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22.呼び出し①

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 激しく降りつける雨の音がして目を覚ますと、疲れが出たのだろう。ぐっすりと眠る慶弥さんの顔が隣にあって、思わずその頬をそっと撫でる。
 昨夜は夕食を食べた後、お風呂に済ませてからベッドに入ると、慶弥さんは私の存在を確かめるように、慈しむように、けれど縋るように私を抱いた。
 彼に必要とされることは純粋に嬉しいけれど、強い依存を抱くようなら、それはしっかりと拒まなければいけない。
 だって私は、彼を支えるだけじゃない。隣で同じ景色を見て前に向かって歩くことを決めたんだから。
「……瑞穂?」
「おはよ。まだ寝てていいのに」
「まだベッドにいてよ」
「どうしたの。今日は甘えん坊だね」
 苦笑して彼の髪を掬うように撫でると、剥き出しになったおでこにチュッとキスをする。
「なんか寒くない?」
「雨が降ってるからね。ほら、音が聞こえるでしょ」
「え、雷鳴ってる」
「そうみたい。あ、光った」
 遮光カーテンの向こうがパッと明るくなると、すぐに追いかけるように雷鳴が響く。
 私たちはベッドの中で抱き合うと、そのままキスをして昨夜の続きのように肌を合わせる。
 そして静かな部屋に熱っぽく響く息遣いが雨音が掻き消されると、互いに絶頂を迎え、乱れる息を整えるように天井を仰ぐ胸元が上下する。
「お風呂入ろうか」
「そうだね」
「支度してくるから、瑞穂はもう少しゆっくりしてて」
「ありがと」
 慶弥さんはチュッとキスをして私の頭を軽く撫で、ベッドから起き上がる。そして散らばった服を掻き集めてズボンを履くとカーテンを開けた。
 土砂降りとはいえ、外の光が入ると部屋の中が少し明るくなった。
 昨日のことがあったからなのか、慶弥さんはやっぱり疲弊して見えるけど、同時に今まで僅かに感じていた翳りのような雰囲気はなくなった気がする。
(きっと、舞美さんと円佳くんのことが気になってたんだな)
 付き合うフリではなく、実際に恋人として私と向き合うのに、彼女たちとの関係には区切りをつけるつもりだったんだろう。
 でも、それは思ったより難しいことで簡単に割り切れるものじゃない。実際にお役御免になった今、慶弥さんの心中はいまだに混乱してるみたいだ。
「みんなが辛い思いをしてきたんだよね……」
 私がとやかく言うことではないけれど、舞美さんがこれから先、少しでも前に進むことを祈るしかない。
 そして慶弥さんも。
「瑞穂、シャワー浴びながらお湯貯めて入ろうか。めちゃくちゃ冷えてきた」
「分かった」
 パジャマ代わりに借りたパーカーを羽織ると、ベッドを出て慶弥さんの元に向かう。
 なにもなかったことすることは、きっと出来ないだろうけど、きちんと区切りをつけるためにも、今はちゃんと慶弥さんを支えよう。これから一緒に並んで歩くために。
 そして悪ふざけしつつお風呂に入って温まると、パンを焼いて、茹で卵を潰して作った卵サラダを挟んだサンドイッチを朝食にした。
「今日はどうしようか」
「出かけるにしても、凄い雨だもんね」
 食後のコーヒーを飲みながら、まだ降り続ける雨を眺めて二人で嘆息する。
「あ。瑞穂の借りる部屋、探さないとダメじゃない?」
「そうだった。昨日何件か目ぼしいところは見つけたんだけど、家賃がとにかく高くて」
「めちゃくちゃ高いとこなら別だけど、店の近くなら仕方ないから大丈夫だよ」
 慶弥さんはタブレットを手にすると、賃貸情報サイトを開いて私が残したブクマを確認するように見始めた。
「セキュリティ高めで、出来ればお風呂沸かせるところがいいんだよね」
「いいんじゃない? うん。このくらいなら許容範囲の家賃だと思うよ」
「そうなんだ。じゃあ早速問い合わせようかな」
「今日すぐ内見行けるなら着いて行くよ」
「本当? ありがとう」
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