2 / 84
1.①
しおりを挟む
肌寒い日が増えてきて、ようやく冬の気配が濃くなってきた十一月の金曜日。
幼馴染みの結婚披露パーティーに参加するために、仕事は午後から半休を取った。
その足でヘアサロンとネイルサロンを梯子して、もう着ることもないだろうシックな印象のドレスに身を包む。
「ん。こんなもんかな」
鏡を確認して小さく溜め息を吐き出すと、なんでこんなことになったのかと、情けなさで泣きたくなった。
私には、お互い三十まで独身だったら結婚しようなんて口約束を交わす幼馴染みが居た。
今日はその幼馴染みの結婚披露パーティーだ。
ことの発端はひと月前。
この十年近く続けてきた月に一度の飲み会で、アイツはバツが悪そうに打ち明けた。
『ごめん。子どもが出来た』
その言葉はまさに青天の霹靂だった。
だって私の三十の誕生日はもう目前だというのに。
私の幼馴染みこと近藤大輔は、爽やかなスポーツマンタイプの男で、根っからの体育会系でノリがいい。
この二年、恋人がなかなか出来ないと、お酒を飲んではよく愚痴るようになり、もう俺たち結婚しようなんて戯言をよく口にするようになっていた。
私は私で四年近く恋人がいないこともあり、気心知れた大輔の言葉に絆されてしまったのが運の尽き。
結婚情報サイトを二人で眺め、地味でも慎ましやかな結婚式を挙げようと、なんだかんだで彼と結婚する気になっていた。
「それがちゃっかり授かり婚ってどういうことよ」
大輔は私に結婚の話をしながら、私には指一本触れずに、他の女を抱いていたということだ。
女癖が悪いタイプではないと思っていたけど、それ以前に、私が大輔に女として見られていなかった事実を認めるのが悔しかった。
だからこそ、私は精一杯の虚勢を張ってオシャレをして、普段しないネイルだってサロンに行って綺麗に整えてもらってこの場所にやって来た。
貸切のダイニングバーは、店内のレイアウトを変えてあるらしく、華やかなパーティーの空気に嫌でも現実を突きつけられる。
大々的な披露宴じゃないのは、妊娠してる新婦を気遣ってのことらしい。
お酒も振る舞われる賑やかな席だというのに、きっと私だけが沈んだ気持ちでいる。
「なんで来たかなぁ」
キリキリと痛む胃の辺りをさすりながら情けなく呟いた独り言は、盛り上がる会場の空気に呑み込まれていく。
それが証拠に、誰もが入れ替わり立ち替わりお祝いの言葉をかけるために席を外しているのに、辛気臭くフロアの隅に置かれたテーブルに座って、俯いたままその場から一歩も動けない。
(やっぱり、来るんじゃなかったかな)
後悔に押し潰されそうになりながら、賑やかな会場の空気に呑まれていると、それまでとは少し違うざわめきが生まれて辺りな空気が一変した。
「なにかあったの、バレバレですよ」
それまで空席だったはずの隣に誰かが腰を下ろした。
その人物と肩が触れ、私にだけ聞こえる小さくて低めのハスキーな声は、呆れなのか慰めなのか分からないものが滲んでる。
「ねえ、凄く悪目立ちしてるよ」
諭すようにそう言われてハッとした。
声の感じからして面識のない人のはずなのに、私自身が今の自分を挙動不審だと思い落ち込んでいるからか、その言葉が心の奥に小さな棘のように刺さった。
「俯いてないで、顔上げなよ」
角が取れて丸みのある爽やかな香りがふわりと鼻先を掠めると、続け様に鼓舞する言葉が聞こえて、咄嗟に口角を上げて正面を向いた。
「二人、幸せそうな顔してるよね」
「そう、ですね」
幼馴染みの結婚披露パーティーに参加するために、仕事は午後から半休を取った。
その足でヘアサロンとネイルサロンを梯子して、もう着ることもないだろうシックな印象のドレスに身を包む。
「ん。こんなもんかな」
鏡を確認して小さく溜め息を吐き出すと、なんでこんなことになったのかと、情けなさで泣きたくなった。
私には、お互い三十まで独身だったら結婚しようなんて口約束を交わす幼馴染みが居た。
今日はその幼馴染みの結婚披露パーティーだ。
ことの発端はひと月前。
この十年近く続けてきた月に一度の飲み会で、アイツはバツが悪そうに打ち明けた。
『ごめん。子どもが出来た』
その言葉はまさに青天の霹靂だった。
だって私の三十の誕生日はもう目前だというのに。
私の幼馴染みこと近藤大輔は、爽やかなスポーツマンタイプの男で、根っからの体育会系でノリがいい。
この二年、恋人がなかなか出来ないと、お酒を飲んではよく愚痴るようになり、もう俺たち結婚しようなんて戯言をよく口にするようになっていた。
私は私で四年近く恋人がいないこともあり、気心知れた大輔の言葉に絆されてしまったのが運の尽き。
結婚情報サイトを二人で眺め、地味でも慎ましやかな結婚式を挙げようと、なんだかんだで彼と結婚する気になっていた。
「それがちゃっかり授かり婚ってどういうことよ」
大輔は私に結婚の話をしながら、私には指一本触れずに、他の女を抱いていたということだ。
女癖が悪いタイプではないと思っていたけど、それ以前に、私が大輔に女として見られていなかった事実を認めるのが悔しかった。
だからこそ、私は精一杯の虚勢を張ってオシャレをして、普段しないネイルだってサロンに行って綺麗に整えてもらってこの場所にやって来た。
貸切のダイニングバーは、店内のレイアウトを変えてあるらしく、華やかなパーティーの空気に嫌でも現実を突きつけられる。
大々的な披露宴じゃないのは、妊娠してる新婦を気遣ってのことらしい。
お酒も振る舞われる賑やかな席だというのに、きっと私だけが沈んだ気持ちでいる。
「なんで来たかなぁ」
キリキリと痛む胃の辺りをさすりながら情けなく呟いた独り言は、盛り上がる会場の空気に呑み込まれていく。
それが証拠に、誰もが入れ替わり立ち替わりお祝いの言葉をかけるために席を外しているのに、辛気臭くフロアの隅に置かれたテーブルに座って、俯いたままその場から一歩も動けない。
(やっぱり、来るんじゃなかったかな)
後悔に押し潰されそうになりながら、賑やかな会場の空気に呑まれていると、それまでとは少し違うざわめきが生まれて辺りな空気が一変した。
「なにかあったの、バレバレですよ」
それまで空席だったはずの隣に誰かが腰を下ろした。
その人物と肩が触れ、私にだけ聞こえる小さくて低めのハスキーな声は、呆れなのか慰めなのか分からないものが滲んでる。
「ねえ、凄く悪目立ちしてるよ」
諭すようにそう言われてハッとした。
声の感じからして面識のない人のはずなのに、私自身が今の自分を挙動不審だと思い落ち込んでいるからか、その言葉が心の奥に小さな棘のように刺さった。
「俯いてないで、顔上げなよ」
角が取れて丸みのある爽やかな香りがふわりと鼻先を掠めると、続け様に鼓舞する言葉が聞こえて、咄嗟に口角を上げて正面を向いた。
「二人、幸せそうな顔してるよね」
「そう、ですね」
42
お気に入りに追加
136
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜
雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。
【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】
☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆
※ベリーズカフェでも掲載中
※推敲、校正前のものです。ご注意下さい
恋とキスは背伸びして
葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員
成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長
年齢差 9歳
身長差 22㎝
役職 雲泥の差
この違い、恋愛には大きな壁?
そして同期の卓の存在
異性の親友は成立する?
数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの
二人の恋の物語
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ネカフェ難民してたら鬼上司に拾われました
瀬崎由美
恋愛
穂香は、付き合って一年半の彼氏である栄悟と同棲中。でも、一緒に住んでいたマンションへと帰宅すると、家の中はほぼもぬけの殻。家具や家電と共に姿を消した栄悟とは連絡が取れない。彼が持っているはずの合鍵の行方も分からないから怖いと、ビジネスホテルやネットカフェを転々とする日々。そんな穂香の事情を知ったオーナーが自宅マンションの空いている部屋に居候することを提案してくる。一緒に住むうち、怖くて仕事に厳しい完璧イケメンで近寄りがたいと思っていたオーナーがド天然なのことを知った穂香。居候しながら彼のフォローをしていくうちに、その意外性に惹かれていく。
独占欲強めな極上エリートに甘く抱き尽くされました
紡木さぼ
恋愛
旧題:婚約破棄されたワケアリ物件だと思っていた会社の先輩が、実は超優良物件でどろどろに溺愛されてしまう社畜の話
平凡な社畜OLの藤井由奈(ふじいゆな)が残業に勤しんでいると、5年付き合った婚約者と破談になったとの噂があるハイスペ先輩柚木紘人(ゆのきひろと)に声をかけられた。
サシ飲みを経て「会社の先輩後輩」から「飲み仲間」へと昇格し、飲み会中に甘い空気が漂い始める。
恋愛がご無沙汰だった由奈は次第に紘人に心惹かれていき、紘人もまた由奈を可愛がっているようで……
元カノとはどうして別れたの?社内恋愛は面倒?紘人は私のことどう思ってる?
社会人ならではのじれったい片思いの果てに晴れて恋人同士になった2人。
「俺、めちゃくちゃ独占欲強いし、ずっと由奈のこと抱き尽くしたいって思ってた」
ハイスペなのは仕事だけではなく、彼のお家で、オフィスで、旅行先で、どろどろに愛されてしまう。
仕事中はあんなに冷静なのに、由奈のことになると少し甘えん坊になってしまう、紘人とらぶらぶ、元カノの登場でハラハラ。
ざまぁ相手は紘人の元カノです。
不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました
入海月子
恋愛
有本瑞希
仕事に燃える設計士 27歳
×
黒瀬諒
飄々として軽い一級建築士 35歳
女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。
彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。
ある日、同僚のミスが発覚して――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる