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別れ

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アシュが、国王と身分の低い者との謁見室で玉座に向かい立っていると、やがて扉が開き…

「陛下の御成りである!」

と臣下の声がした。

アシュは、さっとひざまずき、頭を下げた。

背後から…

カツ…カツ…カツ…カツ…

と靴音がして、アシュの緊張感が高まる。

「そなたが、アシュか?よい、面を上げよ」

床より数段高い位置に置かれた支配者の椅子に座った国王のその声に、アシュはビクっとした後、顔を上げた。

それは、グレンの声と、とてもよく似ていたから。

「ほぉー…」

国王は、感心したような声を出して、アシュをマジマジと見た。

その間アシュも、初めて見る国王の顔を見て、又ビクっとした。

国王は、グレンと本当によく似ていた。

「グレン…あやつにも困ったものよ…」

王が、王座の肘掛けに右肘を付きながら溜息を一つ付いたと思う
と、いきなりそう呟いた。

王の仕草もグレンにとても似ていて、アシュは、やはり親子なんだと酷く感心した。

しかしその間も王は、息子への愚痴を口にした。

「グレンの優秀さに免じて好きにさせておれば、いつまでたっても妃を娶らず正式な側室も持たず、気まぐれに何度か同じ女を抱いてはすぐ飽きて捨てるを繰り返すのみ…」

国王の眉間に、深い皺が寄る。

「世が今のグレンの歳の頃には3人いる妃の1人との間にグレンはとうに生まれていたし、他に側室何人かとの間に数人子供がいた」

国王は、又、溜息を漏らした後、続ける。

「世は、グレンに一日も早く跡継ぎを作って貰わねばならぬのだ。故に、正妻も娶らず女の側室も持たぬまま男のそなたに入れ込まれて、グレンの大切な子種を無駄にされては迷惑なのだ…」

次に間髪入れず、国王は、ハッキリした口調でアシュに告げた。

「そなたに、今すぐグレンの愛人の座を降りてもらいたい…無論、今まで渡した契約金などの返却は無用。それに手切れ金は、それなりに用意する…そなた、幾ら欲し
い?望みのまま申せ」

国王は、アシュが本当にグレンの正式な愛人だと思っているようだが、アシュにとってまたとないチャンスが巡って来た。

「私は、お金はいりません…」

アシュは、真っ直ぐ王を見て即答した。

「アシュよ…遠慮はいらぬ…望みの額を申せ…」

「陛下…私は、私がグレン様の元を去るのは当然の事だと思います。そして…ほんの僅かでしたが、グレン様の御側にいられました事が、何より得難き事でした。それだけで充分でございます。契約金なども全てお返しします。そして、手切れ金も不要です。どうかこのまま、すぐ私をお城から下がらせて下さいませ…」

アシュの言葉は、嘘で無い。

グレンと過ごした短い時間…

あのほんの一刻が…

アシュにとって、一生分の幸せだと思える。

このあと何年アシュが生きるか分からないが、きっと死ぬまで何百回、いや、何千回も思い出すだろう。

そして…

これからどんな事があろうと、グレンと過ごした時間の思い出さえあれば自分は生きていけると思った。

そして、仮にこの気持ちに名前があるとするなら…それを…アシュ自身、深堀りするつもりもない。

王も、真っ直ぐアシュを見てい
た。

そして、王は、本当に満足そうに頷き声を大きくした。

「グレンも、世の栽断なら絶対に否とは言うまい。よかろう…アシュ…今すぐ、この城より立ち去るがよい…」

そして、王は心の中で呟いた…

(お前を一目見て分かったぞアシュ。例えお前が女だったとしても関係は解消させていた…アシュ…お前はグレンには危険過ぎる…この国の国王になる者は、国と国民だけを愛し、人を誰か特別に愛する事は禁じられている…)

やがて、その言葉は、国王の心の深い闇に、ただだだ静かに消えていった。










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