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10.④☆ 凌視点
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たわいない話をしてからお互いに読書の時間を楽しむと、結局のところ翌日の仕事に差し障るからと、小一時間ほどで店を出ることになった。
店を出て駅までの僅かな道のりも、秋菜ちゃんと一緒に居られるだけで楽しい時間で離れがたい気持ちが募っていく。
「お正月は実家?」
「そうですね。でも実家って言っても都内ですし、顔を出す程度です。凌さんは帰省するんですか」
「俺も都内だから、わざわざ正月だからって帰らないかも知れない」
「近いとそうなりますよね」
「だったら初詣一緒に行かない?」
「え、私とですか」
勢いで切り出したのは良いけど、やっぱり秋菜ちゃんは驚いた顔をして、戸惑ってるように見える。
「もちろん予定や都合はあるだろうし、ダメなら全然良いんだけど」
「やっぱり、凌さんって優しいですよね」
「俺が? なんでそうなるの」
「誘ってくださるのって、私に色んなことがあったからですよね。相手が幼馴染みだって話もしましたし。確かに実家に顔を出すのは憂鬱ですけど、一人でも割と大丈夫だと思うんで」
「でもそんな簡単に気持ちの整理はつかないよね」
「いえ、それが割と平気っていうか」
「そっか」
俺が秋菜ちゃんを気に掛けて誘ってると思われてるということは、やっぱり彼女がお人好しで、俺の誘いを断れずに付き合ってくれてるだけって事実に行き着いてしまった。
確かに最初は可哀想だと思わなかった訳じゃない。
少しずつ秋菜ちゃんの人となりに触れて、俺は俺なりに彼女と向き合ってるつもりだったけど、想いは一方通行でしかなかったってことだ。
どう言葉を繋いで良いかわからなくて、まあそうだよねと苦笑して話を切り上げようとすると、秋菜ちゃんが顔を真っ赤にして俺のコートをギュッと掴んだ。
「秋菜ちゃん?」
「その、可哀想とか同情から声を掛けてくれたなら、凌さんとは一緒に初詣には行けません。でも、普通に誘ってくださったなら……一緒に行きたいです」
顔は下を向いてしまったから様子が分からないけど、声が少し震えてる気がして、これはもしかしなくても秋菜ちゃんが勇気を出して答えてくれたことに気付いて俺の顔も赤くなる。
「ぃや、全然同情とかじゃないし」
慌て過ぎたせいで声がひっくり返ってしまう辺りが、本当に俺の残念なところだけど、こんな可愛い姿を見てしまったらなりふり構っていられない。だから咳払いして仕切り直す。
「でも秋菜ちゃんお人好しだから、俺が可哀想で断れないだけじゃない?」
「そんなことはないです。私、凌さんが思ってるほどお人好しじゃないですよ。嫌ならちゃんと断れますし」
「本当かな」
「本当です」
「分かったよ。じゃあ初詣に行こうか」
「はい。宜しくお願いします」
俺のコートを掴んでずっと俯いてた秋菜ちゃんが、ようやく顔を上げてニッコリ笑う。
(ダメだ。帰したくない)
思った瞬間に、すでに体が動いてた。
「凌、さん……」
「秋菜ちゃんごめん。やっぱり今夜は帰したくない」
抱き締めた腕の中の彼女を離すつもりはなかった。
店を出て駅までの僅かな道のりも、秋菜ちゃんと一緒に居られるだけで楽しい時間で離れがたい気持ちが募っていく。
「お正月は実家?」
「そうですね。でも実家って言っても都内ですし、顔を出す程度です。凌さんは帰省するんですか」
「俺も都内だから、わざわざ正月だからって帰らないかも知れない」
「近いとそうなりますよね」
「だったら初詣一緒に行かない?」
「え、私とですか」
勢いで切り出したのは良いけど、やっぱり秋菜ちゃんは驚いた顔をして、戸惑ってるように見える。
「もちろん予定や都合はあるだろうし、ダメなら全然良いんだけど」
「やっぱり、凌さんって優しいですよね」
「俺が? なんでそうなるの」
「誘ってくださるのって、私に色んなことがあったからですよね。相手が幼馴染みだって話もしましたし。確かに実家に顔を出すのは憂鬱ですけど、一人でも割と大丈夫だと思うんで」
「でもそんな簡単に気持ちの整理はつかないよね」
「いえ、それが割と平気っていうか」
「そっか」
俺が秋菜ちゃんを気に掛けて誘ってると思われてるということは、やっぱり彼女がお人好しで、俺の誘いを断れずに付き合ってくれてるだけって事実に行き着いてしまった。
確かに最初は可哀想だと思わなかった訳じゃない。
少しずつ秋菜ちゃんの人となりに触れて、俺は俺なりに彼女と向き合ってるつもりだったけど、想いは一方通行でしかなかったってことだ。
どう言葉を繋いで良いかわからなくて、まあそうだよねと苦笑して話を切り上げようとすると、秋菜ちゃんが顔を真っ赤にして俺のコートをギュッと掴んだ。
「秋菜ちゃん?」
「その、可哀想とか同情から声を掛けてくれたなら、凌さんとは一緒に初詣には行けません。でも、普通に誘ってくださったなら……一緒に行きたいです」
顔は下を向いてしまったから様子が分からないけど、声が少し震えてる気がして、これはもしかしなくても秋菜ちゃんが勇気を出して答えてくれたことに気付いて俺の顔も赤くなる。
「ぃや、全然同情とかじゃないし」
慌て過ぎたせいで声がひっくり返ってしまう辺りが、本当に俺の残念なところだけど、こんな可愛い姿を見てしまったらなりふり構っていられない。だから咳払いして仕切り直す。
「でも秋菜ちゃんお人好しだから、俺が可哀想で断れないだけじゃない?」
「そんなことはないです。私、凌さんが思ってるほどお人好しじゃないですよ。嫌ならちゃんと断れますし」
「本当かな」
「本当です」
「分かったよ。じゃあ初詣に行こうか」
「はい。宜しくお願いします」
俺のコートを掴んでずっと俯いてた秋菜ちゃんが、ようやく顔を上げてニッコリ笑う。
(ダメだ。帰したくない)
思った瞬間に、すでに体が動いてた。
「凌、さん……」
「秋菜ちゃんごめん。やっぱり今夜は帰したくない」
抱き締めた腕の中の彼女を離すつもりはなかった。
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