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(44)撃破
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ヌセの光がティンデシア大聖堂を照らす荘厳な景色は、まるで女神ユレイシアの思いをそこに映したかのように幻想的な輝きを放っている。
「手筈通りに」
六人は静かに頷くと、それぞれの侵入経路に散ってティンデシア大聖堂を取り囲む。
新年が迫り多くの巡礼者が出入りするティンデシア大聖堂だが、深夜を迎えてその門戸を閉ざした今、厳かなその場は静まり返っていた。
「こんな夜更けに、女神の御子たちはなにに迷われたのですか」
大聖堂の中に侵入したリルカたちを迎え入れたのは、他の誰でもないナファニスだった。
「女神の名を騙る異端者を狩りに来た」
「ほぉう。英雄マーベル・レインホルン、貴方がここに居るのは予想外ですね」
ナファニスはそう言いながらも笑みを崩さず、リルカとルーシャに目を向ける。
「そしてそちらは、死に損ないの穢れた翼人の子に、〈レヴィアタン〉のルカ・バルタギース、いや、リルカ・レインホルンですか」
ナファニスが口にしたと同時に、陽炎のようにウェイロンが姿を現した。
「さすがに一人でお相手は出来ませんのでね」
クッと喉を鳴らしたナファニスが小さく文言を呟くと、ウェイロンのダークチェリーの髪が逆立ち、唸り声のような咆哮を上げる。
「では、粛清の時間です」
ナファニスは突き出した手から煙毒を放って骸獣を生み出した。
それを見計らったように突入してきたグリードとイドリースが骸獣と交戦し始めると、リルカとルーシャは骸獣化したウェイロンと対峙する。
「手強いわよ」
「分かってる」
同時に床を蹴って間合いを詰めると、ルーシャの剣が閃光を描き、リルカは加速装置を使って宙を蹴り、その後ろからウェイロンに斬り掛かる。
キィンと刃先がぶつかり合って火花が散ると、既にウェイロンの姿はなく、悍ましい気配を察知したリルカは再び宙を蹴ってウェイロンの攻撃を回避する。
各所で一進一退の攻防が続く中、マーベルはナファニスと対峙しながら、次々と生み出されては襲い来る骸獣を、流れるような動きで仕留めていく。
「ほう、さすがはアチューダリアの犬ですね」
「その犬に爪を立てることも出来ないようだが」
「よく吠える犬だ」
深いそうに口元を歪めるナファニスが文言を唱えると、火焔が巻き起こり爆炎となってマーベルの体を包み込む。
「いつまで吠えていられるかな」
「貴様はなにに話し掛けている」
「……っ!」
燃え盛る火柱はすぐに朽ち、火焔を纏ったマーベルの剣はナファニスの喉元を捉え、烙印を押し付けるようにその喉を焼く。
ジュッと肉が焦げる匂いが広がると、文言を口にしたナファニスはすかさず魔術を使って転移して、爛れた首元を押さえて苦悶の表情を浮かべる。
「おのれ、おのれぇえええ」
マーベルが手にしているのは、魔術を無効化するベネンダル鉱石で鋳造した特殊な剣だ。
「貴様の理論なら弱い犬ほどよく吠えるんだろ」
マーベルが口端を引き上げると、ナファニスは魔術で生み出した雷を連続射出し、それを交わしながら間合いを詰めるマーベルと交戦する。
そしてその視界の端では、エアリアルを繰り返しながらウェイロンに剣を叩き込むリルカと、それに合わせてウェイロンを足止めするルーシャの姿がある。
ルーシャがウェイロンの剣を弾くと、リルカの鋒がウェイロンの背を裂き、僅かながらも痛手を与えて驚異的に増幅した体力を削いでいく。
著しく体力が消耗する戦闘の中で、リルカとルーシャは呼吸を合わせてウェイロンを翻弄し、目にも止まらぬ速さで打撃を叩き込んで深傷に変えていく。
「ウェイロン、アンタは楽に死なせないわよ」
ルーシャはそう呟くと、紫電一閃、リルカに襲い掛かる拍子を見計らってウェイロンの脚の腱を斬り裂く。
均衡を維持出来なくなったウェイロンが僅かに体勢を崩すのを見逃さず、リルカとルーシャの剣がその身を捉えて間髪入れずに斬り付けると、血飛沫を上げてウェイロンが倒れ込む。
「お前の手駒は停止したみたいだぞ」
その様子を視界に捉えたマーベルが、目を眇めてナファニスを挑発する。
「私の高尚な行いを阻む異端者どもめが!」
「その高尚な行いとやらで、クレアやジャネッタを嬲り殺したのか」
「ああ、ジャネッタ。私の愛する妹。あの子は翼人でありながら咎人に辱められて、異端の子を孕った。だから浄化して救ってやったんですよ」
「どこまで狂ってるんだ」
「それからクレア・レインホルン。あれは良い遊び相手になってくれました。私の子種を注ぎ込んでやったら、喜んで啼いていましたよ」
「貴様!」
嘲笑の合間に前後から降り掛かる雷や焔を剣で薙ぎ払うと、マーベルはナファニスとの間合いを一気に詰め、背中に回り込んで解放された翼を根元から斬り落とす。
「うがぁあああ」
「お前が言う格下の咎人に甚振られる気分はどうだ」
「おのれぇええ、咎人の分際で!」
転移の術式を展開して逃げようとするナファニスの喉を閃光を放つ一撃で斬り裂くと、印が刻めぬように手首を斬り落とす。
そして返り血を浴びながら、マーベルは剣に着いた血を振り払った。
「ルーシャ・バルハラット、後の始末は任せるぞ」
マーベルはベネンダルの剣をナファニスに突き立ててリルカの元に向かうと、すれ違うルーシャの肩を叩き、無念を晴らせと呟いた。
ルーシャがナファニスと対峙すると、あの時のルーシャのように声にならない声で喉を鳴らし、生に縋ろうとするナファニスの足から斬り刻む。
「お前は殺すだけでは生ぬるい」
四肢を斬り落とし、声なき絶叫を上げるナファニスに向けて、ベネンダルの剣の力が増幅する文言を唱え始める。
すなわちそれは、魔素を媒介とせずに魔術を操ることが出来るナファニスの生命力をも絶つ行為ではあるが、そこに情けなどが生じるはずがなかった。
ベネンダルの剣は、血潮を吸い取る魔剣の如くナファニスから生命力を奪って、その身は腐った実のように枯れて萎み跡形もなく霧散する。
「あっちは片付いたみたいだけど、ウェイロンはどうなるの」
リルカは意識を失い倒れ込んだウェイロンを拘束しながら、マーベルに視線を戻して指示を待つ。
「問題ない。俺が言った通りに傷を刻んだんだろう」
マーベルは事前にリルカとルーシャに指示を出していた。
これはウェイロンの体中に刻まれた呪詛を、ベネンダル鉱石を利用して無効化、或いは除去するために、呪詛の上書きを狙ったものだ。
マーベルはベネンダル鉱石で鋳造した短剣を取り出すと、更にウェイロンの身に刃を突き立てて紋様を刻み、体内に留め置かれている魔素を吸い出し浄化していく。
煙毒に侵された状況での無効化は可視化できるものではないが、その代わりにベネンダル鉱石で鋳造された剣が一時的に重量を増す。
「今すぐに完全な浄化は無理だが、これで彼を蝕む悪しき呪いは取り除けたよ」
「本当に大丈夫なの」
「ああ。これが原因でナファニスの言いなりにならざるを得なかったのなら、彼は生き直せる。違う理由があるなら話は別だがね」
マーベルが呟いてリルカの頭を撫でると、ナファニスを仕留めたルーシャがそのそばに立つ。
「あとはアタシが面倒を見るわ。処遇も含めてね」
浅い息を繰り返すウェイロンの肩に手を置き、ルーシャはその手に少しだけ力を込めた。
「手筈通りに」
六人は静かに頷くと、それぞれの侵入経路に散ってティンデシア大聖堂を取り囲む。
新年が迫り多くの巡礼者が出入りするティンデシア大聖堂だが、深夜を迎えてその門戸を閉ざした今、厳かなその場は静まり返っていた。
「こんな夜更けに、女神の御子たちはなにに迷われたのですか」
大聖堂の中に侵入したリルカたちを迎え入れたのは、他の誰でもないナファニスだった。
「女神の名を騙る異端者を狩りに来た」
「ほぉう。英雄マーベル・レインホルン、貴方がここに居るのは予想外ですね」
ナファニスはそう言いながらも笑みを崩さず、リルカとルーシャに目を向ける。
「そしてそちらは、死に損ないの穢れた翼人の子に、〈レヴィアタン〉のルカ・バルタギース、いや、リルカ・レインホルンですか」
ナファニスが口にしたと同時に、陽炎のようにウェイロンが姿を現した。
「さすがに一人でお相手は出来ませんのでね」
クッと喉を鳴らしたナファニスが小さく文言を呟くと、ウェイロンのダークチェリーの髪が逆立ち、唸り声のような咆哮を上げる。
「では、粛清の時間です」
ナファニスは突き出した手から煙毒を放って骸獣を生み出した。
それを見計らったように突入してきたグリードとイドリースが骸獣と交戦し始めると、リルカとルーシャは骸獣化したウェイロンと対峙する。
「手強いわよ」
「分かってる」
同時に床を蹴って間合いを詰めると、ルーシャの剣が閃光を描き、リルカは加速装置を使って宙を蹴り、その後ろからウェイロンに斬り掛かる。
キィンと刃先がぶつかり合って火花が散ると、既にウェイロンの姿はなく、悍ましい気配を察知したリルカは再び宙を蹴ってウェイロンの攻撃を回避する。
各所で一進一退の攻防が続く中、マーベルはナファニスと対峙しながら、次々と生み出されては襲い来る骸獣を、流れるような動きで仕留めていく。
「ほう、さすがはアチューダリアの犬ですね」
「その犬に爪を立てることも出来ないようだが」
「よく吠える犬だ」
深いそうに口元を歪めるナファニスが文言を唱えると、火焔が巻き起こり爆炎となってマーベルの体を包み込む。
「いつまで吠えていられるかな」
「貴様はなにに話し掛けている」
「……っ!」
燃え盛る火柱はすぐに朽ち、火焔を纏ったマーベルの剣はナファニスの喉元を捉え、烙印を押し付けるようにその喉を焼く。
ジュッと肉が焦げる匂いが広がると、文言を口にしたナファニスはすかさず魔術を使って転移して、爛れた首元を押さえて苦悶の表情を浮かべる。
「おのれ、おのれぇえええ」
マーベルが手にしているのは、魔術を無効化するベネンダル鉱石で鋳造した特殊な剣だ。
「貴様の理論なら弱い犬ほどよく吠えるんだろ」
マーベルが口端を引き上げると、ナファニスは魔術で生み出した雷を連続射出し、それを交わしながら間合いを詰めるマーベルと交戦する。
そしてその視界の端では、エアリアルを繰り返しながらウェイロンに剣を叩き込むリルカと、それに合わせてウェイロンを足止めするルーシャの姿がある。
ルーシャがウェイロンの剣を弾くと、リルカの鋒がウェイロンの背を裂き、僅かながらも痛手を与えて驚異的に増幅した体力を削いでいく。
著しく体力が消耗する戦闘の中で、リルカとルーシャは呼吸を合わせてウェイロンを翻弄し、目にも止まらぬ速さで打撃を叩き込んで深傷に変えていく。
「ウェイロン、アンタは楽に死なせないわよ」
ルーシャはそう呟くと、紫電一閃、リルカに襲い掛かる拍子を見計らってウェイロンの脚の腱を斬り裂く。
均衡を維持出来なくなったウェイロンが僅かに体勢を崩すのを見逃さず、リルカとルーシャの剣がその身を捉えて間髪入れずに斬り付けると、血飛沫を上げてウェイロンが倒れ込む。
「お前の手駒は停止したみたいだぞ」
その様子を視界に捉えたマーベルが、目を眇めてナファニスを挑発する。
「私の高尚な行いを阻む異端者どもめが!」
「その高尚な行いとやらで、クレアやジャネッタを嬲り殺したのか」
「ああ、ジャネッタ。私の愛する妹。あの子は翼人でありながら咎人に辱められて、異端の子を孕った。だから浄化して救ってやったんですよ」
「どこまで狂ってるんだ」
「それからクレア・レインホルン。あれは良い遊び相手になってくれました。私の子種を注ぎ込んでやったら、喜んで啼いていましたよ」
「貴様!」
嘲笑の合間に前後から降り掛かる雷や焔を剣で薙ぎ払うと、マーベルはナファニスとの間合いを一気に詰め、背中に回り込んで解放された翼を根元から斬り落とす。
「うがぁあああ」
「お前が言う格下の咎人に甚振られる気分はどうだ」
「おのれぇええ、咎人の分際で!」
転移の術式を展開して逃げようとするナファニスの喉を閃光を放つ一撃で斬り裂くと、印が刻めぬように手首を斬り落とす。
そして返り血を浴びながら、マーベルは剣に着いた血を振り払った。
「ルーシャ・バルハラット、後の始末は任せるぞ」
マーベルはベネンダルの剣をナファニスに突き立ててリルカの元に向かうと、すれ違うルーシャの肩を叩き、無念を晴らせと呟いた。
ルーシャがナファニスと対峙すると、あの時のルーシャのように声にならない声で喉を鳴らし、生に縋ろうとするナファニスの足から斬り刻む。
「お前は殺すだけでは生ぬるい」
四肢を斬り落とし、声なき絶叫を上げるナファニスに向けて、ベネンダルの剣の力が増幅する文言を唱え始める。
すなわちそれは、魔素を媒介とせずに魔術を操ることが出来るナファニスの生命力をも絶つ行為ではあるが、そこに情けなどが生じるはずがなかった。
ベネンダルの剣は、血潮を吸い取る魔剣の如くナファニスから生命力を奪って、その身は腐った実のように枯れて萎み跡形もなく霧散する。
「あっちは片付いたみたいだけど、ウェイロンはどうなるの」
リルカは意識を失い倒れ込んだウェイロンを拘束しながら、マーベルに視線を戻して指示を待つ。
「問題ない。俺が言った通りに傷を刻んだんだろう」
マーベルは事前にリルカとルーシャに指示を出していた。
これはウェイロンの体中に刻まれた呪詛を、ベネンダル鉱石を利用して無効化、或いは除去するために、呪詛の上書きを狙ったものだ。
マーベルはベネンダル鉱石で鋳造した短剣を取り出すと、更にウェイロンの身に刃を突き立てて紋様を刻み、体内に留め置かれている魔素を吸い出し浄化していく。
煙毒に侵された状況での無効化は可視化できるものではないが、その代わりにベネンダル鉱石で鋳造された剣が一時的に重量を増す。
「今すぐに完全な浄化は無理だが、これで彼を蝕む悪しき呪いは取り除けたよ」
「本当に大丈夫なの」
「ああ。これが原因でナファニスの言いなりにならざるを得なかったのなら、彼は生き直せる。違う理由があるなら話は別だがね」
マーベルが呟いてリルカの頭を撫でると、ナファニスを仕留めたルーシャがそのそばに立つ。
「あとはアタシが面倒を見るわ。処遇も含めてね」
浅い息を繰り返すウェイロンの肩に手を置き、ルーシャはその手に少しだけ力を込めた。
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