24 / 87
8.人を欺く代償①
しおりを挟む
「本当に大丈夫かな、この格好」
ボウタイの淡いブラウンのシャツにハイウエストのワイドパンツ。上にはパンツと同系色で黒いツイードジャケットを合わせ、足元はヒールが低い黒のパンプスを合わせた。
「落ち着いてて可愛いよ。やっぱり緊張する?」
「そりゃそうだよ」
エルバの実家近くに車を停めて、夕焼け空が綺麗な住宅街の遊歩道を歩く。
「そんなに緊張しなくていいよ」
「いや、緊張はするよ」
「そんなことより、今日一度も慶弥って呼ばれてないけど、そっちは大丈夫なワケ?」
「うっ」
「付け焼き刃のボロが出るぞ」
「分かったよ。ほら慶弥さん、ご家族待たせちゃうから急ご」
珍しく私からエルバの手を取ると、彼はちょっと面食らったように一瞬驚いた顔をしたけど、その後すぐに満足そうに私の手を握り返してくる。
そうして五分くらい歩くと、到着した家の立派な門構えに驚いて口が開いてしまう。
「嘘。めちゃくちゃ豪邸じゃない」
「そうかな? この辺りじゃ小さい方だよ」
「それかなり感覚が麻痺してると思う」
確かに、周りを見渡すと大きな家が並んでいるようだけど、エルバの実家だって負けてないと思う。
「じゃあ、心の準備はいいかな?」
「大丈夫。頑張ります」
「ふふ。よろしくね」
インターホンを鳴らすとすぐに中から返答があり、エルバが門を開けて中に入る。
門を抜けると広々とした庭がまず目に入って、センスのいいイングリッシュガーデンのような可愛らしい空間に、緊張した気持ちがちょっと和らぐ気がした。
「お袋が庭いじり好きなんだよね」
「へえ。凄く素敵だね」
このままのんびりお庭を見ていたいけど、そういう訳にもいかず、エルバについて庭を抜けて家の玄関に向かう。
すると玄関のドアが開いて、上品な雰囲気の女性が顔を出した。
「元気にしてたの慶弥。あらあら、こんにちは。今日はようこそおいでくださいました。お待ちしてましたのよ。慶弥の母です。息子がお世話になってます」
「初めまして。こちらこそお世話になっております。赤西と申します」
「ご丁寧にどうも。さあ、中へどうぞ」
エルバのお母様に案内されてご自宅に踏み入れると、玄関の先には四畳半くらいのウェイティングスペースが広がっていて、おしゃれなソファーやテーブルが置かれている。
(本物のお金持ちだ)
ちょっと下世話だけど、心の中でそんなことを思っていると、エルバが可笑しそうに口元に拳を当てて肩を揺らしているので、心の中を読まれたのかもしれない。
「さあさあ、お父さんも待ちくたびれちゃって。早く上がってらして」
そう言うとお母様は先にリビングがある方へ行ってしまう。
「ね、そんなに緊張しなくて大丈夫だろ」
「いや、するよ」
小声で呟いてエルバの腕を軽くつねると、また可笑しそうに笑うのを我慢する彼に続いてリビングに向かう。
「親父、彼女連れてきたよ」
リビングに入るなり、エルバは突然そんな声の掛け方をした。
「こら慶弥。お客様に失礼だろう。こんにちは、慶弥の父です。さあ、とりあえず座ってください」
エルバに雰囲気が似たダンディなお父様は苦笑すると、挨拶をしなければと焦る私を気遣って、とりあえず座ってくださいと笑顔を向けてくれる。
「本日は突然お邪魔して、お時間を作っていただきましてありがとうございます。慶弥さんとお付き合いをさせていただいております、赤西瑞穂と申します」
「ご丁寧にありがとうございます。だけどそんなに緊張しないで。リラックスしてくれて構いませんよ」
「ありがとうございます」
お父様との挨拶を終えると、お茶の支度をしていたお母様が、私とエルバの前に紅茶を出してくれる。
そのタイミングで手土産を袋から取り出すと、エルバから聞いたお母様の好物の焼き菓子を差し出した。
ボウタイの淡いブラウンのシャツにハイウエストのワイドパンツ。上にはパンツと同系色で黒いツイードジャケットを合わせ、足元はヒールが低い黒のパンプスを合わせた。
「落ち着いてて可愛いよ。やっぱり緊張する?」
「そりゃそうだよ」
エルバの実家近くに車を停めて、夕焼け空が綺麗な住宅街の遊歩道を歩く。
「そんなに緊張しなくていいよ」
「いや、緊張はするよ」
「そんなことより、今日一度も慶弥って呼ばれてないけど、そっちは大丈夫なワケ?」
「うっ」
「付け焼き刃のボロが出るぞ」
「分かったよ。ほら慶弥さん、ご家族待たせちゃうから急ご」
珍しく私からエルバの手を取ると、彼はちょっと面食らったように一瞬驚いた顔をしたけど、その後すぐに満足そうに私の手を握り返してくる。
そうして五分くらい歩くと、到着した家の立派な門構えに驚いて口が開いてしまう。
「嘘。めちゃくちゃ豪邸じゃない」
「そうかな? この辺りじゃ小さい方だよ」
「それかなり感覚が麻痺してると思う」
確かに、周りを見渡すと大きな家が並んでいるようだけど、エルバの実家だって負けてないと思う。
「じゃあ、心の準備はいいかな?」
「大丈夫。頑張ります」
「ふふ。よろしくね」
インターホンを鳴らすとすぐに中から返答があり、エルバが門を開けて中に入る。
門を抜けると広々とした庭がまず目に入って、センスのいいイングリッシュガーデンのような可愛らしい空間に、緊張した気持ちがちょっと和らぐ気がした。
「お袋が庭いじり好きなんだよね」
「へえ。凄く素敵だね」
このままのんびりお庭を見ていたいけど、そういう訳にもいかず、エルバについて庭を抜けて家の玄関に向かう。
すると玄関のドアが開いて、上品な雰囲気の女性が顔を出した。
「元気にしてたの慶弥。あらあら、こんにちは。今日はようこそおいでくださいました。お待ちしてましたのよ。慶弥の母です。息子がお世話になってます」
「初めまして。こちらこそお世話になっております。赤西と申します」
「ご丁寧にどうも。さあ、中へどうぞ」
エルバのお母様に案内されてご自宅に踏み入れると、玄関の先には四畳半くらいのウェイティングスペースが広がっていて、おしゃれなソファーやテーブルが置かれている。
(本物のお金持ちだ)
ちょっと下世話だけど、心の中でそんなことを思っていると、エルバが可笑しそうに口元に拳を当てて肩を揺らしているので、心の中を読まれたのかもしれない。
「さあさあ、お父さんも待ちくたびれちゃって。早く上がってらして」
そう言うとお母様は先にリビングがある方へ行ってしまう。
「ね、そんなに緊張しなくて大丈夫だろ」
「いや、するよ」
小声で呟いてエルバの腕を軽くつねると、また可笑しそうに笑うのを我慢する彼に続いてリビングに向かう。
「親父、彼女連れてきたよ」
リビングに入るなり、エルバは突然そんな声の掛け方をした。
「こら慶弥。お客様に失礼だろう。こんにちは、慶弥の父です。さあ、とりあえず座ってください」
エルバに雰囲気が似たダンディなお父様は苦笑すると、挨拶をしなければと焦る私を気遣って、とりあえず座ってくださいと笑顔を向けてくれる。
「本日は突然お邪魔して、お時間を作っていただきましてありがとうございます。慶弥さんとお付き合いをさせていただいております、赤西瑞穂と申します」
「ご丁寧にありがとうございます。だけどそんなに緊張しないで。リラックスしてくれて構いませんよ」
「ありがとうございます」
お父様との挨拶を終えると、お茶の支度をしていたお母様が、私とエルバの前に紅茶を出してくれる。
そのタイミングで手土産を袋から取り出すと、エルバから聞いたお母様の好物の焼き菓子を差し出した。
0
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!
めーぷる
恋愛
見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。
秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。
呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――
地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。
ちょっとだけ三角関係もあるかも?
・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。
・毎日11時に投稿予定です。
・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。
・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。
隠れ御曹司の愛に絡めとられて
海棠桔梗
恋愛
目が覚めたら、名前が何だったかさっぱり覚えていない男とベッドを共にしていた――
彼氏に浮気されて更になぜか自分の方が振られて「もう男なんていらない!」って思ってた矢先、強引に参加させられた合コンで出会った、やたら綺麗な顔の男。
古い雑居ビルの一室に住んでるくせに、持ってる腕時計は超高級品。
仕事は飲食店勤務――って、もしかしてホスト!?
チャラい男はお断り!
けれども彼の作る料理はどれも絶品で……
超大手商社 秘書課勤務
野村 亜矢(のむら あや)
29歳
特技:迷子
×
飲食店勤務(ホスト?)
名も知らぬ男
24歳
特技:家事?
「方向音痴・家事音痴の女」は「チャラいけれど家事は完璧な男」の愛に絡め取られて
もう逃げられない――
同居離婚はじめました
仲村來夢
恋愛
大好きだった夫の優斗と離婚した。それなのに、世間体を保つためにあたし達はまだ一緒にいる。このことは、親にさえ内緒。
なりゆきで一夜を過ごした職場の後輩の佐伯悠登に「離婚して俺と再婚してくれ」と猛アタックされて…!?
二人の「ゆうと」に悩まされ、更に職場のイケメン上司にも迫られてしまった未央の恋の行方は…
性描写はありますが、R指定を付けるほど多くはありません。性描写があるところは※を付けています。
一夜限りのお相手は
栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月
副社長氏の一途な恋~執心が結んだ授かり婚~
真木
恋愛
相原麻衣子は、冷たく見えて情に厚い。彼女がいつも衝突ばかりしている、同期の「副社長氏」反田晃を想っているのは秘密だ。麻衣子はある日、晃と一夜を過ごした後、姿をくらます。数年後、晃はミス・アイハラという女性が小さな男の子の手を引いて暮らしているのを知って……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる