財布として扱われていたとは言ってたけど、付き合ってると思ってた訳だし、あれだけかっこいいんだから、そういう関係がなかったとは言い切れない。
 じゃあ、果穂乃さんが言うお腹の子の父親って、もしかしたら凌さんなんじゃないか。そこに行き着いて一気に谷底に突き落とされた気分になった。
『……い、おい秋菜。聞いてんのかよ』
「聞いてる。奥さんの言ってることは本当なの? ちゃんと確認したの」
『知らねえよ。実家帰るって出てった。俺が趣味の車につぎ込んでることにもキレてたし、株で失敗して貯金もほとんどないの分かったら急に態度変えやがってさ』
「そんなの自業自得でしょ。子どものことだって、大輔がそんなだから口から出まかせ言ったんじゃないの」
『なあ秋菜、俺めっちゃ凹んでんだよ。会って話聞いてくれよ』
「会わないよ。奥さんと話し合いなさいよ」
『なんでそんな冷たいんだよ。そりゃ結果的に他の女と結婚したけど、間違いだって気付いたんだって。俺にはお前しか居ないんだよ、秋菜』
 甘えて縋るような大輔の声に、一気にはらわたが煮えくり返ってくる。
「どう勘違いしてるのか知らないけど、私は大輔の持ち物じゃないの。そういう話なら、本当に迷惑だから二度と連絡して来ないで」
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