嘘つき同士は真実の恋をする。

濘-NEI-

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9.俺はどうしたいのか② ◇

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 恋の仕方なんて忘れてしまったけど、誰だって恋に落ちるのは一瞬なのかもしれない。
(俺はやっぱり、ロッソのことが好きなんだろうか)
 俺の両親のために泣いた彼女が愛おしすぎて、あまりにも衝動的に本当に付き合ってみないかと、気が付いたら伝えていた。
 その時ですら彼女は冷静で、感傷に流されているとはっきり言った。
 俺自身もそうなんじゃないかと、今でも思うところはあるけれど、彼女の隣に他の男が立つことを想像したら、苛立ちに似た感情が湧くのだから、これは立派な独占欲だろう。
 恋人のフリだなんて妙なことを頼んでおいて、順番が逆になったけれど、ロッソが誠実な人間だからこそ、もっと真剣に彼女と向き合ってみたいと思う。
「ただいま」
 電気が消えた暗い部屋に帰ることには慣れているはずなのに、酷く寂しい気持ちが込み上げてくる。
(俺、こんなに弱かったかな)
 悲しそうな顔をしたお袋の顔が浮かんで、また罪悪感に心が揺さぶられる。
 これではいつまで経っても堂々巡りだ。
「でも守ってあげたいって、思っちゃったんだよな」
 スマホを見ると、ロッソではなく清次郎からメッセージが届いていて、挨拶はどうなったのかと、呑気な文面に思わず苦笑する。
 俺が答えなくても、そのうちお袋から姉ちゃんに相談がいって、姉ちゃんが清次郎に俺のことを不誠実だと文句を垂れるだろう。
 分かってる。
 だけど分かってなかった。
 ロッソが言った通り、嘘をついたことを後悔してるから、少しでも真実にしようとしているだけの、ただの悪足掻きなのかもしれない。
 そうだったとしても、俺はまたロッソが、赤西瑞穂という女性が、楽しそうに笑ったり、照れてはにかんだりする顔を、もっと見たいと思ってしまう。
「女々しいな、俺」
 頭を切り替えるために熱いシャワーを浴びるものの、いつまで経っても、あの告白は正解だったのかと、自問自答を繰り返して落ち込んでしまう。
 風呂から上がってビールを飲み、もしかしたらとパソコンを立ち上げてゲームにログインしてみても、やはりそこにロッソの姿はなくて、情けなさが込み上げてくる。
「ダメだ。もう今日は寝よう」
 すぐにパソコンを落としてベッドに潜り込むと、それでもまだ女々しくロッソのことを考え、恋煩いなのか分からないけれど、なかなか寝付けずに悶々としてしまう。
 それでもウトウトし始めた瞬間に、スマホにメッセージが届いて、もしかしたらロッソからなのかも知れないと、浮き足だって画面を見てから一気に顔色が曇る。
【今すぐ来て。じゃないと死んでやる】
 一気に現実に引き戻される。
 俺が長らく恋人を作ろうとしなかった理由。結婚をして家庭を持つなんて、俺に許されるはずがないんだから。
【すぐに行くから、死ぬだなんて言わないで】
 メッセージを打ち返して送信すると、すぐに着替えてジャケットを羽織り、車のキーを手にして家を出る。
 俺には、ロッソには打ち明けられない大きな秘密がある。ロッソだけじゃない。他の誰にも打ち明けられない大きな罪を抱えているのだから。
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