27 / 87
8.人を欺く代償④
しおりを挟む
音楽も流さずに、静かなドライブで私の住む郊外までの道のりを無言で過ごす。
今はなにを話しても虚しいだけだし、お互い反省と後悔で楽しい会話なんて出来ない。
そして二時間近く過ぎて見慣れた景色が見えてくると、ようやく家に帰れる安堵から、なぜかまた涙が出てきた。
エルバは車を停めると、黙ったまま私にティッシュを差し出し、意を決した様子で口を開いた。
「あのさロッソ」
「どうしたの」
「不謹慎なのは分かってるんだけど、ロッソが嫌じゃなければ、俺たちちゃんと付き合ってみないか」
「え?」
「分かってる。分かってるんだけど、ロッソといると楽しくて、こんな形で会えなくなるのが寂しいと思ってしまうんだよね」
「エルバ……」
「返事はすぐじゃなくていい。少し考えてみてくれないかな」
「本気で言ってるの?」
「おかしいかな」
「おかしくはないけど、親御さんのことがあって、ちょっと感傷的になってるだけじゃないかな」
「そうなのかな」
「そうだと思うよ。でも、気持ちは嬉しい。ありがとう」
「だったら、ちゃんと考えてくれないか」
「……それは、親御さんに嘘をつきたくないからじゃないの?」
「嘘ならもうついた後だよ」
「違うよ。嘘をついたことを後悔してるから、少しでも真実にしようとしてる。それは悪足掻きだよ」
「そう思うならそれでもいい。だけど俺は真剣な気持ちで伝えてる」
「エルバ……」
車の中がまた静まり返る。さっきまでとは違う沈黙。
エルバのことは嫌いじゃない。むしろ素敵な男性だと思うし、会話もしやすくて一緒にいるのが楽しいのも本当の気持ちだ。
だけど、こんなの一時的な感傷に過ぎない。
「ひと月」
「え?」
「来月本社に来るだろう? その時に答えを聞かせて欲しい。だから、真剣に考えて」
「エルバ、そんなこと考えるだけ無駄だよ」
「俺は慶弥としてお願いしてるんだよ。俺は瑞穂を好きになった。だからきちんと考えて欲しい」
酷く真剣な顔。伸ばされた手がそっと手が触れる。
こんな顔するなんて卑怯だ。こんな美しい顔をして、私を好きだなんて単語を口に出さないで欲しい。
「……卑怯だよ」
「卑怯でもいい。使えるものは使う」
静かに顔が近付いて、そのままキスに唇を奪われる。
「お願いだから、真剣に考えてみて」
「本当にズルい」
「ごめんね、俺も真剣だから」
再び沈黙が降りると、ようやくシートベルトを外し、家まで送ってもらったお礼を言う。
「遠いのにありがとう」
「いいよ。気にしないで」
「じゃあね」
「連絡、待ってるよ」
「どうかな。しないかもしれない」
「うん。でも来月本社に来た時は時間取ってもらう」
「分かった。真面目に考えてみる」
「ありがとう」
社員寮のマンションに入ると、それまで車の中から手を振っていたエルバがハンドルに手をかけ、Uターンした車はあっという間に遠ざかっていく。
(私はどうしたいんだろう)
宵闇に吸い込まれるように消えていくテールランプを見つめて、しばらくその場から動くことができなかった。
今はなにを話しても虚しいだけだし、お互い反省と後悔で楽しい会話なんて出来ない。
そして二時間近く過ぎて見慣れた景色が見えてくると、ようやく家に帰れる安堵から、なぜかまた涙が出てきた。
エルバは車を停めると、黙ったまま私にティッシュを差し出し、意を決した様子で口を開いた。
「あのさロッソ」
「どうしたの」
「不謹慎なのは分かってるんだけど、ロッソが嫌じゃなければ、俺たちちゃんと付き合ってみないか」
「え?」
「分かってる。分かってるんだけど、ロッソといると楽しくて、こんな形で会えなくなるのが寂しいと思ってしまうんだよね」
「エルバ……」
「返事はすぐじゃなくていい。少し考えてみてくれないかな」
「本気で言ってるの?」
「おかしいかな」
「おかしくはないけど、親御さんのことがあって、ちょっと感傷的になってるだけじゃないかな」
「そうなのかな」
「そうだと思うよ。でも、気持ちは嬉しい。ありがとう」
「だったら、ちゃんと考えてくれないか」
「……それは、親御さんに嘘をつきたくないからじゃないの?」
「嘘ならもうついた後だよ」
「違うよ。嘘をついたことを後悔してるから、少しでも真実にしようとしてる。それは悪足掻きだよ」
「そう思うならそれでもいい。だけど俺は真剣な気持ちで伝えてる」
「エルバ……」
車の中がまた静まり返る。さっきまでとは違う沈黙。
エルバのことは嫌いじゃない。むしろ素敵な男性だと思うし、会話もしやすくて一緒にいるのが楽しいのも本当の気持ちだ。
だけど、こんなの一時的な感傷に過ぎない。
「ひと月」
「え?」
「来月本社に来るだろう? その時に答えを聞かせて欲しい。だから、真剣に考えて」
「エルバ、そんなこと考えるだけ無駄だよ」
「俺は慶弥としてお願いしてるんだよ。俺は瑞穂を好きになった。だからきちんと考えて欲しい」
酷く真剣な顔。伸ばされた手がそっと手が触れる。
こんな顔するなんて卑怯だ。こんな美しい顔をして、私を好きだなんて単語を口に出さないで欲しい。
「……卑怯だよ」
「卑怯でもいい。使えるものは使う」
静かに顔が近付いて、そのままキスに唇を奪われる。
「お願いだから、真剣に考えてみて」
「本当にズルい」
「ごめんね、俺も真剣だから」
再び沈黙が降りると、ようやくシートベルトを外し、家まで送ってもらったお礼を言う。
「遠いのにありがとう」
「いいよ。気にしないで」
「じゃあね」
「連絡、待ってるよ」
「どうかな。しないかもしれない」
「うん。でも来月本社に来た時は時間取ってもらう」
「分かった。真面目に考えてみる」
「ありがとう」
社員寮のマンションに入ると、それまで車の中から手を振っていたエルバがハンドルに手をかけ、Uターンした車はあっという間に遠ざかっていく。
(私はどうしたいんだろう)
宵闇に吸い込まれるように消えていくテールランプを見つめて、しばらくその場から動くことができなかった。
0
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
もつれた心、ほどいてあげる~カリスマ美容師御曹司の甘美な溺愛レッスン~
泉南佳那
恋愛
イケメンカリスマ美容師と内気で地味な書店員との、甘々溺愛ストーリーです!
どうぞお楽しみいただけますように。
〈あらすじ〉
加藤優紀は、現在、25歳の書店員。
東京の中心部ながら、昭和味たっぷりの裏町に位置する「高木書店」という名の本屋を、祖母とふたりで切り盛りしている。
彼女が高木書店で働きはじめたのは、3年ほど前から。
短大卒業後、不動産会社で営業事務をしていたが、同期の、親会社の重役令嬢からいじめに近い嫌がらせを受け、逃げるように会社を辞めた過去があった。
そのことは優紀の心に小さいながらも深い傷をつけた。
人付き合いを恐れるようになった優紀は、それ以来、つぶれかけの本屋で人の目につかない質素な生活に安んじていた。
一方、高木書店の目と鼻の先に、優紀の兄の幼なじみで、大企業の社長令息にしてカリスマ美容師の香坂玲伊が〈リインカネーション〉という総合ビューティーサロンを経営していた。
玲伊は優紀より4歳年上の29歳。
優紀も、兄とともに玲伊と一緒に遊んだ幼なじみであった。
店が近いこともあり、玲伊はしょっちゅう、優紀の本屋に顔を出していた。
子供のころから、かっこよくて優しかった玲伊は、優紀の初恋の人。
その気持ちは今もまったく変わっていなかったが、しがない書店員の自分が、カリスマ美容師にして御曹司の彼に釣り合うはずがないと、その恋心に蓋をしていた。
そんなある日、優紀は玲伊に「自分の店に来て」言われる。
優紀が〈リインカネーション〉を訪れると、人気のファッション誌『KALEN』の編集者が待っていた。
そして「シンデレラ・プロジェクト」のモデルをしてほしいと依頼される。
「シンデレラ・プロジェクト」とは、玲伊の店の1周年記念の企画で、〈リインカネーション〉のすべての施設を使い、2~3カ月でモデルの女性を美しく変身させ、それを雑誌の連載記事として掲載するというもの。
優紀は固辞したが、玲伊の熱心な誘いに負け、最終的に引き受けることとなる。
はじめての経験に戸惑いながらも、超一流の施術に心が満たされていく優紀。
そして、玲伊への恋心はいっそう募ってゆく。
玲伊はとても優しいが、それは親友の妹だから。
そんな切ない気持ちを抱えていた。
プロジェクトがはじまり、ひと月が過ぎた。
書店の仕事と〈リインカネーション〉の施術という二重生活に慣れてきた矢先、大問題が発生する。
突然、編集部に上層部から横やりが入り、優紀は「シンデレラ・プロジェクト」のモデルを下ろされることになった。
残念に思いながらも、やはり夢でしかなかったのだとあきらめる優紀だったが、そんなとき、玲伊から呼び出しを受けて……
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる