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2.断りづらいお願い①
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子どもを寝かしつけたまごころお餅が合流して、オンライン飲み会はしばらくの間盛り上がり、午前一時を過ぎた頃にようやくお開きになった。
『じゃあまたねー』
「お疲れ」
『お疲れ様でした』
まごころお餅とネギ味噌ちゃんがログアウトにすると、まだ画面が開いたままのタラントさんが、ちょっといいかなと話しかけてきて、ログアウトのタイミングを見失う。
『ロッソに話があってさ』
「どうしたんですか」
『ネギ味噌から聞いたと思うけど、エルバのことなんだよね』
「エルバさん、ですか?」
聞けばエルバさんは、親御さんからの結婚しろ攻撃に疲弊しているようで、最近ずっと元気がないらしい。
『ロッソも同じようなことで悩んでるんだろ』
「ええまあ、平たく言えば」
『エルバはいい奴だし、軽いノイローゼみたいになってるのが可哀想でさ。ロッソに頼めないかと思って』
「え、ごめんなさい。なにを頼むんですか」
『ああ、説明が足りなかったね。ロッソにさ、エルバの恋人役を頼めないかと思って』
「は?」
あまりにも突然で無謀な話に言葉を失うと、タラントさんはそうなるよねと苦笑して頭を掻く。
『悪いロッソ。お前めちゃくちゃいい奴だから、俺ちょっと甘えすぎたな』
「いえいえ。でもエルバさんって女性ですよね? それなのに私が恋人役って……」
『あれ、オフ会で会ったことなかったっけ? エルバは男だよ』
「そうなんですか。実はお会いしたり絡んだことなくて。タラントさんと知り合いで、古参のプレイヤーってことしか知らなくて」
『へえ、ロッソがそんなこと言うの珍しいな。本当にゲームでも話したことない?』
「それがないんですよ。ギルメンはほぼご挨拶済ませてると思ってたんですけど、さっきネギ味噌ちゃんから聞いて気付きました」
私が〈グラズヘイム〉で遊ぶようになって、タラントさんのギルドに加入してからもうすぐ三年。
それなのにゲーム内でも絡んだことがないのは、確かに私にとっても不思議な感じがする。
『なら顔通しも兼ねて、エルバに会ってみない?』
「なんですか。めっちゃ押してきますね」
『ロッソならいい奴だし、恋人役と言わず、紹介したいんだけどなあ』
「いやいや、エルバさんのご機嫌損ねますよ? お友だちなんですよね、絶対嫌がられますよ」
『そんなことないって。ロッソも気に入ると思うぞ。アイツ結構イケメンなんだよ、あ、四十前だしイケオジか。そんな感じなんだけど、どうかな』
「いや、どうって言われても」
妻子持ちとはいえ、めちゃくちゃカッコいいタラントさんがイケメンというのは少し気になるけど、それなら尚更、こんな特徴のない女に興味を持ってくれるとも思えない。
『頼む。一生のお願い。エルバに協力してやって欲しいんだ。ロッソだから頼んでるんだよ。アイツ結構ガチで参ってて、どうにかして助けてやりたいんだ』
タラントさんは画面越しに私に拝んでみせて、必死に頭を下げてくる。
お酒を飲んでいるから揶揄ってるのかとも思うけど、画面に映る表情を見る限り、言葉通りとても真剣なのが伝わってくる。
「お会いしても話は進まないと思いますよ?」
『ダメ元でいいんだ。それにロッソも親から同じようなこと言われてるんだろ』
「そりゃまあ、そうなんですけど」
『条件が合えばさ、上手く親に言い訳が立つかもしれないじゃないか。結婚はまだ考えてないけど相手はちゃんといるってことでさ』
「いや。この歳なんで、相手がいたら早く結婚しろって言われちゃいますよ」
『そこはなるようになるって。マジで、付き合うのが無理でも、フリで協力し合えるかもしれないし。アイツと会ってやってくれないかな』
ここまでお願いされると、断るのはなんだか申し訳ない気持ちになってくる。
「協力出来るか分からないですけど、そこまで仰るなら、私は大丈夫ですよ」
『じゃあまたねー』
「お疲れ」
『お疲れ様でした』
まごころお餅とネギ味噌ちゃんがログアウトにすると、まだ画面が開いたままのタラントさんが、ちょっといいかなと話しかけてきて、ログアウトのタイミングを見失う。
『ロッソに話があってさ』
「どうしたんですか」
『ネギ味噌から聞いたと思うけど、エルバのことなんだよね』
「エルバさん、ですか?」
聞けばエルバさんは、親御さんからの結婚しろ攻撃に疲弊しているようで、最近ずっと元気がないらしい。
『ロッソも同じようなことで悩んでるんだろ』
「ええまあ、平たく言えば」
『エルバはいい奴だし、軽いノイローゼみたいになってるのが可哀想でさ。ロッソに頼めないかと思って』
「え、ごめんなさい。なにを頼むんですか」
『ああ、説明が足りなかったね。ロッソにさ、エルバの恋人役を頼めないかと思って』
「は?」
あまりにも突然で無謀な話に言葉を失うと、タラントさんはそうなるよねと苦笑して頭を掻く。
『悪いロッソ。お前めちゃくちゃいい奴だから、俺ちょっと甘えすぎたな』
「いえいえ。でもエルバさんって女性ですよね? それなのに私が恋人役って……」
『あれ、オフ会で会ったことなかったっけ? エルバは男だよ』
「そうなんですか。実はお会いしたり絡んだことなくて。タラントさんと知り合いで、古参のプレイヤーってことしか知らなくて」
『へえ、ロッソがそんなこと言うの珍しいな。本当にゲームでも話したことない?』
「それがないんですよ。ギルメンはほぼご挨拶済ませてると思ってたんですけど、さっきネギ味噌ちゃんから聞いて気付きました」
私が〈グラズヘイム〉で遊ぶようになって、タラントさんのギルドに加入してからもうすぐ三年。
それなのにゲーム内でも絡んだことがないのは、確かに私にとっても不思議な感じがする。
『なら顔通しも兼ねて、エルバに会ってみない?』
「なんですか。めっちゃ押してきますね」
『ロッソならいい奴だし、恋人役と言わず、紹介したいんだけどなあ』
「いやいや、エルバさんのご機嫌損ねますよ? お友だちなんですよね、絶対嫌がられますよ」
『そんなことないって。ロッソも気に入ると思うぞ。アイツ結構イケメンなんだよ、あ、四十前だしイケオジか。そんな感じなんだけど、どうかな』
「いや、どうって言われても」
妻子持ちとはいえ、めちゃくちゃカッコいいタラントさんがイケメンというのは少し気になるけど、それなら尚更、こんな特徴のない女に興味を持ってくれるとも思えない。
『頼む。一生のお願い。エルバに協力してやって欲しいんだ。ロッソだから頼んでるんだよ。アイツ結構ガチで参ってて、どうにかして助けてやりたいんだ』
タラントさんは画面越しに私に拝んでみせて、必死に頭を下げてくる。
お酒を飲んでいるから揶揄ってるのかとも思うけど、画面に映る表情を見る限り、言葉通りとても真剣なのが伝わってくる。
「お会いしても話は進まないと思いますよ?」
『ダメ元でいいんだ。それにロッソも親から同じようなこと言われてるんだろ』
「そりゃまあ、そうなんですけど」
『条件が合えばさ、上手く親に言い訳が立つかもしれないじゃないか。結婚はまだ考えてないけど相手はちゃんといるってことでさ』
「いや。この歳なんで、相手がいたら早く結婚しろって言われちゃいますよ」
『そこはなるようになるって。マジで、付き合うのが無理でも、フリで協力し合えるかもしれないし。アイツと会ってやってくれないかな』
ここまでお願いされると、断るのはなんだか申し訳ない気持ちになってくる。
「協力出来るか分からないですけど、そこまで仰るなら、私は大丈夫ですよ」
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