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6.②
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「いやいや、うちの顧客は確かに女性の割合が多いけど、革製品の方は男性向けのアプローチがまだまだ出来るし、風呂敷や手拭いだって需要はあるよ」
「まあ確かにね」
「ターコイズウィングさんは勢いがあるから、コラボすることでうちにもメリットは充分ある」
美鳥はそう言うと、明日のやり取りがスムーズに行くように詳細を詰めて説明し始める。だから私も逐一質問し、必要なことをペンで書き込んで三十分ほどの打ち合わせは終了した。
「こんなところかな」
「そうだね。万が一、美鳥が同席出来なくても大丈夫な程度には確認出来た」
「おやおや。そんなに私が邪魔ですか」
「そういう意味じゃないって」
「ふふ。冗談だよ。あ、ターコイズウィングさんといえば、社長がめちゃくちゃイケメンらしいよ」
「へえ」
「なにそのうっすい反応」
「だって。顔で仕事する訳じゃないでしょ」
「なに言ってんの。新たな出会いになるかも知れないじゃない! あ、企画の北原さんもかっこいいけど、ご結婚されてるんだよね」
「……美鳥、あんた仕事中になに考えてんの」
「違う違う。営業として、取引先の情報は話の切っ掛けになるから聞いてるだけだってば」
「はあ、そうですか」
「あ、ちょっと秋菜!」
またどうでもいい話をし始める美鳥を置いてデスクに戻ると、企画の概要を見ながらネットでターコイズウィングについて検索する。
カジュアルな普段使いの物からスーツや靴、小物に至るまで、海外のブランドと提携したりもしているらしく、ショップはオンラインを中心に、全国に実店舗を七軒展開しているようだ。
「メンズアパレルか」
そういえば、凌さんもアパレル関係の仕事をしてると言っていた。
こんな風につい思い出してしまうなんて、痛い女だと自覚はしている。だけどあんな夜を過ごしたっていうのに、連絡先の一つも交換しなかった時点で、あの晩限りと見切りをつけられたんだろう。
(凌さん、イイ男だもんな。大輔の嫁には捨てられたみたいだけど)
いまだにそれが信じられなくてモヤモヤしてしまう。
言いにくいけれど、セックスだって最高に気持ちが良かった。それは認めざるを得ない事実だ。
確かに大輔と比べたら違うタイプだし、人それぞれ好みがあるから、フラれることもあるのかも知れないけれど、私からしてみれば、凌さんは大輔なんかとは比べ物にならない。
気を抜くとまたそんなことに執着してしまう自分を叱咤すると、気持ちを切り替えて明日のためのサンプル資料を作成する。
小一時間ほど掛り切りになってキーボードを叩いていると、終業間近になってから取引先の電話対応に追われているうちに定時になった。
「秋菜、もう上がれる?」
「どうかしたの」
「いい店見つけたから、ご飯でもどうかなって」
「いいね。明日の資料もまとめたし、うん。もう上がれるよ」
「よし。じゃあ一緒に出よう」
先に帰り支度を始めた美鳥を追うように、デスク周りを整頓して綺麗に片付けると、社長や他の社員に挨拶を済ませてオフィスを出た。
「ヤバッ、寒い」
「本当に冷えるね」
ぐるぐる巻きにしたストールを掴んで白い息を吐くと、雨が降ってきそうな曇り空を見上げる。
「ここから駅三つなんだけどさ」
「ああ。見つけたっていうお店?」
「ワインが美味しいシーフードーバルなんだけど、ダメじゃなかったよね」
「うん。大好物」
「よしよし。じゃあとりあえず駅まで行こう」
雪でも降りそうだと雑談しながら駅までの道を歩くと、駅前の商店街のアーケードを抜けて、居酒屋を眺めながら鍋も良いよねと話が盛り上がる。
地下鉄で目的の駅に向かうと、美鳥が予約を取っていてくれたおかげで、そこそこ賑わっている店の個室を利用できることになった。
「まあ確かにね」
「ターコイズウィングさんは勢いがあるから、コラボすることでうちにもメリットは充分ある」
美鳥はそう言うと、明日のやり取りがスムーズに行くように詳細を詰めて説明し始める。だから私も逐一質問し、必要なことをペンで書き込んで三十分ほどの打ち合わせは終了した。
「こんなところかな」
「そうだね。万が一、美鳥が同席出来なくても大丈夫な程度には確認出来た」
「おやおや。そんなに私が邪魔ですか」
「そういう意味じゃないって」
「ふふ。冗談だよ。あ、ターコイズウィングさんといえば、社長がめちゃくちゃイケメンらしいよ」
「へえ」
「なにそのうっすい反応」
「だって。顔で仕事する訳じゃないでしょ」
「なに言ってんの。新たな出会いになるかも知れないじゃない! あ、企画の北原さんもかっこいいけど、ご結婚されてるんだよね」
「……美鳥、あんた仕事中になに考えてんの」
「違う違う。営業として、取引先の情報は話の切っ掛けになるから聞いてるだけだってば」
「はあ、そうですか」
「あ、ちょっと秋菜!」
またどうでもいい話をし始める美鳥を置いてデスクに戻ると、企画の概要を見ながらネットでターコイズウィングについて検索する。
カジュアルな普段使いの物からスーツや靴、小物に至るまで、海外のブランドと提携したりもしているらしく、ショップはオンラインを中心に、全国に実店舗を七軒展開しているようだ。
「メンズアパレルか」
そういえば、凌さんもアパレル関係の仕事をしてると言っていた。
こんな風につい思い出してしまうなんて、痛い女だと自覚はしている。だけどあんな夜を過ごしたっていうのに、連絡先の一つも交換しなかった時点で、あの晩限りと見切りをつけられたんだろう。
(凌さん、イイ男だもんな。大輔の嫁には捨てられたみたいだけど)
いまだにそれが信じられなくてモヤモヤしてしまう。
言いにくいけれど、セックスだって最高に気持ちが良かった。それは認めざるを得ない事実だ。
確かに大輔と比べたら違うタイプだし、人それぞれ好みがあるから、フラれることもあるのかも知れないけれど、私からしてみれば、凌さんは大輔なんかとは比べ物にならない。
気を抜くとまたそんなことに執着してしまう自分を叱咤すると、気持ちを切り替えて明日のためのサンプル資料を作成する。
小一時間ほど掛り切りになってキーボードを叩いていると、終業間近になってから取引先の電話対応に追われているうちに定時になった。
「秋菜、もう上がれる?」
「どうかしたの」
「いい店見つけたから、ご飯でもどうかなって」
「いいね。明日の資料もまとめたし、うん。もう上がれるよ」
「よし。じゃあ一緒に出よう」
先に帰り支度を始めた美鳥を追うように、デスク周りを整頓して綺麗に片付けると、社長や他の社員に挨拶を済ませてオフィスを出た。
「ヤバッ、寒い」
「本当に冷えるね」
ぐるぐる巻きにしたストールを掴んで白い息を吐くと、雨が降ってきそうな曇り空を見上げる。
「ここから駅三つなんだけどさ」
「ああ。見つけたっていうお店?」
「ワインが美味しいシーフードーバルなんだけど、ダメじゃなかったよね」
「うん。大好物」
「よしよし。じゃあとりあえず駅まで行こう」
雪でも降りそうだと雑談しながら駅までの道を歩くと、駅前の商店街のアーケードを抜けて、居酒屋を眺めながら鍋も良いよねと話が盛り上がる。
地下鉄で目的の駅に向かうと、美鳥が予約を取っていてくれたおかげで、そこそこ賑わっている店の個室を利用できることになった。
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