53 / 87
18.デートと予期せぬ遭遇②
しおりを挟む
慶弥さんと付き合うと決めた時点で、いつかは結婚を考える相手なんだろうと思いはしたけれど、実際は私も職場が変わることになったり、刻々と状況は変化している。
少なくともルサルカを離れる時点で、物理的な距離が近くなるのも手伝って、慶弥さんと顔を合わせる機会は増えるだろうし、お互いを知るにはいいチャンスだと思う。
だけど仕事が変わることで見えてくるものもあるだろうし、今すぐ結婚どうこうっていう話には決してならない。
(まだ慶弥さんのご両親への罪悪感が、消えてないのかな)
慶弥さんの自宅の近くには結構社員が住んでるという理由で、電車に乗って移動すると、二人で会話しているのに、私はどこか上の空でそのことばかり考えてしまう。
二人でいると、どうしても付き合った先の関係を考えずにはいられない。
それが結婚なのか別れなのか、そこまでは分からないけれど、いつか二人の、自分の人生を決める日はやってくるんだ。
そしてモヤモヤしたまま、目的地に着いてすぐに買った洋服に着替え、少し休憩がてらカフェに行く途中、予想だにしなかった人とすれ違い、案の定呼び止められてしまった。
「あれ、瑞穂じゃないか」
「……お兄ちゃん⁉︎ なんでここに」
「休みだからな。家族で買い物だよ」
兄の和彦は、すぐ先の雑貨屋さんを指差して状況を説明すると、慶弥さんに会釈してから、紹介しろと私を軽く睨む。
「こちらは私がお付き合いしてる草壁慶弥さん。慶弥さん、この人は兄の和彦です」
「初めまして。草壁です」
「どうも、初めまして。妹がお世話になってます」
なんとなく気まずい雰囲気に、早々にその場を立ち去ろうとすると、そんな私たちの元に元気な声で駆け寄ってくる子どもたちが姿を現した。
「パパ! 遅いよ」
「遅いー。あ! 瑞穂ちゃんだ」
「健ちゃん、日菜ちゃん、久しぶりだね」
私を取り囲む二人に圧倒されていると、後からやってきた兄嫁の由華ちゃんが二人を止めに入る。
「こら。瑞穂ちゃん困ってるでしょ。でも偶然ね、元気だった?」
「由華ちゃんも。相変わらずみんな元気そうだね」
兄一家に捕まってしまい、その場を離れるタイミングを失うと、兄はなにを思ったのか、せっかくだからと慶弥さんにどこかで休憩しないかと話しかけている。
「やだなに、瑞穂ちゃんデート中だったの⁉︎ パパ、せっかくのデートの邪魔しちゃダメじゃない」
「いえいえ、私たちなら構いませんよ。ね? 瑞穂」
慶弥さんがにっこりと笑うと、由華ちゃんは驚いた様子で私の袖を掴み、なにか言いたげに口をパクパクさせて私をみる。
(由華ちゃん、イケメンに弱いもんな……)
きっとあれこれ聞きたいのだろうなと思ったものの、子どもたちが早くも騒ぎ始めたため、とりあえず場所を移動しようと、ショウウインドウにパフェが並ぶ近くの喫茶店に入ることにした。
「大人しくしてるのよ」
「はーい」
「ねえ、パパだっこ」
「静かに出来るなら抱っこしてあげる」
家庭を持つとはこういうことなんだろうかと、兄一家を眺めながら喫茶店に入る。
チラッと覗き見た隣に並ぶ慶弥さんは、お兄さんやタラントさんたちがいるからか、子どもがいる特有の騒がしさに驚く気配がない。
一気に賑やかになった私たちは、お店の奥の四人掛けテーブル席に子ども用の椅子をセッティングしてもらって、兄夫婦と、私と慶弥さんが向かい合って座る形になった。
「せっかくのデートなのにごめんなさいね。瑞穂ちゃんだって久々の休みでしょ? もう、パパは強引なのよ」
パフェが食べたいと騒ぐ子どもたちの相手をしながら、由華ちゃんが申し訳なさそうに頭を下げる。
「本当にね。お兄ちゃんは強引すぎる」
「いえいえ。お誘いありがとうございます。こんな機会もないとご挨拶出来ませんから」
慶弥さんはにっこり笑うと、静かにテーブルの下で私の手を握って、大丈夫だよとサインをくれる。
そんな些細な気遣いにホッとしながら、兄一家と賑やかなティータイムを過ごすことになった。
少なくともルサルカを離れる時点で、物理的な距離が近くなるのも手伝って、慶弥さんと顔を合わせる機会は増えるだろうし、お互いを知るにはいいチャンスだと思う。
だけど仕事が変わることで見えてくるものもあるだろうし、今すぐ結婚どうこうっていう話には決してならない。
(まだ慶弥さんのご両親への罪悪感が、消えてないのかな)
慶弥さんの自宅の近くには結構社員が住んでるという理由で、電車に乗って移動すると、二人で会話しているのに、私はどこか上の空でそのことばかり考えてしまう。
二人でいると、どうしても付き合った先の関係を考えずにはいられない。
それが結婚なのか別れなのか、そこまでは分からないけれど、いつか二人の、自分の人生を決める日はやってくるんだ。
そしてモヤモヤしたまま、目的地に着いてすぐに買った洋服に着替え、少し休憩がてらカフェに行く途中、予想だにしなかった人とすれ違い、案の定呼び止められてしまった。
「あれ、瑞穂じゃないか」
「……お兄ちゃん⁉︎ なんでここに」
「休みだからな。家族で買い物だよ」
兄の和彦は、すぐ先の雑貨屋さんを指差して状況を説明すると、慶弥さんに会釈してから、紹介しろと私を軽く睨む。
「こちらは私がお付き合いしてる草壁慶弥さん。慶弥さん、この人は兄の和彦です」
「初めまして。草壁です」
「どうも、初めまして。妹がお世話になってます」
なんとなく気まずい雰囲気に、早々にその場を立ち去ろうとすると、そんな私たちの元に元気な声で駆け寄ってくる子どもたちが姿を現した。
「パパ! 遅いよ」
「遅いー。あ! 瑞穂ちゃんだ」
「健ちゃん、日菜ちゃん、久しぶりだね」
私を取り囲む二人に圧倒されていると、後からやってきた兄嫁の由華ちゃんが二人を止めに入る。
「こら。瑞穂ちゃん困ってるでしょ。でも偶然ね、元気だった?」
「由華ちゃんも。相変わらずみんな元気そうだね」
兄一家に捕まってしまい、その場を離れるタイミングを失うと、兄はなにを思ったのか、せっかくだからと慶弥さんにどこかで休憩しないかと話しかけている。
「やだなに、瑞穂ちゃんデート中だったの⁉︎ パパ、せっかくのデートの邪魔しちゃダメじゃない」
「いえいえ、私たちなら構いませんよ。ね? 瑞穂」
慶弥さんがにっこりと笑うと、由華ちゃんは驚いた様子で私の袖を掴み、なにか言いたげに口をパクパクさせて私をみる。
(由華ちゃん、イケメンに弱いもんな……)
きっとあれこれ聞きたいのだろうなと思ったものの、子どもたちが早くも騒ぎ始めたため、とりあえず場所を移動しようと、ショウウインドウにパフェが並ぶ近くの喫茶店に入ることにした。
「大人しくしてるのよ」
「はーい」
「ねえ、パパだっこ」
「静かに出来るなら抱っこしてあげる」
家庭を持つとはこういうことなんだろうかと、兄一家を眺めながら喫茶店に入る。
チラッと覗き見た隣に並ぶ慶弥さんは、お兄さんやタラントさんたちがいるからか、子どもがいる特有の騒がしさに驚く気配がない。
一気に賑やかになった私たちは、お店の奥の四人掛けテーブル席に子ども用の椅子をセッティングしてもらって、兄夫婦と、私と慶弥さんが向かい合って座る形になった。
「せっかくのデートなのにごめんなさいね。瑞穂ちゃんだって久々の休みでしょ? もう、パパは強引なのよ」
パフェが食べたいと騒ぐ子どもたちの相手をしながら、由華ちゃんが申し訳なさそうに頭を下げる。
「本当にね。お兄ちゃんは強引すぎる」
「いえいえ。お誘いありがとうございます。こんな機会もないとご挨拶出来ませんから」
慶弥さんはにっこり笑うと、静かにテーブルの下で私の手を握って、大丈夫だよとサインをくれる。
そんな些細な気遣いにホッとしながら、兄一家と賑やかなティータイムを過ごすことになった。
1
お気に入りに追加
76
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!
めーぷる
恋愛
見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。
秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。
呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――
地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。
ちょっとだけ三角関係もあるかも?
・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。
・毎日11時に投稿予定です。
・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。
・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
玖羽 望月
恋愛
朝木 与織子(あさぎ よりこ) 22歳
大学を卒業し、やっと憧れの都会での生活が始まった!と思いきや、突然降って湧いたお見合い話。
でも、これはただのお見合いではないらしい。
初出はエブリスタ様にて。
また番外編を追加する予定です。
シリーズ作品「恋をするのに理由はいらない」公開中です。
表紙は、「かんたん表紙メーカー」様https://sscard.monokakitools.net/covermaker.htmlで作成しました。
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。

甘い束縛
はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。
※小説家なろうサイト様にも載せています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる