マイベイビー（傲慢王子は、偽装愛人少年を溺愛する）

風呂

　アシュは眉を顰め、グレンが見せつけている貞操帯を見詰めた。
　しかし、男性器の形をした貞操帯に恐怖心はあれ、不思議と、それをアシュに付けようとしているグレンに対してはそれを感じなかった。
　そして貞操帯のある部分がアシュには気になった。
　
　男性器の本体を収納するだろう鉄製の部分が、以外と小さい。
　その小さいと言う事が一体どういう事を意味しているかをアシュは知らぬままそれを黙って観察していると、グレンが突然言った。

　「アシュ、風呂に入る！」

　「ハイ。今すぐ侍女を呼んでまいります」

　アシュは、吐精で疲れていた裸の上半身をベッドから起こし、白いローブを羽織ろうとした。

　しかし……

　「えっ？！……」

　気がつくとアシュは、グレンに姫君のように抱き上げられ、ベッドから部屋に併設された風呂場に
連れて行かれていた。

　「あっ！　降ろして下さい！　グレン様！グレン様！」

　アシュは、慌てて体をバタバタさせた。

　一方体の屈強なグレンの方は、体の小さなアシュが暴れた所でどうという事もない。
　
　「静かにしろ！　もう今日は何もしないから……ただ、一緒に風呂に入るだけだ」

　だが、アシュはそう言う事を言ってる訳では無かった。
　ただ平民のアシュは、一人で歩き風呂に行くべきなのだ。
　そう……アシュは、ただの平民で、ただのグレンの乳母でしかないのだから。

　「あの！あの！」

　アシュは、そうじゃ無くて、と言おうとしたが……

　グレンが急にアシュに顔を近づけるた。

　アシュの心臓は、思わずキスされるのではないかと最大級に跳ねた。

　しかしグレンは、グレンとアシュの唇が触れる手前で止めて、今度は囁くように言った。

　「静かにしろ……アシュ」

　あくまで命令であるのにそのグレンの声があまりに優し過ぎて、アシュは驚き抵抗を止めた。

　離宮のアシュの部屋の付属の風呂は、アシュの貧しい実家のどの部屋より大きかった。
　風呂なのに、華美な金の細工が壁の至る所にまで施され、アシュですら高価だと分かる、艶の深い石で浴槽と床が出来ている。
　
　そして、この国は地熱が活発で温泉が豊かに湧くので、それを大きな浴槽に常に満タンに掛け流ししていて、アシュが初めて見る、天上に付けられたシャワーからもそれが出る。

　グレンは浴室に入ると風呂椅子に座り、抱いていたアシュも向い合うようにグレンの膝の上に座らせた。
　そして、グレン自ら小さな桶に浴槽からお湯を取りアシュの頭にそっとかけたので、アシュは静止の声を上げた。

　「お止めください！」

　しかし、グレンは手を止めず言った。

　「静かにしろと言ってるだろう。お前はもう体がフラフラだ。私は私の乳母であるお前の体を他の者にベタベタ触られたくない。だから侍女の代わりに洗ってやるだけだ」

　「でも！」

　「アシュ……大人しくしろ」

　グレンの命令が又優しく聞こえて、アシュは戸惑いながらグレンのされるがままになった。
　アシュは、シャンプーをされ、トリートメントまでされ、次にボディソープの液を手にとったグレンは、そのまま素手でアシュの首から洗い出だした。

　すでに、シャンプーなどの甘い香りで浴室は充満してたが、次にボディソープのうっとりしそうな高級な香りがアシュを包む。

　グレンの声もその手付きも優しかった。

　しかし……

　アシュは複雑だった。
　
　グレンがアシュに優しいのは、やはりあくまでグレンの乳母だからだ。
　
　それを思うと、アシュは心の底から何かが溢れ出しなんだか泣きたくなってぐっと堪えた。