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夜更け

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 グレンは、部屋から去った。
 
 それから、アシュにとって男の貞操帯の違和感はかなりのものだった。意識を違う所に向けようとしても、やたら下半身が気になって気になって、頭がどうかなりそうだった。

 (貞操帯なんて、婬乱で常軌を逸してる)
 
 アシュはそう思う。
 アシュは、貞操帯を嵌めた時から離宮では大き目のローブとその下にボトムしか着る事をグレンから許されなくなった。股間の貞操帯による膨らみを隠す為だ。
 しかし、どこの誰が、いかにも見た目常識的なアシュのアソコに貞操帯が嵌ってるなんて思うだろうか?
 だがその反面、アシュのペニスをいつも常に直にグレンの手に握られているような妖しい感覚と悦びも感じる時もあり、ペニスは反応しなくても後孔がキュッと反応したり、乳首の辺りがジーんと昂る感覚を感じた。そして常にグレンの事が脳裏に浮かび増々懊悩した。
 しかし、溜まっている心身の疲れからか、いつしかアシュは眠ってしまい、気付くともう昼食だった。

 アシュが、大人しくグレンの言う事さえ聞いていれば贅沢な生活が約束されると言うグレンの言葉は本当に真実だ。
 侍女や侍従がテーブルに用意したアシュの昼食は、肉からパンから果物、紅茶に至るまで最高級品で、アシュが食べきれない量が用意された。
 ただ、アシュがこんなに量は食べられないので、次回から量を少し減らして欲しいと言っても、侍従達は

「グレン様からアシュ様に沢山食事を用意するようにと申し付けられておりますので」

と、首を縦には決して振らなかった。
 そしてその後は、今夜又グレンがアシュを訪ねるまで何もする事を許されず、だた部屋でグレンを待つしかなかった。
 贅沢な衣食住に恵まれてはいるが、アシュの意志や意見などは一切関係無くて無視される。

 (やっぱ、ここで生活は無理だ…)

 何も出来ないアシュが考えてしまうのは、やはりどうしてもこれからの事だ。
 考えながら、窓の開かない嵌め殺しになっているガラス窓より離宮からの風景を眺めた。以前アシュが通った広大なバラ園も見える。今日も花々は己の美を競うように咲いてはいたが、ガラス窓の前に鉄の格子も嵌っていて風景の邪魔をした。
 この世界の母乳の出る男が、それを自らの体から出す期間は短い。皆ほぼ長くて30代後半までだ。
 しかし、これから何年乳母をするかわからないが、こんな生活から早く逃げたい。アシュは、どうしてもやはり早くグレンを説得したいと焦りはどんどん深くなる一方だった。

 しかしその夜は、グレンは待ってど暮らせどアシュの部屋に来なかった。
 だが、グレンがアシュを訪ねるか否か、それはグレンの気持ち一つだし突然気が変わる事もある。そして来なくても、それをアシュにわざわざ連絡しない。
 そんな事を、アシュはグレンから以前告げられていた。

 「グレン様、もう……今夜は来られないよな…」

 夕食と風呂を終えたアシュは諦めて、ベッドの上で上半身だけ起きた状態でフカフカの大きな枕に背中を預けながらボソッっと呟いた。
 昨日から、グレンは執拗にアシュの左右の乳首に吸い付いて母乳をしこたま吸いに吸っていたので、幸い今夜は胸が張っていない。
 でもこれから、グレンが何日かアシュの元に来ない時もあるとなるとアシュは、性的に興奮しないように貞操帯を気にしながらアシュ自身で乳を絞り出すように、一緒に風呂に入った時グレンに言われていた。
 本当に面倒な事になってしまった。
 どんどんと夜は更けてゆく。
 でもアシュはまだ枕にもたれかかりながらも眠れない。
 そしてやはりどうしてもこんな人形みたいな生活から逃げる為にも、今夜少しでもグレンを説得する時間が欲しかったと思った。
 しかし、アシュは自分でも分かっていた。
 アシュがグレンを待っているのは、それだけが理由じゃない事を。

 「なんか…このまま寝るの、寂しいな…」

 アシュは、又一人ごちた。
 グレンの元を去りたい、しかし、グレンと会えないと寂しいのだ。
 だが、その時だった。
 急に、アシュの寝室のドアがノック無しに開いた。
 アシュが驚きそっちを見ると、
アシュが心待ちにしていた人物が立っていた。

 「グレン…様」

 アシュは、寝室に備え付けのランプの光に浮かぶ待ち人を凝視した。
 しかし、黒の軍服のグレンは、開いているドアにもたれかかりなんだか様子がおかしかった。

 「グレン様!」

 アシュは飛び起きベッドから降りて、グレンの元に走りグレンの顔を見た。
 すると…

 (うわっ!酒くさい!)

 アシュは、グレンから漂うその大人である証の匂いに内心うっとなった。しかし、それ以上に驚いたのはグレンの顔付きだった。
 グレンは、ただでさえ端正な顔立ちなのだが、今は酒のせいか表情が少しだけトロンとしていて異様な程男の色気が出ていた。

 (えっ!いつものグレン様とちょっと違う!)

 アシュは、顔を紅くしてグレンを意識しまくり焦り言葉が上手く出てこない中、なんとか声を掛けた。

 「あっ……あっ……あっ……酔っ払ってますか?グレン様?」

 するとグレンは、色気を漂わせながら目を眇め、アシュの体を開いたままのドアに押し付けた。そして、グレンの顔がアシュのそれに寄った。

 「!…」

 驚きと緊張で、アシュの心臓は止まりそうな衝撃を受けた。
 だがそんなアシュにお構いなく、グレンは2人の顔が近いまま話し出した。

 「王族の男子は政治の付き合いで酒を飲むのは日常不可欠だからこれくらいは酔った内に入らない。例え今無数の敵に襲われても私は全て返り討ちに出来るぞ」

 グレンの瞳の奥に、いつもの鋭さが一瞬だが戻った。
 アシュは、その言葉は誇張でも嘘でも無く本当だと思った。
 グレンは、どんな時も最強であろうと。
 だから「ハイ」と言おうとした。
 だがグレンは、アシュの顎を人指し指ですくいあげ、逆に聞いてきた。

 「アシュ……待ったか?」

 「えっ?…」

 アシュは、戸惑った。

 しかし、グレンはやたら優しい声で続けた。

 「アシュ……私の事を……待ったか?」

 「えっ?…」

 グレンは、あくまでアシュに乳母としてグレンを待ったか?と聞いているに過ぎないはずなのだ。
 しかしアシュは、グレンの声や態度が、乳母に対してにしては優し過ぎると更に戸惑いを深くした。



 

 

 





 
 



 
 


 

 
 

 
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