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8.人を欺く代償①
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「本当に大丈夫かな、この格好」
ボウタイの淡いブラウンのシャツにハイウエストのワイドパンツ。上にはパンツと同系色で黒いツイードジャケットを合わせ、足元はヒールが低い黒のパンプスを合わせた。
「落ち着いてて可愛いよ。やっぱり緊張する?」
「そりゃそうだよ」
エルバの実家近くに車を停めて、夕焼け空が綺麗な住宅街の遊歩道を歩く。
「そんなに緊張しなくていいよ」
「いや、緊張はするよ」
「そんなことより、今日一度も慶弥って呼ばれてないけど、そっちは大丈夫なワケ?」
「うっ」
「付け焼き刃のボロが出るぞ」
「分かったよ。ほら慶弥さん、ご家族待たせちゃうから急ご」
珍しく私からエルバの手を取ると、彼はちょっと面食らったように一瞬驚いた顔をしたけど、その後すぐに満足そうに私の手を握り返してくる。
そうして五分くらい歩くと、到着した家の立派な門構えに驚いて口が開いてしまう。
「嘘。めちゃくちゃ豪邸じゃない」
「そうかな? この辺りじゃ小さい方だよ」
「それかなり感覚が麻痺してると思う」
確かに、周りを見渡すと大きな家が並んでいるようだけど、エルバの実家だって負けてないと思う。
「じゃあ、心の準備はいいかな?」
「大丈夫。頑張ります」
「ふふ。よろしくね」
インターホンを鳴らすとすぐに中から返答があり、エルバが門を開けて中に入る。
門を抜けると広々とした庭がまず目に入って、センスのいいイングリッシュガーデンのような可愛らしい空間に、緊張した気持ちがちょっと和らぐ気がした。
「お袋が庭いじり好きなんだよね」
「へえ。凄く素敵だね」
このままのんびりお庭を見ていたいけど、そういう訳にもいかず、エルバについて庭を抜けて家の玄関に向かう。
すると玄関のドアが開いて、上品な雰囲気の女性が顔を出した。
「元気にしてたの慶弥。あらあら、こんにちは。今日はようこそおいでくださいました。お待ちしてましたのよ。慶弥の母です。息子がお世話になってます」
「初めまして。こちらこそお世話になっております。赤西と申します」
「ご丁寧にどうも。さあ、中へどうぞ」
エルバのお母様に案内されてご自宅に踏み入れると、玄関の先には四畳半くらいのウェイティングスペースが広がっていて、おしゃれなソファーやテーブルが置かれている。
(本物のお金持ちだ)
ちょっと下世話だけど、心の中でそんなことを思っていると、エルバが可笑しそうに口元に拳を当てて肩を揺らしているので、心の中を読まれたのかもしれない。
「さあさあ、お父さんも待ちくたびれちゃって。早く上がってらして」
そう言うとお母様は先にリビングがある方へ行ってしまう。
「ね、そんなに緊張しなくて大丈夫だろ」
「いや、するよ」
小声で呟いてエルバの腕を軽くつねると、また可笑しそうに笑うのを我慢する彼に続いてリビングに向かう。
「親父、彼女連れてきたよ」
リビングに入るなり、エルバは突然そんな声の掛け方をした。
「こら慶弥。お客様に失礼だろう。こんにちは、慶弥の父です。さあ、とりあえず座ってください」
エルバに雰囲気が似たダンディなお父様は苦笑すると、挨拶をしなければと焦る私を気遣って、とりあえず座ってくださいと笑顔を向けてくれる。
「本日は突然お邪魔して、お時間を作っていただきましてありがとうございます。慶弥さんとお付き合いをさせていただいております、赤西瑞穂と申します」
「ご丁寧にありがとうございます。だけどそんなに緊張しないで。リラックスしてくれて構いませんよ」
「ありがとうございます」
お父様との挨拶を終えると、お茶の支度をしていたお母様が、私とエルバの前に紅茶を出してくれる。
そのタイミングで手土産を袋から取り出すと、エルバから聞いたお母様の好物の焼き菓子を差し出した。
ボウタイの淡いブラウンのシャツにハイウエストのワイドパンツ。上にはパンツと同系色で黒いツイードジャケットを合わせ、足元はヒールが低い黒のパンプスを合わせた。
「落ち着いてて可愛いよ。やっぱり緊張する?」
「そりゃそうだよ」
エルバの実家近くに車を停めて、夕焼け空が綺麗な住宅街の遊歩道を歩く。
「そんなに緊張しなくていいよ」
「いや、緊張はするよ」
「そんなことより、今日一度も慶弥って呼ばれてないけど、そっちは大丈夫なワケ?」
「うっ」
「付け焼き刃のボロが出るぞ」
「分かったよ。ほら慶弥さん、ご家族待たせちゃうから急ご」
珍しく私からエルバの手を取ると、彼はちょっと面食らったように一瞬驚いた顔をしたけど、その後すぐに満足そうに私の手を握り返してくる。
そうして五分くらい歩くと、到着した家の立派な門構えに驚いて口が開いてしまう。
「嘘。めちゃくちゃ豪邸じゃない」
「そうかな? この辺りじゃ小さい方だよ」
「それかなり感覚が麻痺してると思う」
確かに、周りを見渡すと大きな家が並んでいるようだけど、エルバの実家だって負けてないと思う。
「じゃあ、心の準備はいいかな?」
「大丈夫。頑張ります」
「ふふ。よろしくね」
インターホンを鳴らすとすぐに中から返答があり、エルバが門を開けて中に入る。
門を抜けると広々とした庭がまず目に入って、センスのいいイングリッシュガーデンのような可愛らしい空間に、緊張した気持ちがちょっと和らぐ気がした。
「お袋が庭いじり好きなんだよね」
「へえ。凄く素敵だね」
このままのんびりお庭を見ていたいけど、そういう訳にもいかず、エルバについて庭を抜けて家の玄関に向かう。
すると玄関のドアが開いて、上品な雰囲気の女性が顔を出した。
「元気にしてたの慶弥。あらあら、こんにちは。今日はようこそおいでくださいました。お待ちしてましたのよ。慶弥の母です。息子がお世話になってます」
「初めまして。こちらこそお世話になっております。赤西と申します」
「ご丁寧にどうも。さあ、中へどうぞ」
エルバのお母様に案内されてご自宅に踏み入れると、玄関の先には四畳半くらいのウェイティングスペースが広がっていて、おしゃれなソファーやテーブルが置かれている。
(本物のお金持ちだ)
ちょっと下世話だけど、心の中でそんなことを思っていると、エルバが可笑しそうに口元に拳を当てて肩を揺らしているので、心の中を読まれたのかもしれない。
「さあさあ、お父さんも待ちくたびれちゃって。早く上がってらして」
そう言うとお母様は先にリビングがある方へ行ってしまう。
「ね、そんなに緊張しなくて大丈夫だろ」
「いや、するよ」
小声で呟いてエルバの腕を軽くつねると、また可笑しそうに笑うのを我慢する彼に続いてリビングに向かう。
「親父、彼女連れてきたよ」
リビングに入るなり、エルバは突然そんな声の掛け方をした。
「こら慶弥。お客様に失礼だろう。こんにちは、慶弥の父です。さあ、とりあえず座ってください」
エルバに雰囲気が似たダンディなお父様は苦笑すると、挨拶をしなければと焦る私を気遣って、とりあえず座ってくださいと笑顔を向けてくれる。
「本日は突然お邪魔して、お時間を作っていただきましてありがとうございます。慶弥さんとお付き合いをさせていただいております、赤西瑞穂と申します」
「ご丁寧にありがとうございます。だけどそんなに緊張しないで。リラックスしてくれて構いませんよ」
「ありがとうございます」
お父様との挨拶を終えると、お茶の支度をしていたお母様が、私とエルバの前に紅茶を出してくれる。
そのタイミングで手土産を袋から取り出すと、エルバから聞いたお母様の好物の焼き菓子を差し出した。
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