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1.①

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 肌寒い日が増えてきて、ようやく冬の気配が濃くなってきた十一月の金曜日。
 幼馴染みの結婚披露パーティーに参加するために、仕事は午後から半休を取った。
 その足でヘアサロンとネイルサロンを梯子して、もう着ることもないだろうシックな印象のドレスに身を包む。
「ん。こんなもんかな」
 鏡を確認して小さく溜め息を吐き出すと、なんでこんなことになったのかと、情けなさで泣きたくなった。
 私には、お互い三十まで独身だったら結婚しようなんて口約束を交わす幼馴染みが居た。
 今日はその幼馴染みの結婚披露パーティーだ。
 ことの発端はひと月前。
 この十年近く続けてきた月に一度の飲み会で、アイツはバツが悪そうに打ち明けた。
『ごめん。子どもが出来た』
 その言葉はまさに青天の霹靂だった。
 だって私の三十の誕生日はもう目前だというのに。
 私の幼馴染みこと近藤こんどう大輔だいすけは、爽やかなスポーツマンタイプの男で、根っからの体育会系でノリがいい。
 この二年、恋人がなかなか出来ないと、お酒を飲んではよく愚痴るようになり、もう俺たち結婚しようなんて戯言をよく口にするようになっていた。
 私は私で四年近く恋人がいないこともあり、気心知れた大輔の言葉に絆されてしまったのが運の尽き。
 結婚情報サイトを二人で眺め、地味でも慎ましやかな結婚式を挙げようと、なんだかんだで彼と結婚する気になっていた。
「それがちゃっかり授かり婚ってどういうことよ」
 大輔は私に結婚の話をしながら、私には指一本触れずに、他の女を抱いていたということだ。
 女癖が悪いタイプではないと思っていたけど、それ以前に、私が大輔に女として見られていなかった事実を認めるのが悔しかった。
 だからこそ、私は精一杯の虚勢を張ってオシャレをして、普段しないネイルだってサロンに行って綺麗に整えてもらってこの場所にやって来た。
 貸切のダイニングバーは、店内のレイアウトを変えてあるらしく、華やかなパーティーの空気に嫌でも現実を突きつけられる。
 大々的な披露宴じゃないのは、妊娠してる新婦を気遣ってのことらしい。
 お酒も振る舞われる賑やかな席だというのに、きっと私だけが沈んだ気持ちでいる。
「なんで来たかなぁ」
 キリキリと痛む胃の辺りをさすりながら情けなく呟いた独り言は、盛り上がる会場の空気に呑み込まれていく。
 それが証拠に、誰もが入れ替わり立ち替わりお祝いの言葉をかけるために席を外しているのに、辛気臭くフロアの隅に置かれたテーブルに座って、俯いたままその場から一歩も動けない。
(やっぱり、来るんじゃなかったかな)
 後悔に押し潰されそうになりながら、賑やかな会場の空気に呑まれていると、それまでとは少し違うざわめきが生まれて辺りな空気が一変した。
「なにかあったの、バレバレですよ」
 それまで空席だったはずの隣に誰かが腰を下ろした。
 その人物と肩が触れ、私にだけ聞こえる小さくて低めのハスキーな声は、呆れなのか慰めなのか分からないものが滲んでる。
「ねえ、凄く悪目立ちしてるよ」
 諭すようにそう言われてハッとした。
 声の感じからして面識のない人のはずなのに、私自身が今の自分を挙動不審だと思い落ち込んでいるからか、その言葉が心の奥に小さな棘のように刺さった。
「俯いてないで、顔上げなよ」
 角が取れて丸みのある爽やかな香りがふわりと鼻先を掠めると、続け様に鼓舞する言葉が聞こえて、咄嗟に口角を上げて正面を向いた。
「二人、幸せそうな顔してるよね」
「そう、ですね」
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