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(45)謁見
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戴冠式が無事に執り行われ、王宮で過ごす日々も終わりに近付いてきた日、パメラはアイルーンの手によって支度を施されていた。
「なんだか変な感じだわ」
「なにがだい」
「これよ。アイルーンが私の世話係だなんて」
「だからってあんた、こんなドレスを一人で着ることは出来ないだろ」
「でも」
「いいんだよ。これは殿下があんたとあたしのために任せてくれたことさ。それに一生城で過ごす訳じゃないんだ、少しの間だから我慢しなって言っただろ」
「だけどお腹の赤ちゃんだって心配だわ」
アイルーンの張り出したお腹を優しくさすると、パメラはまだなにか言いたげな顔でアイルーンを見つめる。
「なぁに、この子が生まれたらあんたにはたっぷりと手伝って貰うんだ。持ちつ持たれつだよ」
言いながらアイルーンは手を動かし、この日のためにデルザリオから贈られた黒地に群青の刺繍が散りばめられたドレスを着付けると、丁寧に化粧を施してパメラの見事な金髪を結い上げる。
「なんだい、浮かない顔だね。まだあたしに遠慮してんのかい」
「いえ、それはもう諦めたわ」
「だったらどうしたんだい。今更緊張してんのかい」
「それはそうよ」
シュレールの戴冠式当日、デルザリオに伴われてその場に立った時、黒髪の美しい凛とした女性と目が合った。
後になってから、あの女性がデルザリオの母であり、王妃マキナなのだと知ったが、パメラは彼女の美貌よりも、あの驚きで今にも泣き出しそうな表情が気になった。
「王妃様はどうしてあんなお顔をお見せになったのかしら」
「さあね。でもこれからその王妃様と即位なさった王に謁見するんだろ」
「ええ」
「なら直接聞けばいいのさ。まだ番ってないとは云え、あんたは娘同然の立場なんだから」
そう言ってからアイルーンは思い出したように、あの甲斐性なしはいつ番うつもりなんだろうねと足踏みして憤慨する。
マグラリアはカミーリアと番となり、婚礼の日取りも決まっている。
デルザリオが兄のマグラリアに対して心に抱えていたものは、彼の結婚によって少しでも薄れたのかも知れない。
しかしマグラリアが幸せを掴んだからと言って、すぐに心に植え付けられた傷が癒える訳ではない。
「デルザリオ様……」
今日のドレスを見ていると、デルザリオの瞳を思い出す。全てを吸い込まれてしまいそうなあの綺麗な瞳。
「パメラ、そろそろ時間なんじゃないかい」
アイルーンの声で我に返ると、ちょうどその時に扉を叩く音がしてケイレブとデルザリオが部屋にやって来た。
「ほう。これはまた美しいな」
「鼻の下伸びてんぞデリー。って、いってえな」
「殿下に失礼を働くんじゃないよ」
いつもの調子でケイレブとアイルーンが賑やかに騒ぎ始めると、呆れた顔をしながらデルザリオが一歩前に踏み出してパメラの手を取る。
「どうした、そんな暗い顔をして。気が進まんか」
「いえ、とても楽しみにしております。でも少し気になることがあって」
「先日の母上のご様子か」
「そうです」
「そんなに気になるか」
デルザリオは少し体を屈めてパメラの顔を覗き込むと、片手を添えて優しく頬を撫でた。
「本当に私なんかがご挨拶しても良いんでしょうか」
すぐ目の前で優しく見守るデルザリオを見つめると、パメラは弱気になって呟いた。
「お前以外に俺の隣に立てる者などいない。堂々としていればいい」
親指で唇をなぞると、指に移った口紅を見てうっかりしたなとデルザリオは苦笑した。
慌ててアイルーンが手直しに入り、パメラの支度が整うと、ケイレブが先導する中デルザリオに伴われて、戴冠式を済ませた王シュレールと、その番である王妃マキナが待つ謁見の間まで足を進める。
「緊張せずともよい」
「はい」
大きな扉が開き、礼をしてから入室すると、華やかな壇上にシュレールとマキナの姿を確認し、パメラの緊張は昂まっていく。
そうして歩き進めると、部屋の中に既にマグラリアとカミーリアの姿があることに気付き、パメラはデルザリオを見つめるが、大丈夫だと組んだ腕に手を添えるだけだった。
所定の位置まで進み、敬意を表して一礼すると、マグラリアに似た優しい声で頭を上げるように声を掛けられる。
「顔をお上げなさい」
デルザリオに倣ってパメラが顔を上げると、玉座に座ったシュレールと目が合い、美しく整った顔立ちの王から思いもよらず柔らかい笑みを向けられてパメラは呆然としてしまう。
「デルザリオ。此度の活躍、母も聞き及んでおります。本当に、感謝の言葉に堪えません」
固まってしまったパメラに微笑みを向けると、すぐにデルザリオを見つめながらマキナが言葉を掛ける。
「勿体ないお言葉です」
儀礼的に答えると、デルザリオは胸に片手を当てて頭を下げる。
「さてデルザリオ。お前が目通ししたいと申したのは、その麗しいお嬢さんのことだね」
「はい。我が番として迎え入れたく、そのご報告を申し上げます」
デルザリオの言葉は揺るぎなくその場に響く。
「お嬢さん、名を教えてはくれまいか」
シュレールの慈愛に満ちた笑顔がパメラに向けられると、視界の端でマグラリアが微笑みながら励ますように目配せをしていた。
パメラはぐっと腹に力を込めると、教えられた型通りにお辞儀をしながら名を名乗る。
「私の名はパメラ。パメラ・ホーネリアに御座います」
緊張し過ぎて少し声が上ずってしまったが、周りを飛び交う精霊たちの賑やかな声に平静さを取り戻し、パメラはなんとか顔を上げると姿勢を正した。
「よく来たねパメラ。ようやく挨拶ができて嬉しく思う、しかしこの場では話も難しい。私はもう少し君たちと話がしたい。どうだろうかデルザリオ、場所を変えて話をしないかい」
シュレールの突然の申し出に、デルザリオはパメラと視線を交わし、その先で笑顔を浮かべるマグラリアを見ると、姿勢を正してこう答えた。
「謹んでお受け致します」
「なんだか変な感じだわ」
「なにがだい」
「これよ。アイルーンが私の世話係だなんて」
「だからってあんた、こんなドレスを一人で着ることは出来ないだろ」
「でも」
「いいんだよ。これは殿下があんたとあたしのために任せてくれたことさ。それに一生城で過ごす訳じゃないんだ、少しの間だから我慢しなって言っただろ」
「だけどお腹の赤ちゃんだって心配だわ」
アイルーンの張り出したお腹を優しくさすると、パメラはまだなにか言いたげな顔でアイルーンを見つめる。
「なぁに、この子が生まれたらあんたにはたっぷりと手伝って貰うんだ。持ちつ持たれつだよ」
言いながらアイルーンは手を動かし、この日のためにデルザリオから贈られた黒地に群青の刺繍が散りばめられたドレスを着付けると、丁寧に化粧を施してパメラの見事な金髪を結い上げる。
「なんだい、浮かない顔だね。まだあたしに遠慮してんのかい」
「いえ、それはもう諦めたわ」
「だったらどうしたんだい。今更緊張してんのかい」
「それはそうよ」
シュレールの戴冠式当日、デルザリオに伴われてその場に立った時、黒髪の美しい凛とした女性と目が合った。
後になってから、あの女性がデルザリオの母であり、王妃マキナなのだと知ったが、パメラは彼女の美貌よりも、あの驚きで今にも泣き出しそうな表情が気になった。
「王妃様はどうしてあんなお顔をお見せになったのかしら」
「さあね。でもこれからその王妃様と即位なさった王に謁見するんだろ」
「ええ」
「なら直接聞けばいいのさ。まだ番ってないとは云え、あんたは娘同然の立場なんだから」
そう言ってからアイルーンは思い出したように、あの甲斐性なしはいつ番うつもりなんだろうねと足踏みして憤慨する。
マグラリアはカミーリアと番となり、婚礼の日取りも決まっている。
デルザリオが兄のマグラリアに対して心に抱えていたものは、彼の結婚によって少しでも薄れたのかも知れない。
しかしマグラリアが幸せを掴んだからと言って、すぐに心に植え付けられた傷が癒える訳ではない。
「デルザリオ様……」
今日のドレスを見ていると、デルザリオの瞳を思い出す。全てを吸い込まれてしまいそうなあの綺麗な瞳。
「パメラ、そろそろ時間なんじゃないかい」
アイルーンの声で我に返ると、ちょうどその時に扉を叩く音がしてケイレブとデルザリオが部屋にやって来た。
「ほう。これはまた美しいな」
「鼻の下伸びてんぞデリー。って、いってえな」
「殿下に失礼を働くんじゃないよ」
いつもの調子でケイレブとアイルーンが賑やかに騒ぎ始めると、呆れた顔をしながらデルザリオが一歩前に踏み出してパメラの手を取る。
「どうした、そんな暗い顔をして。気が進まんか」
「いえ、とても楽しみにしております。でも少し気になることがあって」
「先日の母上のご様子か」
「そうです」
「そんなに気になるか」
デルザリオは少し体を屈めてパメラの顔を覗き込むと、片手を添えて優しく頬を撫でた。
「本当に私なんかがご挨拶しても良いんでしょうか」
すぐ目の前で優しく見守るデルザリオを見つめると、パメラは弱気になって呟いた。
「お前以外に俺の隣に立てる者などいない。堂々としていればいい」
親指で唇をなぞると、指に移った口紅を見てうっかりしたなとデルザリオは苦笑した。
慌ててアイルーンが手直しに入り、パメラの支度が整うと、ケイレブが先導する中デルザリオに伴われて、戴冠式を済ませた王シュレールと、その番である王妃マキナが待つ謁見の間まで足を進める。
「緊張せずともよい」
「はい」
大きな扉が開き、礼をしてから入室すると、華やかな壇上にシュレールとマキナの姿を確認し、パメラの緊張は昂まっていく。
そうして歩き進めると、部屋の中に既にマグラリアとカミーリアの姿があることに気付き、パメラはデルザリオを見つめるが、大丈夫だと組んだ腕に手を添えるだけだった。
所定の位置まで進み、敬意を表して一礼すると、マグラリアに似た優しい声で頭を上げるように声を掛けられる。
「顔をお上げなさい」
デルザリオに倣ってパメラが顔を上げると、玉座に座ったシュレールと目が合い、美しく整った顔立ちの王から思いもよらず柔らかい笑みを向けられてパメラは呆然としてしまう。
「デルザリオ。此度の活躍、母も聞き及んでおります。本当に、感謝の言葉に堪えません」
固まってしまったパメラに微笑みを向けると、すぐにデルザリオを見つめながらマキナが言葉を掛ける。
「勿体ないお言葉です」
儀礼的に答えると、デルザリオは胸に片手を当てて頭を下げる。
「さてデルザリオ。お前が目通ししたいと申したのは、その麗しいお嬢さんのことだね」
「はい。我が番として迎え入れたく、そのご報告を申し上げます」
デルザリオの言葉は揺るぎなくその場に響く。
「お嬢さん、名を教えてはくれまいか」
シュレールの慈愛に満ちた笑顔がパメラに向けられると、視界の端でマグラリアが微笑みながら励ますように目配せをしていた。
パメラはぐっと腹に力を込めると、教えられた型通りにお辞儀をしながら名を名乗る。
「私の名はパメラ。パメラ・ホーネリアに御座います」
緊張し過ぎて少し声が上ずってしまったが、周りを飛び交う精霊たちの賑やかな声に平静さを取り戻し、パメラはなんとか顔を上げると姿勢を正した。
「よく来たねパメラ。ようやく挨拶ができて嬉しく思う、しかしこの場では話も難しい。私はもう少し君たちと話がしたい。どうだろうかデルザリオ、場所を変えて話をしないかい」
シュレールの突然の申し出に、デルザリオはパメラと視線を交わし、その先で笑顔を浮かべるマグラリアを見ると、姿勢を正してこう答えた。
「謹んでお受け致します」
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