マイベイビー(傲慢王子は、偽装愛人少年を溺愛する。この気持ちは、恋であってはならない)

みゃー

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ワイン

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 結局、グレンはそのまま眠り続け、アシュも、まるでグレンの母のようにグレンを腕に抱いたままいつしか眠った。そして朝になり、キングサイズのベッドで先に目覚めたのは今回もアシュが先だった。

 スー……スー……スー…

 カーテン越しの穏やかな朝光の当たる部屋に、グレンのとても静かな寝息だけがする。
 アシュは、グレンを起こさないよう、体勢を変えず上から見る感じでグレンの寝顔を見た。
 そして以前も思ったが、やはりグレンの寝顔は子供のようにかわいいとアシュは思った。そしてこうしていればグレンも、アシュとそれ程変わりのないただの人間の様な気さえした。
 しかし… アシュは、その感情はいつもの様にすぐに消し去らなければならなかった。

 (馬鹿な……俺とグレン様では何もかも違い過ぎる。分かり合える事など永遠にない…)
 
 そしてグレンには、アシュの乳母の任を解く事だけを、ただ一つそれだけ一刻も早く理解してもらえれば良いのだと思った。
 アシュがそんな事を考えながらグレンの寝顔を見続けていると、突然、グレンの両瞼がパっと開いた。

 「ここは…」

 グレンはそう呟くと、一瞬自分が今どこに居るのか確認するように周りを見回すと、次の瞬間ガバッとアシュの腕の中から起き上がった。そのままグレンは、ボタン
を上半分止めてない乱れた軍服の白いYシャツと黒のズボンのままベッドサイドに座り込みアシュに背を向けた。
 いつもより少し丸まっているグレンの背中に、アシュは?と言う顔をした。

 「あっ……あの…」

 沈黙に耐えられずアシュは、グレンの背中に声を掛けた。
 しかし、グレンから返事が無い。
 アシュは、戸惑う。
 だがグレンはアシュに背を向けたまま、いつも自信に満ちている彼らしくない、ボソボソという感じで話し出した。
  
 「思い出した……そうだった……昨日の夜はお前の所に、私は自分で来たんだ。でも、ふっ……普段は昨日みたいな、あんな事は絶対に無い。あんな酔った姿を人に見せるなんて…」

 アシュは、その言葉を不思議に思い小首を傾げて言った。

 「あの……完全に我を忘れてた訳ではないですし。別にあれくらいなら酔うのはたまには良いのではありませんか?グレン様は、本当に立派にいつも働いておられます。グレン様もたまには息抜きする時間も必要なのでは?俺の兄さんなんて、家に俺がいたらいつも記憶を無くす位酒を飲んでグダグダで、この前なんか…」

 アシュは、媚てる訳でも嘘でも無く本当にそう思った。しかしアシュは、振り返らず無言で聞いているグレンの背中を見て、グレンがアシュの言葉に同意しないだろうと感じてハッとして訂正した。

 「あっ……すいません。俺……生意気言いました。それにグレン様は大切なお体だから、衛兵が沢山いても暴漢からお体を守る為にも酔う事は避けるべきでしょうし、俺の兄さんとグレン様では立場が違いすぎました」

 すると、グレンは少し間を開け言った。

 「いや……」 
 「え?!」

 アシュは、戸惑う。てっきり、グレンは怒り出すと思ったから。


 「いや……いいのだ…」

 グレンは、アシュの予想外に穏やかな声でそう言うと続けて言った。

 「それで?」
 「あっ?それで……とは?」
 「お前の兄だ。お前の兄は、この前どうだった?」
 「あっ…兄はこの前酔っぱらい過ぎて台所が自分の部屋だと思って、服を全部脱いで真っ裸でテーブルの上で寝てました」
 「ククっ…」

 グレンが、僅かだが笑った。
 アシュはそれを聞き、目を丸くした。
 だが、グレンは振り返らず言葉を続けた。

 「私もたまに、酔ってる貴族連中の姿は見るが、流石にそこまでは見た事は無いな。でも町に住む普通の国民には、お前の兄のように酔っぱらう者は多いのだろう?」
 「あ…はい。他の大人達も、結構兄のように酔っぱらってます」
 「そうか……町の大衆酒場という所は私は行った事は無いが、さぞ賑やかなんだろうな」
 「はい。毎晩どこの大衆酒場も賑やかです」

 グレンはまだ振り返らないが、
穏やかな口調は続いた。

 「お前の兄は、どんな酒を飲むんだ?」
 「そうですね。やはりビールが好きですね。ワインもたまに飲むみたいですが」

 更にグレンは、アシュが思ってもみなかった事を言い始めた。

 「アシュ……お前が酒を飲めるのは、2年後だな」

 この国は、国教のシンボルの女神の教義と信奉もあり、飲酒は20歳からだ。

 「はい」
 「なら、2年後に、私が最高のワインを用意してやる。お前が20歳になった記念に…」

 だがアシュは、返事に窮した。アシュは、一日も早く乳母を辞めてグレンの元を去りたいのだ。アシュは2年後にはグレンの傍にはいないだろうし、グレンの前には二度と永遠に現れないはずだ。
 それでもアシュは今は、笑顔を無理やり作りそう答えるしか無かった。

 「はい……ありがとうございます…」

 すると急に、グレンが座ったままアシュに振り返って言った。

 「アシュ……今から私と一緒に風呂に入るぞ」


 


  
 

 

 




 

 
 

 



 
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