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9.②
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「ババアのくせに純情ぶりやがって。お前が大騒ぎしたせいで、なんで俺が地方に飛ばされなきゃいけないんだよ!」
蔵本さんは支離滅裂な言動で、怒りに任せて私の腕を捻り上げ、ついには私の顎を掴んで壁に体を押し付ける。
「お前の……お前のせいで!」
「なにしてるんだ‼︎」
一際背の高いシルエットが飛び込んできたかと思うと、凌さんは咄嗟に蔵本さんの腕を掴み、今度は彼が蔵本さんの腕を締め上げた。
痛みに悶絶する蔵本さんの裏膝を突き、そのまま膝を折らせると、地べたに突っ伏して叫び始めた蔵本さんに向かって、現行犯なら民間人でも逮捕は出来ると厳しい言葉を浴びせる。
「彼女に二度と付き纏うなと言いましたよね」
「うるせえ!」
「はあ……、仕方ないですね。私の知り合いに賀茂屋百貨店の橘常務がいらっしゃるので、ちょっと今から付き合ってもらいます」
「な、なんなんだアンタ」
「聞こえなかったんですか? 彼女には二度と付き纏うなと言いましたよね」
「まさかお前、あの時の奴か。ハッ、どうせハッタリだろ。本当に常務と知り合いなら、俺を突き出してみろよ!」
「そうですか。ではお望み通り、今すぐに手配します」
片手でスマホを操作すると、凌さんはどこかに電話をかけているらしく、その間に蔵本さんが逃げられないよう、体重をかけて抑え込んでいる。
「突然申し訳ありません。先日ご相談した件です。はい、警察にはまだ通報してません。出来れば回収をお願いしたいのですが。はい、住所は……」
凌さんの様子から、先程口にした通り、彼には本当に賀茂屋百貨店の重役にコネクションがあるのだろう。
凌さんが電話を切ってからも、大声で叫び続け、暴れようとする蔵本さんを抑え付けて拘束し、その場で待機すること二十分。
一台の車が到着して、中から男性が一人降りてきた。
「鈴浦さん、この度は弊社の社員がとんだご迷惑を」
「私は止めに入っただけで、被害者は彼女です。彼女の会社から報告があったと聞いていますが」
「重ね重ね申し訳ありません」
「細かいことは後日ということで、とりあえず彼の回収をお願いします」
「大変ご迷惑をお掛けしました」
男性は恭しく頭を下げると、青ざめた顔の蔵本さんの手を引いて乱暴に車に乗せた。
「謝罪は後日、改めましてお時間を取らせていただきます。本当に、申し訳ございません」
「いえ。こちらこそ、早急にご対応くださってありがとうございました。橘常務にくれぐれもよろしくお伝えください」
凌さんに続いて私も頭を下げると、男性は改めて頭を下げてから車に乗り込み、その場を去っていった。
「やれやれ。秋菜ちゃん、本当に災難だったね」
「来てくれてありがとうございました」
「いや、怖い思いをさせてごめんね」
「凌さんが謝ることじゃないです」
「うん。でも、今回のことで、もう二度と付き纏われることはないと思う。とりあえず先方の対応を待つしかないけど、大丈夫だと思う」
「ありがとうございます」
「ううん。乱暴にされて怖かったでしょ」
凌さんは私の頬に手を添えると、痛かったよねと悲しそうな顔をする。
正直、凌さんが間に合わなかったら、顔に痣の一つでもつけられていたかも知れない。それくらい蔵本さんは感情的になっていた。
ようやく緊張が解け、一気に込み上げてきた恐怖に体を震わせると、凌さんは黙って私を抱き締め、優しく背中をさすってくれた。
蔵本さんは支離滅裂な言動で、怒りに任せて私の腕を捻り上げ、ついには私の顎を掴んで壁に体を押し付ける。
「お前の……お前のせいで!」
「なにしてるんだ‼︎」
一際背の高いシルエットが飛び込んできたかと思うと、凌さんは咄嗟に蔵本さんの腕を掴み、今度は彼が蔵本さんの腕を締め上げた。
痛みに悶絶する蔵本さんの裏膝を突き、そのまま膝を折らせると、地べたに突っ伏して叫び始めた蔵本さんに向かって、現行犯なら民間人でも逮捕は出来ると厳しい言葉を浴びせる。
「彼女に二度と付き纏うなと言いましたよね」
「うるせえ!」
「はあ……、仕方ないですね。私の知り合いに賀茂屋百貨店の橘常務がいらっしゃるので、ちょっと今から付き合ってもらいます」
「な、なんなんだアンタ」
「聞こえなかったんですか? 彼女には二度と付き纏うなと言いましたよね」
「まさかお前、あの時の奴か。ハッ、どうせハッタリだろ。本当に常務と知り合いなら、俺を突き出してみろよ!」
「そうですか。ではお望み通り、今すぐに手配します」
片手でスマホを操作すると、凌さんはどこかに電話をかけているらしく、その間に蔵本さんが逃げられないよう、体重をかけて抑え込んでいる。
「突然申し訳ありません。先日ご相談した件です。はい、警察にはまだ通報してません。出来れば回収をお願いしたいのですが。はい、住所は……」
凌さんの様子から、先程口にした通り、彼には本当に賀茂屋百貨店の重役にコネクションがあるのだろう。
凌さんが電話を切ってからも、大声で叫び続け、暴れようとする蔵本さんを抑え付けて拘束し、その場で待機すること二十分。
一台の車が到着して、中から男性が一人降りてきた。
「鈴浦さん、この度は弊社の社員がとんだご迷惑を」
「私は止めに入っただけで、被害者は彼女です。彼女の会社から報告があったと聞いていますが」
「重ね重ね申し訳ありません」
「細かいことは後日ということで、とりあえず彼の回収をお願いします」
「大変ご迷惑をお掛けしました」
男性は恭しく頭を下げると、青ざめた顔の蔵本さんの手を引いて乱暴に車に乗せた。
「謝罪は後日、改めましてお時間を取らせていただきます。本当に、申し訳ございません」
「いえ。こちらこそ、早急にご対応くださってありがとうございました。橘常務にくれぐれもよろしくお伝えください」
凌さんに続いて私も頭を下げると、男性は改めて頭を下げてから車に乗り込み、その場を去っていった。
「やれやれ。秋菜ちゃん、本当に災難だったね」
「来てくれてありがとうございました」
「いや、怖い思いをさせてごめんね」
「凌さんが謝ることじゃないです」
「うん。でも、今回のことで、もう二度と付き纏われることはないと思う。とりあえず先方の対応を待つしかないけど、大丈夫だと思う」
「ありがとうございます」
「ううん。乱暴にされて怖かったでしょ」
凌さんは私の頬に手を添えると、痛かったよねと悲しそうな顔をする。
正直、凌さんが間に合わなかったら、顔に痣の一つでもつけられていたかも知れない。それくらい蔵本さんは感情的になっていた。
ようやく緊張が解け、一気に込み上げてきた恐怖に体を震わせると、凌さんは黙って私を抱き締め、優しく背中をさすってくれた。
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