上 下
41 / 84

11.①

しおりを挟む
 駅前のビジネスホテルを何軒か回ったものの、部屋に空きがなく途方に暮れた様子の凌さんは、なにかを決意したように振り返って私の肩を掴んだ。
「散らかってるけど、俺んち行こっか」
「え、と……はい」
 どんな顔をして頷けばいいか分からなくて、返事をしてからそっぽ向くことになってしまった。
 混雑したタクシー乗り場を一瞥すると、電車で移動しようかと駅の構内に移動して改札を抜ける。
 緊張から会話もなく、ただ繋いだ手が、絡んだ指がとんでもなく熱い。
 ホームに到着した電車に乗り込むと、電車に揺られること二十分。相変わらず繋いだ手が熱く、にわかに色めき立つ気分を抑えられない。
 電車を降りて改札を抜けると、駅から五分ほど歩いてコンビニに寄り、なにもないからと飲み物を何本か買ってから凌さんの自宅に向かう。
 オシャレな低層マンションのエントランスを抜けると、オートロックの扉を抜け、ポストを確認した凌さんに続いてエレベーターに乗り込む。
「本当に散らかってるから、引かないでね」
「そんなにですか」
「そうなの」
 最上階の三階で降りると、廊下を進んで角部屋の前に立ち、凌さんが生体認証でドアロックを解除する。
「とりあえず玄関に入って待っててくれる?」
 そう言われて部屋の中に入ると、広々とした玄関にはウッドチェアが置かれていて、コートを脱ぐとすぐに、そこに座って待つようにと座らされた。
 先に中に入った凌さんは、バタバタとフロアモップをかけて部屋中を走り回り、換気のために窓を開けたのか、ひんやりとした空気が流れて込んでくる。
 そうして広い玄関で待つこと十分。ようやく納得がいったのか、凌さんはフロアモップを持ったまま玄関にやってくると、お待たせと苦笑した。
「さあ、上がって」
「お邪魔しますね」
 ブーツを脱いで出されたスリッパに履き替えると、先を行く凌さんを追ってリビングに入る。
「うわあ、凄く広いんですね」
 十畳以上は確実にありそうな広いリビングに、センスの良い家具が配置され、壁には額縁に入れられた写真やポスターが飾られている。
「あんまりしっかり見ないでね、隅々までは掃除出来てないから」
「分かりました」
  綺麗に拭いたからと、白い革張りのソファーに座るように声を掛けられ腰を下ろすと、コンビニで買ってきたペットボトルを手渡された。
「あ、グラス使う?」
「いえ。このままで大丈夫です」
 凌さんはごめんねと言いながら寝室へ向かい、慌ててシーツを取り替えてまだバタバタと動き回っている。
「あの、そんなに気を遣わなくて大丈夫ですよ」
「気を遣うっていうか、本当に掃除出来てなくて」
 一通り気になるところの掃除が済んだのか、凌さんはようやくソファーに腰を下ろすと、ペットボトルの炭酸水を一気に飲んで喉を鳴らす。
「お風呂入るよね、着替えは俺の服でも良いかな」
「ありがとうございます」
 お風呂とトイレだけは毎日掃除してるからと、凌さんは再び立ち上がって寝室に移動し、クローゼットから取り出した、今日話題に出たモコモコのパジャマを私に貸してくれる。
「バスタオルは洗面所にあるから、どれでも好きなの使ってね。それと洗うものがあれば、乾燥もかけちゃうから、洗濯機に放り込んでおいて」
「はい。じゃあ、お先にお風呂いただきますね」
 そう答えると、すぐにバスルームに向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜

白亜凛
恋愛
佐藤弥衣 25歳 yayoi × 月城尊 29歳 takeru 母が亡くなり、失意の中現れた謎の御曹司 彼は、母が持っていた指輪を探しているという。 指輪を巡る秘密を探し、 私、弥衣は、愛のない結婚をしようと思います。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

10 sweet wedding

国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。

二人の甘い夜は終わらない

藤谷藍
恋愛
*この作品の書籍化がアルファポリス社で現在進んでおります。正式に決定しますと6月13日にこの作品をウェブから引き下げとなりますので、よろしくご了承下さい* 年齢=恋人いない歴28年。多忙な花乃は、昔キッパリ振られているのに、初恋の彼がずっと忘れられない。いまだに彼を想い続けているそんな誕生日の夜、彼に面影がそっくりな男性と出会い、夢心地のまま酔った勢いで幸せな一夜を共に––––、なのに、初めての朝チュンでパニックになり、逃げ出してしまった。甘酸っぱい思い出のファーストラブ。幻の夢のようなセカンドラブ。優しい彼には逢うたびに心を持っていかれる。今も昔も、過剰なほど甘やかされるけど、この歳になって相変わらずな子供扱いも! そして極甘で強引な彼のペースに、花乃はみるみる絡め取られて……⁈ ちょっぴり個性派、花乃の初恋胸キュンラブです。

あまやかしても、いいですか?

藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。 「俺ね、ダメなんだ」 「あーもう、キスしたい」 「それこそだめです」  甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の 契約結婚生活とはこれいかに。

処理中です...