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9.③
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「あんなことがあったから、ゆっくりって言いたいところだけど、食事はお店を予約してあるんで、今からだと時間がギリギリなんだ」
「そうなんですね。分かりました」
すぐに移動して、凌さんが手配したらしいタクシーに乗り込むと、彼は運転手に声を掛けた。
「すみません、じゃあ出してください」
事前に行き先は伝えてあるのか、会話もないまま車が走り出す。
「ごめんね秋菜ちゃん。なんか凄くバタバタさせちゃって」
「いえいえ。こちらこそ気を遣っていただいて、お時間取らせてしまってごめんなさい」
「なに言ってんの。今日のお礼に関してはこっちが無理言ったんだし、謝らないでって」
タクシーの後部座席で頭を下げ合うと、ついおかしくなって二人で顔を見合わせて笑ってしまう。
蔵本さんのことを思い出したくなくて、出来るだけ明るい話題で雑談を交わしてると、凌さんもそれに気が付いているのか、明るい話題を選んでくれる。
どうやらようやく大きな仕事が片付いたらしく、ご機嫌な様子でニコニコしながら凌さんが色んな話をしてくれる。
彼のそんな表情に一喜一憂してることに気付いた私は、なんてお手軽な女だろうかと苦笑してしまう。
大輔のことがあって、恋愛なんてものをろくに経験してこなかった。
その上、凌さんはとんでもなく美貌の色男だ。
それなのにこんな風に自然体で向き合われると、私に好意があるから心を開いてくれてるのではと安易に勘違いしてしまう。
「どうかした?」
「いえ」
突然暗い顔をした私に、自分ばかりが喋ってたと謝ると、他意はないんだろうけど、凌さんは今日が楽しみだったと言って笑う。
「このところ仕事が本当に忙しくて。だから今日は秋菜ちゃんと会う予定だったし、それだけを楽しみに仕事頑張れたんだよね」
正月も休めるか分からないと続けるので、返事を返すタイミングを失ってしまうけど、聞き間違いじゃなければ、私と会うのが楽しみだったと言ったんだろうか。
そう思ってからハッとすると、前後の話を思い出す。
仕事漬けの日が続いていたからこそ、唯一息抜きになるような今日の食事会が、モチベを保つのに必要だったと解釈して胸のざわつきを落ち着ける。
「私もです。年末年始に向けてバタバタ忙しかったので、忘年会とは別に今日の予定が楽しみでした」
自分を戒めるように答えて凌さんを見ると、気のせいか少し彼のテンションが落ちたような気がする。
どこか居心地の悪い空気が漂う中、とりとめのない話をして移動すると、目的地に到着したらしくタクシーが住宅街で停車した。
「ここも秘密の隠れ家みたいなお店ですか」
「そう。俺はどうも人混みとか、ごちゃごちゃした感じが苦手でね」
どう見ても住宅街の一画で、そこに佇む落ち着いた雰囲気の建物は、看板のところだけ淡いライトが当たっていて、昼間なら気にも留めずに通り過ぎてしまいそうな感じがする。
「じゃあ、立ち話もなんだし入ろうか」
「はい」
凌さんが予約してくれたお店は、外観と違って内装がアットホームな感じで、外国の田舎町をイメージさせる可愛らしさのある素敵な雰囲気で少し驚いた。
「外から見るのと、だいぶ雰囲気が違うんですね」
「その顔は気に入ってくれたみたいだね」
対応に出てきたスタッフと短いやり取りをしてから、案内されるままコートを預け、予約してた席に二人で移動する。
「秋菜ちゃん、ワインはどうする」
「お酒はあまり詳しくないので、お任せして良いですか」
「そっか。じゃあオススメのワインにしようか」
「はい」
ガラス張りの窓際の席からは、ウッドデッキの先でライトアップされた、ガーデニングスペースが見渡せるようになっている。
その光景に思わず感動していると、そんなに気に入ったのかと凌さんが可笑しそうに笑った。
「ここにして正解だったかな」
「正解もなにも、凄く素敵なお店ですよ。よく予約取れましたね」
言ってからハッとして凌さんから視線を外し、本当に綺麗なお庭ですねとか言葉を濁してなんとか誤魔化してみる。
「そうなんですね。分かりました」
すぐに移動して、凌さんが手配したらしいタクシーに乗り込むと、彼は運転手に声を掛けた。
「すみません、じゃあ出してください」
事前に行き先は伝えてあるのか、会話もないまま車が走り出す。
「ごめんね秋菜ちゃん。なんか凄くバタバタさせちゃって」
「いえいえ。こちらこそ気を遣っていただいて、お時間取らせてしまってごめんなさい」
「なに言ってんの。今日のお礼に関してはこっちが無理言ったんだし、謝らないでって」
タクシーの後部座席で頭を下げ合うと、ついおかしくなって二人で顔を見合わせて笑ってしまう。
蔵本さんのことを思い出したくなくて、出来るだけ明るい話題で雑談を交わしてると、凌さんもそれに気が付いているのか、明るい話題を選んでくれる。
どうやらようやく大きな仕事が片付いたらしく、ご機嫌な様子でニコニコしながら凌さんが色んな話をしてくれる。
彼のそんな表情に一喜一憂してることに気付いた私は、なんてお手軽な女だろうかと苦笑してしまう。
大輔のことがあって、恋愛なんてものをろくに経験してこなかった。
その上、凌さんはとんでもなく美貌の色男だ。
それなのにこんな風に自然体で向き合われると、私に好意があるから心を開いてくれてるのではと安易に勘違いしてしまう。
「どうかした?」
「いえ」
突然暗い顔をした私に、自分ばかりが喋ってたと謝ると、他意はないんだろうけど、凌さんは今日が楽しみだったと言って笑う。
「このところ仕事が本当に忙しくて。だから今日は秋菜ちゃんと会う予定だったし、それだけを楽しみに仕事頑張れたんだよね」
正月も休めるか分からないと続けるので、返事を返すタイミングを失ってしまうけど、聞き間違いじゃなければ、私と会うのが楽しみだったと言ったんだろうか。
そう思ってからハッとすると、前後の話を思い出す。
仕事漬けの日が続いていたからこそ、唯一息抜きになるような今日の食事会が、モチベを保つのに必要だったと解釈して胸のざわつきを落ち着ける。
「私もです。年末年始に向けてバタバタ忙しかったので、忘年会とは別に今日の予定が楽しみでした」
自分を戒めるように答えて凌さんを見ると、気のせいか少し彼のテンションが落ちたような気がする。
どこか居心地の悪い空気が漂う中、とりとめのない話をして移動すると、目的地に到着したらしくタクシーが住宅街で停車した。
「ここも秘密の隠れ家みたいなお店ですか」
「そう。俺はどうも人混みとか、ごちゃごちゃした感じが苦手でね」
どう見ても住宅街の一画で、そこに佇む落ち着いた雰囲気の建物は、看板のところだけ淡いライトが当たっていて、昼間なら気にも留めずに通り過ぎてしまいそうな感じがする。
「じゃあ、立ち話もなんだし入ろうか」
「はい」
凌さんが予約してくれたお店は、外観と違って内装がアットホームな感じで、外国の田舎町をイメージさせる可愛らしさのある素敵な雰囲気で少し驚いた。
「外から見るのと、だいぶ雰囲気が違うんですね」
「その顔は気に入ってくれたみたいだね」
対応に出てきたスタッフと短いやり取りをしてから、案内されるままコートを預け、予約してた席に二人で移動する。
「秋菜ちゃん、ワインはどうする」
「お酒はあまり詳しくないので、お任せして良いですか」
「そっか。じゃあオススメのワインにしようか」
「はい」
ガラス張りの窓際の席からは、ウッドデッキの先でライトアップされた、ガーデニングスペースが見渡せるようになっている。
その光景に思わず感動していると、そんなに気に入ったのかと凌さんが可笑しそうに笑った。
「ここにして正解だったかな」
「正解もなにも、凄く素敵なお店ですよ。よく予約取れましたね」
言ってからハッとして凌さんから視線を外し、本当に綺麗なお庭ですねとか言葉を濁してなんとか誤魔化してみる。
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