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9.⑤

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「香りの好き嫌いがあるかも知れないけど、うちの社員の子がオススメだって言うから、信じて買ってみました」
 それを教えてくれた社員っていうのは女性だろうかとモヤッとしたけど、私は凌さんの恋人でもなんでもないし、そんなことでモヤモヤしても仕方がない。
 それにしても、やっぱり彼の口ぶりだと、部下を持つ立場なんだろうか。同僚ならまだしも、うちの社員の子だなんてあんまり聞かない響きだ。
「ありがとうございます。寒くてもシャワーで済ませることが多いので、こういうのがあるとお風呂で寛げそうで嬉しいです。あ、そうだ。私からもあるんです、プレゼント」
「え? 今日は俺がお礼するつもりで」
「そうなんですけど、クリスマスですし。忙しいのに機会を作ってくださったお礼です」
 広げたプレゼントを片付けて、足元に置いてある手荷物から紙袋を掴むと、大した物じゃないのでと断りを入れて凌さんに手渡す。
「甘い物が苦手じゃない感じだったので、お口汚しですけど、私の会社の近くの洋菓子店の焼き菓子です。素朴な味で食べやすくて、私のオススメです」
「ありがとう。甘い物は好きだから嬉しいな。あれ? お菓子の他にもなにかあるね」
「あ、それは……このところ冷えるので、ストールと家履き用の靴下です。そんな上等な物じゃないですし、使わなかったら処分してもらって大丈夫なので」
「処分なんてしないよ。風呂上がりに仕事片付けて足が冷えることがよくあるからさ、こういうの凄く嬉しいよ。ストールも好きな色だ。本当にありがとう」
 凌さんのこの笑顔に、嘘があるとは思いたくない。
 それが証拠に、凌さんが実はモコモコのパジャマを持ってるという話になり、意外とファンシーな一面があると知って思わず笑ってしまった。
 そうして楽しく食事を終えて、そろそろこの楽しい時間も終わりなのかと寂しさを覚え始めると、なんだか落ち着かない様子で、凌さんが私を真正面から見つめて口を開いた。
「ねえ、秋菜ちゃん」
「はい」
「この後、場所を移動してもう少し話さない?」
「え、良いんですか」
「うん。お酒飲んじゃったから、ドライブとかは無理になっちゃったけど。夜遅くまでやってるカフェに行こうかと思うんだけど、どうかな」
「あ、また隠れ家カフェですか」
「うん。まあそんなところ」
「楽しみです。でもお仕事の方は大丈夫なんですか」
「そのために片付けて来たからね。秋菜ちゃんこそ、明日に響かないかな、電車のあるうちに帰れるように気を付けるけど」
「私は全然大丈夫です」
「じゃあ、とりあえず出ようか」
「はい」
 ここの支払いは譲らないという凌さんを困らせる訳にもいかず、スタッフに美味しかったですと伝えて店を出ると、ひんやりした空気を吸い込んで頭を冷やす。
「本当にご馳走になって良かったんでしょうか」
「気にしないで。お礼にデートをねだったのは俺だからね」
「では、お言葉に甘えますね。ご馳走様でした」
「いえいえ。じゃあ駅まで少し歩くけど大丈夫かな」
「平気ですよ」
 ガッツポーズをしてみせる私に笑顔を向けると、凌さんはさりげなく私の荷物を受け取って、二人で並んで駅までの道のりをゆっくり歩く。
 こうして久々に会うと、やっぱり凌さんはスラッと背が高く、隣に並んで歩いていると行き場を失った手が不意にぶつかってドキドキするし、それになんだか良い匂いがする。
 このドキドキの正体に気付いてるけど、まだ会って数回しか話をしたことがない相手に恋をするなんて変だろうか。
(いや、一晩共にしたけども)
 隣を歩く凌さんを見上げ、今日はオシャレしてきたんだとはにかんだ顔を思い出し、私のためにオシャレしてくれたんだろうかなんて、そんなことを考えていた。 
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