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31.親への報告②
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「仕事に行くなとは言わないけど、なら今日は、俺が瑞穂の家に泊まろうかな」
「別にいいけど、帰りは夜中だよ?」
「問題ないよ。ちょっとでも一緒にいたいし、引っ越しのこととか、会社にも申請しないといけないだろうからね」
「あ、そっか。会社にバレちゃうのか」
「ちょっとでも一緒にいたい方には触れないのか」
「いや、それは嬉しい。嬉しいけど」
「多分入籍したら色々手続きがあるよね。そもそも、そのうち一緒に住むことになるんだし、黙っておくのは難しいと思うよ」
「そっか。私、草壁瑞穂になるんだね」
別に赤西の姓に拘りはないし、名前が変わることに抵抗はない。だけど名前が変わることで、色々と手続きが面倒な話はよく聞く。
「そうですよ、草壁さん」
「慶弥さんと家族になるんだね。ふふ、なんかくすぐったいね、こういうの」
「ああ、マジで仕事休ませたい」
「いやだから、それは困るって」
「だから否定が早いんだよ」
二人で笑い声を上げ、そのままたわいない話をして区役所に向かい、婚姻届を提出する。こんなにもあっさりしたものかと思うくらい、簡単に受け付けてもらって拍子抜けしたくらいだ。
それから一旦慶弥さんの家に戻って、着替えなんかの荷物を支度してから私の家に向かう。
正直なところ、今の家には引っ越してきたばかりだし、また引っ越すのはなんだか気が引けるけど、せっかく入籍しても生活がバラバラなのは本末転倒だ。
遅めの昼食をとりながら、なんとなく二人で賃貸情報を調べて、どの辺に住むのがいいか相談しているうちに、あっという間に出勤時間が近付いてきた。
「じゃあ、そろそろ出かけるね」
「送ってくよ」
「近いから大丈夫だよ」
「いいの。ちょっとでも一緒にいられる時は、いるようにしたいだけだから」
「その辺りもちゃんと考えないとね」
一緒に暮らしても、すれ違う生活は続く。勤務形態が違うからそれは仕方ない。
出来ないことを嘆くより、その中でなにが出来るのかを早く見定めないといけないんだと思う。
(転勤したばったりだし、すぐには仕事も辞められないからな)
独立を考えるにしても、雇われてる今とは違って、もっと融通が利きにくくなるかもしれない。
先のことを考えるだけで頭がこんがらがってきた。
「瑞穂、大丈夫?」
「ああ、ごめん。ちょっと考え事してた」
「とりあえずはさ、出来ることを確実に一個ずつ増やしていって、難しい問題はその都度考えていけばいいよ」
「そうだね。今考えちゃうと頭パンクしそう」
歩いて行ける距離なのに、車に乗り込んで店まで送ってもらうのはなんだか辺な感じがする。
そう思いながらもシートベルトを絞め、慶弥さんと一緒に話しながら、店までの短い道のりをドライブして過ごす。
そして店舗の裏手にある従業員用の狭い駐車場に車を停めると、別れ際のキスをして車を降りた瞬間声をかけられた。
「あれ? 赤西さん。お疲れ様」
「うわっ、店長⁉︎」
車の中で見えにくいとはいえ、まだ陽が高いのでキスしてたのを見られたんじゃないだろうか。
「そんなに驚く?」
岡内さんは可笑しそうに笑うのを堪えているので、見られたのかどうか判断がつかない。
「岡内さん。お疲れ様」
「あれ、草壁CEO? お疲れ様です。……え?」
私が降りてきた車から慶弥さんが降りてきたので、突然のことに私だけでなく岡内さんも混乱している。
「詳細は今度お話ししますけど、妻を送りに来ました」
「は?」
「ちょっと、慶弥さん!」
驚いて口が開いてしまった岡内さんが、私と慶弥さんを交互に見て唖然としている。
「突然のことで驚かせましたが、彼女は本当に俺の妻なんですよ」
慶弥さんはそう言うと私の左手を掲げ、普段つけていないせいで、外しそびれていた婚約指輪をまざまざと見せつける。
「赤西さんが。……え? 草壁CEOの奥様なんですか」
いまだ突然のことに驚いた様子の岡内さんに、慶弥さんは得意げな顔で頷くと、夜また迎えに来るからと頬にキスをしてさっさと車に乗り込んでしまう。
「ちょっ」
「じゃあ、俺は失礼しますね」
イタズラが成功したみたいに、満面の笑みを浮かべて手を振ると、慶弥さんは本当に車を出してその場から去っていった。
「赤西さん……。とりあえず、中に入ろうか」
「はい」
バツが悪くて小さく頷くと、その後事務所でめちゃくちゃ根掘り葉掘り慶弥さんのことを聞かれる羽目になった。
「別にいいけど、帰りは夜中だよ?」
「問題ないよ。ちょっとでも一緒にいたいし、引っ越しのこととか、会社にも申請しないといけないだろうからね」
「あ、そっか。会社にバレちゃうのか」
「ちょっとでも一緒にいたい方には触れないのか」
「いや、それは嬉しい。嬉しいけど」
「多分入籍したら色々手続きがあるよね。そもそも、そのうち一緒に住むことになるんだし、黙っておくのは難しいと思うよ」
「そっか。私、草壁瑞穂になるんだね」
別に赤西の姓に拘りはないし、名前が変わることに抵抗はない。だけど名前が変わることで、色々と手続きが面倒な話はよく聞く。
「そうですよ、草壁さん」
「慶弥さんと家族になるんだね。ふふ、なんかくすぐったいね、こういうの」
「ああ、マジで仕事休ませたい」
「いやだから、それは困るって」
「だから否定が早いんだよ」
二人で笑い声を上げ、そのままたわいない話をして区役所に向かい、婚姻届を提出する。こんなにもあっさりしたものかと思うくらい、簡単に受け付けてもらって拍子抜けしたくらいだ。
それから一旦慶弥さんの家に戻って、着替えなんかの荷物を支度してから私の家に向かう。
正直なところ、今の家には引っ越してきたばかりだし、また引っ越すのはなんだか気が引けるけど、せっかく入籍しても生活がバラバラなのは本末転倒だ。
遅めの昼食をとりながら、なんとなく二人で賃貸情報を調べて、どの辺に住むのがいいか相談しているうちに、あっという間に出勤時間が近付いてきた。
「じゃあ、そろそろ出かけるね」
「送ってくよ」
「近いから大丈夫だよ」
「いいの。ちょっとでも一緒にいられる時は、いるようにしたいだけだから」
「その辺りもちゃんと考えないとね」
一緒に暮らしても、すれ違う生活は続く。勤務形態が違うからそれは仕方ない。
出来ないことを嘆くより、その中でなにが出来るのかを早く見定めないといけないんだと思う。
(転勤したばったりだし、すぐには仕事も辞められないからな)
独立を考えるにしても、雇われてる今とは違って、もっと融通が利きにくくなるかもしれない。
先のことを考えるだけで頭がこんがらがってきた。
「瑞穂、大丈夫?」
「ああ、ごめん。ちょっと考え事してた」
「とりあえずはさ、出来ることを確実に一個ずつ増やしていって、難しい問題はその都度考えていけばいいよ」
「そうだね。今考えちゃうと頭パンクしそう」
歩いて行ける距離なのに、車に乗り込んで店まで送ってもらうのはなんだか辺な感じがする。
そう思いながらもシートベルトを絞め、慶弥さんと一緒に話しながら、店までの短い道のりをドライブして過ごす。
そして店舗の裏手にある従業員用の狭い駐車場に車を停めると、別れ際のキスをして車を降りた瞬間声をかけられた。
「あれ? 赤西さん。お疲れ様」
「うわっ、店長⁉︎」
車の中で見えにくいとはいえ、まだ陽が高いのでキスしてたのを見られたんじゃないだろうか。
「そんなに驚く?」
岡内さんは可笑しそうに笑うのを堪えているので、見られたのかどうか判断がつかない。
「岡内さん。お疲れ様」
「あれ、草壁CEO? お疲れ様です。……え?」
私が降りてきた車から慶弥さんが降りてきたので、突然のことに私だけでなく岡内さんも混乱している。
「詳細は今度お話ししますけど、妻を送りに来ました」
「は?」
「ちょっと、慶弥さん!」
驚いて口が開いてしまった岡内さんが、私と慶弥さんを交互に見て唖然としている。
「突然のことで驚かせましたが、彼女は本当に俺の妻なんですよ」
慶弥さんはそう言うと私の左手を掲げ、普段つけていないせいで、外しそびれていた婚約指輪をまざまざと見せつける。
「赤西さんが。……え? 草壁CEOの奥様なんですか」
いまだ突然のことに驚いた様子の岡内さんに、慶弥さんは得意げな顔で頷くと、夜また迎えに来るからと頬にキスをしてさっさと車に乗り込んでしまう。
「ちょっ」
「じゃあ、俺は失礼しますね」
イタズラが成功したみたいに、満面の笑みを浮かべて手を振ると、慶弥さんは本当に車を出してその場から去っていった。
「赤西さん……。とりあえず、中に入ろうか」
「はい」
バツが悪くて小さく頷くと、その後事務所でめちゃくちゃ根掘り葉掘り慶弥さんのことを聞かれる羽目になった。
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