嘘つき同士は真実の恋をする。

濘-NEI-

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7.模擬デート②

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【おはよう。寝坊しなかったみたいだね】
 昨夜一緒に過ごしたせいか、メッセージは自動的に脳内でエルバの声になって音声再生される。
 それをなんだか不思議だなと思いながらも、続いて届いた文面を確認してメッセージを返す。
 エルバは部屋まで迎えに来てくれるらしく、勝手にチェックアウトを済ませるなと釘を刺されてしまったので、大人しく言うことを聞くことにする。
 ヘアスタイルは散々悩んだけど、ヘアアイロンもないのでハーフアップはやめて、毛先を編み込んでからほぐして、緩やかにシニヨンにしてまとめることにした。
「この服と全然噛み合ってないな」
 鏡に映った自分に苦笑すると、今日買うべき洋服をなんとなく想像する。
 あまりフォーマルすぎず、かと言ってカジュアルでもない服装となると、ワンピースかオフィスカジュアル寄りの服になるだろうか。
 自分で考えてもよく分からないので、スマホの検索を使って『恋人の両親への挨拶、服装、三十代』と入力して画像を色々とチェックする。
「なるほど。ワンピースよりセットアップかな。ブラウスにパンツスタイルでも大丈夫そうだな。あ、靴も買わないとダメだ」
 画面をスクロールさせてさまざまなコーデを確認しているうちに、あっという間に時間が経っていたらしい。
 再びドアチャイムが鳴ってビクッとすると、今度はドアの向こうにエルバが立っていた。
「はい。今開けます」
「おはよう。ゆっくり眠れた?」
「どうかな。緊張してたのか、寝たの明け方なんだよね」
「そうだったんだ。でもお腹は減ってたみたいだね」
 テーブルに載ったままの食器を見て、エルバは楽しげに笑う。
(ちくしょう。朝から眩しいんだよ、その笑顔)
 オフホワイトのカットソーにネイビーのジャケットを羽織り、グレーのスラックスと足元の黒い革靴はウイングチップ。
 昨日は割とラフな格好だったので、エルバもそれなりにかっちりめのファッションを選んできたということだろうか。
「俺、なんか変?」
「いや。昨日とは違うなと思って」
「今日はデートだからね。オシャレしてきたよ」
「また。すぐそうやってふざける」
 ゆうべのこともあるので、うっかりエルバのペースに乗せられないように受け流す。
 そして雑談を続けながら、忘れ物がないか確認を済ませると、バッグにスマホを入れて支度を終えた。
「よし。準備出来たよ」
「じゃあ行こうか」
 二人で部屋を出ると、エレベーターを待つ間にヘアスタイルの話になる。
「今日は髪をまとめてるんだね」
「うん。後でセットするのも大変だから、これに合わせた服を選ぶ感じかな」
「その格好も可愛いけどね」
「ご挨拶向きじゃないと思うよ」
 到着したエレベーターに乗り込んで一階に降りると、エルバは私にロビーで待っていて欲しいと言って、コンシェルジュの所へ向かっていった。
 その様子を何気なく見ていると、握手をして楽しげに話しているので、彼がエルバの言っていた伝手ということだろうか。
 そしてそのままエルバはコンシェルジュの男性と談笑しながらフロントへ行き、チェックアウトの手続きを済ませているらしかった。
「ここで走っていくのは無粋か。後で精算しないとな」
 お詫びだからとホテルの宿泊費に関しては気にしなくていいと言われているけれど、さすがに言葉そのままを受け入れる訳にはいかない。
 そしてロビーを見渡して待っていると、いつの間にか全てを終えたエルバが私の元に戻ってきた。
「よし。じゃあ行こうか」
「後で精算するから、ちゃんと払わせてよね」
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