嘘つき同士は真実の恋をする。

濘-NEI-

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30.私の答え③

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「先のことは分からないし、二人で手探りしていくしかない。それに子どもだって、瑞穂が言うように、希望するタイミングで授かれるかも分からないし、ずっと二人かもしれない」
「うん」
「それでも本当に籍を入れてもいいんだね?」
「二言はないです」
「分かった。じゃあ俺も署名する」
 慶弥さんは立ち上がると、寝室のデスクからペンを持ってきて、緊張した面持ちで婚姻届に署名する。
「間違ったら、別のに書き直しだからね」
「あのさ、それ書いてる最中に言わないでよ」
「はは。ごめんって」
 やっといつもの調子に戻った様子の慶弥さんに抱き付くと、書いてる途中に邪魔するなと怒られる。
「あとは、判子か」
「残った証人欄なんだけど」
「分かってる。ご挨拶にはいつ行けばいい?」
「それね。それなんだよね。私しばらく土日に休みはないし、慶弥さんと休みが被ることがないんだよね」
「俺が平日に都合つけられても、ご両親だって土日が休みなんじゃないの」
「そうなの。だから、平日の夜にサッと行ってサッと帰ってくるのがベストだと思うんだよね」
「んー。まあ言わんとしてる意味は分かるけど、さすがに結婚のご挨拶なのに、ご両親に失礼じゃないかな」
「そんなの気にしなくていいよ。土日に時間作って行ったら絶対ネチネチ言われるもん。想像するだけでムカついてきた」
「そんな子どもみたいな……」
 慶弥さんが呆れた顔で私の頭にポンと手を置く。
 自分でも子どもじみてるとは思うけど、両親がグダグダ文句を言う姿は嫌でも想像がつく。
 せっかくおめでたい報告なのに、水を差されたくない。だけど慶弥さんの立場が悪くなるのも困る。
「あのね、慶弥さん」
「ん?」
「私明日も休みだから、明後日帰るつもりなんだけど」
「そうなの? それは構わないけど」
「だから明後日の土曜、仕事前にうちに挨拶に行くのはどうかな」
「それだと瑞穂が大変じゃない?」
「大丈夫。仕事を理由にすぐ帰る言い訳も立つし、結婚の挨拶もまともに出来ないなんて、後でネチネチ言われたくないし」
「またそんな」
「いや、あの人たちなら言いかねないから」
 いくら私の都合だと言ったところで、平日の夜に挨拶に顔を出そうものなら、常識がないとか難癖つけて慶弥さんを責めるに決まってる。
 それに、あの時揉めて以来、電話をしたのは慶弥さんが挨拶してくれたあの一度だけで、メッセージが来ることはあるけど返事なんて返してない。
 親との間にできた溝は、私の態度が問題だって分かってるけど、なんでも頭ごなしに文句を言うあっちの態度だって相当問題があると思う。
「じゃあとりあえず、土曜日にご挨拶出来そうか今から連絡してくれるかな」
「そっか。向こうの都合もあったね」
「そういうこと」
 ケンカしないように釘を刺されてスマホを手に取ると、思ったよりもすんなり会話が進んで、拍子抜けするほど簡単に挨拶に顔を出すのが決まった。
「ね? こっちがきちんとしてれば、ご両親だって無碍に扱う理由がないんだから」
 慶弥さんはそう言うけど、長年あの人たちの娘をやってきた私にとっては、あまり納得がいかないところだ。
 そんなに期待しない方がいいだとか、親に関する愚痴をついつい溢しながら、温め直した食事を食べ終えると、片付けもそこそこにベッドに押し倒される。
 そして会えなかった僅かな時間を埋めるように、たっぷりと愛を刻まれてしまうのだった。
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