10 / 87
4.オフ会①
しおりを挟む
あれから何度かゲーム内で一緒にプレイすることが増えて、エルバと会話することに緊張や抵抗は薄れて来たと思う。
「どうしたの。なんか元気なくない?」
ランチ終わりの更衣室で帰り支度をしていると、入れ替わりで遅番勤務のために着替えをしている同僚に声をかけられた。
「いや、そんなことないよ」
「そう? ならいいんだけど。今日はオフ会だっけ」
「そうなんだー。めっちゃ楽しみよ。肉だよ、肉!」
「よそで食べる肉は格段に美味しいよね。それにしても凄いよね、なんだっけ? ゲーム仲間だっけ」
「そうそう」
「実際に会うとか、本当コミュ力高いよね」
「そうでもないよ」
今夜は三人でのオフ会。つまりエルバと直接会う日。
エルバと最初に会話してから半月ほどが経ち、タラントさんを含めた三人の予定がようやく合う。
そもそも私がシフト制の勤務なので、会社員で土日が主に休みの二人とは予定が合わせづらいのが原因で、なかなか予定が合わせられなかった。
そこをなんとか土日で連休を取ることが出来たのは、先日視察に来た本社の方からの反応がよく、私への評価が高かったことも少なからず影響している。
「じゃあ、楽しい週末をね」
「うん。ありがとう」
同僚が先に更衣室を出ると、私は改めてスマホを手に取ってタラントさんからのメッセージを確認し、少しだけ重たい気持ちのまま溜め息を吐く。
都内といっても郊外のここからだと、集合場所に到着するまでに二時間近くかかる。
移動にそこまでの時間がかかることも気が重い理由ではあるけれど、終電に間に合う時間に解散になるのか分からないので、ホテルの手配はしていないのも面倒で不安だったりする。
最悪の場合、週末とはいえ駅近くのビジネスホテルか、カプセルホテルなら予約はしてないけど一部屋くらいの空きはあるだろうから、どうにかするしかない。
「さて。行きますか」
ホテルを出て手配していたタクシーに乗り込むと、昼過ぎまで心地好い晴れ間が広がっていたはずなのに、窓から見上げる空模様が曇って来た。
タラントのさんの希望を叶えるために、何本かワインを見繕って来たので大荷物になってしまったけれど、向こうは雨でも降ってるんだろうか。
天気予報をチェックし忘れていたことにゲンナリしつつ、スマホで調べてみると集合場所では既に雨が降ってることを知り、折り畳み傘を忘れてしまった自分を呪いたくなった。
(どこかで傘買わないとな)
久々に仕事以外で人に会うので、今日は少しだけオシャレして、アイボリーのシアーインナーに、黒いVネックのチュニック丈のワンピースを重ね、ボトムはスキニーデニム。
それだけだと肌寒いので、上着にライダースジャケットを羽織って、足元はエンジニアブーツにした。
向かう先が雨なので、ブーツを履いて来て正解だったかもしれない。
駅に到着すると、予定よりも一本早い電車に乗り込んで、ドアに近い席に腰を下ろし、バッグから取り出したイヤホンを着けて読みかけの本を手に取る。
ソムリエという仕事柄、表現力を試される場面は多く、読書だけじゃなくて映画やドラマ、アニメからでも学ぶことは多い。だから雑食気味に様々なインプットは怠らない。
まあでも半分は趣味で、実際のところゲストにワインの味を説明する際に、詩的な表現を使うことは私の場合は極端に少ない。
稀にワインに詳しいお客様がお見えになることはあるけれど、基本的には分かりやすく、オレンジの香りに近い爽やかさだとか、かなり砕いた表現を心がけていたりする。
だけど本を読んだり、映画やドラマを見たりすることで、会話のテンポだったり間の取り方なんかはバリエーションが増えていると思いたい。
(何が仕事に関連してくるか分からないもんね)
「どうしたの。なんか元気なくない?」
ランチ終わりの更衣室で帰り支度をしていると、入れ替わりで遅番勤務のために着替えをしている同僚に声をかけられた。
「いや、そんなことないよ」
「そう? ならいいんだけど。今日はオフ会だっけ」
「そうなんだー。めっちゃ楽しみよ。肉だよ、肉!」
「よそで食べる肉は格段に美味しいよね。それにしても凄いよね、なんだっけ? ゲーム仲間だっけ」
「そうそう」
「実際に会うとか、本当コミュ力高いよね」
「そうでもないよ」
今夜は三人でのオフ会。つまりエルバと直接会う日。
エルバと最初に会話してから半月ほどが経ち、タラントさんを含めた三人の予定がようやく合う。
そもそも私がシフト制の勤務なので、会社員で土日が主に休みの二人とは予定が合わせづらいのが原因で、なかなか予定が合わせられなかった。
そこをなんとか土日で連休を取ることが出来たのは、先日視察に来た本社の方からの反応がよく、私への評価が高かったことも少なからず影響している。
「じゃあ、楽しい週末をね」
「うん。ありがとう」
同僚が先に更衣室を出ると、私は改めてスマホを手に取ってタラントさんからのメッセージを確認し、少しだけ重たい気持ちのまま溜め息を吐く。
都内といっても郊外のここからだと、集合場所に到着するまでに二時間近くかかる。
移動にそこまでの時間がかかることも気が重い理由ではあるけれど、終電に間に合う時間に解散になるのか分からないので、ホテルの手配はしていないのも面倒で不安だったりする。
最悪の場合、週末とはいえ駅近くのビジネスホテルか、カプセルホテルなら予約はしてないけど一部屋くらいの空きはあるだろうから、どうにかするしかない。
「さて。行きますか」
ホテルを出て手配していたタクシーに乗り込むと、昼過ぎまで心地好い晴れ間が広がっていたはずなのに、窓から見上げる空模様が曇って来た。
タラントのさんの希望を叶えるために、何本かワインを見繕って来たので大荷物になってしまったけれど、向こうは雨でも降ってるんだろうか。
天気予報をチェックし忘れていたことにゲンナリしつつ、スマホで調べてみると集合場所では既に雨が降ってることを知り、折り畳み傘を忘れてしまった自分を呪いたくなった。
(どこかで傘買わないとな)
久々に仕事以外で人に会うので、今日は少しだけオシャレして、アイボリーのシアーインナーに、黒いVネックのチュニック丈のワンピースを重ね、ボトムはスキニーデニム。
それだけだと肌寒いので、上着にライダースジャケットを羽織って、足元はエンジニアブーツにした。
向かう先が雨なので、ブーツを履いて来て正解だったかもしれない。
駅に到着すると、予定よりも一本早い電車に乗り込んで、ドアに近い席に腰を下ろし、バッグから取り出したイヤホンを着けて読みかけの本を手に取る。
ソムリエという仕事柄、表現力を試される場面は多く、読書だけじゃなくて映画やドラマ、アニメからでも学ぶことは多い。だから雑食気味に様々なインプットは怠らない。
まあでも半分は趣味で、実際のところゲストにワインの味を説明する際に、詩的な表現を使うことは私の場合は極端に少ない。
稀にワインに詳しいお客様がお見えになることはあるけれど、基本的には分かりやすく、オレンジの香りに近い爽やかさだとか、かなり砕いた表現を心がけていたりする。
だけど本を読んだり、映画やドラマを見たりすることで、会話のテンポだったり間の取り方なんかはバリエーションが増えていると思いたい。
(何が仕事に関連してくるか分からないもんね)
0
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。
憧れのあなたとの再会は私の運命を変えました~ハッピーウェディングは御曹司との偽装恋愛から始まる~
けいこ
恋愛
15歳のまだ子どもだった私を励まし続けてくれた家庭教師の「千隼先生」。
私は密かに先生に「憧れ」ていた。
でもこれは、恋心じゃなくただの「憧れ」。
そう思って生きてきたのに、10年の月日が過ぎ去って25歳になった私は、再び「千隼先生」に出会ってしまった。
久しぶりに会った先生は、男性なのにとんでもなく美しい顔立ちで、ありえない程の大人の魅力と色気をまとってた。
まるで人気モデルのような文句のつけようもないスタイルで、その姿は周りを魅了して止まない。
しかも、高級ホテルなどを世界展開する日本有数の大企業「晴月グループ」の御曹司だったなんて…
ウエディングプランナーとして働く私と、一緒に仕事をしている仲間達との関係、そして、家族の絆…
様々な人間関係の中で進んでいく新しい展開は、毎日何が起こってるのかわからないくらい目まぐるしくて。
『僕達の再会は…本当の奇跡だ。里桜ちゃんとの出会いを僕は大切にしたいと思ってる』
「憧れ」のままの存在だったはずの先生との再会。
気づけば「千隼先生」に偽装恋愛の相手を頼まれて…
ねえ、この出会いに何か意味はあるの?
本当に…「奇跡」なの?
それとも…
晴月グループ
LUNA BLUホテル東京ベイ 経営企画部長
晴月 千隼(はづき ちはや) 30歳
×
LUNA BLUホテル東京ベイ
ウエディングプランナー
優木 里桜(ゆうき りお) 25歳
うららかな春の到来と共に、今、2人の止まった時間がキラキラと鮮やかに動き出す。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
元カノと復縁する方法
なとみ
恋愛
「別れよっか」
同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。
会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。
自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。
表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
年下男子に追いかけられて極甘求婚されています
あさの紅茶
恋愛
◆結婚破棄され憂さ晴らしのために京都一人旅へ出かけた大野なぎさ(25)
「どいつもこいつもイチャイチャしやがって!ムカつくわー!お前ら全員幸せになりやがれ!」
◆年下幼なじみで今は京都の大学にいる富田潤(20)
「京都案内しようか?今どこ?」
再会した幼なじみである潤は実は子どもの頃からなぎさのことが好きで、このチャンスを逃すまいと猛アプローチをかける。
「俺はもう子供じゃない。俺についてきて、なぎ」
「そんなこと言って、後悔しても知らないよ?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる