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5.具体的な行動について②

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「正確にはうちで経営してるリゾートホテルのスタッフなんだよ。ホテルは子会社までいかないけど、半独立部門だから、今まで直接会うことがなかったんだ」
「そんな偶然あるのかよ」
 タラントさんは心底驚いた様子で私を見る。
「私も驚いてます」
 エルバはその立場上、うちのホテルに何度かも足を運んだことはあるけど、運がいいのか悪いのか、私が出勤してる時に遭遇したことはなかった。
 だけどエルバがさっき言ったように、うちのホテルはワイナリーと違って運営形態がかなり特殊だ。
 それが証拠に、ホテル部門はGMジェネラルマネージャー中森なかもりさんがトップの体制という印象が強い。
「今までの人生で一番驚いたかも」
 エルバはフッと噴き出すと、じわじわとツボにハマったようにお腹を抱えて笑い始める。
 すると釣られたようにタラントさんも笑い始め、いよいよ私も笑うしかなくて声をあげて笑う。
「こんな偶然があるなんてな」
「本当にびっくり」
 ひとしきり笑い飛ばすと、エルバが思い出したように、電話は良かったのかとタラントさんに声を掛けた。
「それより、姉ちゃん怒ってたんじゃないの」
「そうだった。慶弥と飲むのに、わざわざ外で集まってなにしてるのかって」
「家でいいじゃんって言われた?」
「そうなんだよ。だから、慶弥の彼女を紹介してもらってるって言ったら、連れてこいって」
「え、そうなんですか」
 唐突すぎる話の流れに驚いてタラントさんを見ると、断っといたから大丈夫と肩を叩かれた。
「いきなりはハードル高いよ。だから気にしなくていい」
「ちょっと待って」
 笑顔のタラントさんと対照的に、エルバは真剣な顔になって小さく頷くと、きっかけになるよと呟いた。
「いや、これはこれでチャンスかも」
「チャンス?」
「姉ちゃんなら、この話黙ってない。既にお袋に話してる可能性が高い」
「あ、そっか」
 タラントさんは納得したように頷いて、アイツはちょっと口が軽いと苦笑する。
「となると、お袋から俺に様子見の連絡があるはずだ」
 エルバがそう言ったタイミングで、テーブルの上に載っていた彼のスマホが着信で震える。
「ビンゴ。お袋からだ」
 正直なところ、予想通りエルバのお母様から連絡があったことよりも、私生活でビンゴって使う人いるんだなとか、そんなくだらないことに驚いて笑いが込み上げてしまう。
「どしたの」
 私の異変に気付いたタラントさんが不思議そうな顔をして、私の顔を覗き込んでくる。
 無理もない。結構真面目な話をしているのに、一人でクスクス笑っている私の方が変なのだ。
「とりあえず、ちょっと電話に出てくるよ」
 エルバも不思議そうにしていたけれど、立ち上がって電話に出ながら隣の部屋に移動していった。
「マジで、なんで笑ってんの」
「ごめんなさい。日常会話でビンゴって使うんだと思ったら、なんかジワジワきて」
「は、そこ?」
 タラントさんは驚きながらも、確かにとクスクス笑い始めた。
 私たちがそんなくだらないことで談笑している間に、エルバは電話でヒートアップしているらしく、ドアが開いたままの隣の部屋から大きな声が聞こえてくる。
「だからぁ、日を改めるって言ってんの!」
 なかなかの剣幕で、こちらに声が届いてることに気付く余裕もなさそうな雰囲気が伝わってくる。
「あぁ、あれは今すぐ連れてこいって言われてんな」
「え、そうなんですか」
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