上 下
7 / 43

偽装

しおりを挟む
事が終わるとグレンは、アシュに隣の大部屋に人を呼びに行かせ
た。

そこには、

皆同じ黒のメイド服に白のエプロンをした、圧巻の美しい侍女達が数人待機していた。

その美女達にアシュは、グレンの命令でに大浴場に連れて行かれ
た。

まさか、侍女達に体を洗われるのではないかと、アシュは一瞬焦ったが、大浴場に一人入れられて安堵した。

体を洗い、仕立ての良い白いシャツと黒いズボンに着替える。

普段は、どんなに暑くてもシャツを何枚か重ねる事で、普通の男子より僅かにだが膨らんだ胸と母乳染みを隠してきたアシュだったから、着替えのシャツは3枚頼んでいた。

その後、グレンに呼ばれているという事で、再び侍女達の後を付いて行く。

しかし、今度は一度城内を出て、
ただただ広大な薔薇園の中を通
る。

大理石の大噴水や沢山の美しい彫像の回りには…

そこには、ピンク、白、黄色…

そして、真紅に青…

かわいいものから妖しく美しいものまで…

沢山の花々が葉や蔦を複雑に絡ませ合いながら、色鮮やかに美を競い合っているかのようで、

それぞれ独特の甘い甘い香りが、深く誘惑するように流れてくる。

「何処へ行くのですか?」と、アシュは侍女に聞いたが、

「それは、グレン様直々にお話しされます…」と、何故か酷く冷た気に突き放された。

やがて前方正面に、大きな2階建ての離宮が見えた。

白亜に、愛らしい薄いマゼンダピンクの差し色のコントラストの美しい壁が印象的だ。

豪奢な玄関を入ると、そこは2階まで吹き抜けで、美しい白の渦巻き模様の手摺の螺旋階段が正面にある。

天井には、空を優美に舞うこの国の女神の巨大な絵が下を見下ろしている。

すでに沢山の侍女達が通路の両側に並び、アシュが通ると一斉に頭を下げた。

ただならぬ雰囲気に、アシュに嫌な予感が走った。

(早く!早く!乳母を辞退しないと!)

アシュの脈が早くなり、暑くもないのに嫌な汗が額から滲み出てきた。

離宮内も、城と変わらぬ豪華さ
だ。

螺旋階段を2階へ上がり、又暫く歩き廊下を行くと、侍女がある部屋をノックした。

「入れ!」

聞こえたのは、間違いなくグレンの声だ。

アシュはどんな事があっても、グレンの声だけは絶対間違わない自信があった。

「アシュだけ置いて、お前は下がれ!」

そのグレンの言葉に、ドアを開けすぐ侍女は一礼し立ち去った。

廊下で戸惑うアシュに、グレンが部屋の中から声を掛けた。

「入れ!アシュ!」

人を従わせる強い声に、アシュは
室内の奥に足を踏み入れた。

広い広い部屋には、やはりここ
も、金や銀の派手な装飾がいたる所に散りばめられ、いかにも値の張りそうな拵えのイスやテーブルなどの調度品が、品のとても良い白一色で統一されていた。

しかし、ふとアシュが横を見ると
寝室へのドアが開いていて、その中が見えた。

人が4人は横になれそうな、今は幕の上がった天蓋付きのキングサイズのベッドが存在感が強烈で、アシュの視線を奪った。

更に、そのベッドの頭の方と更に右手の壁の一部は、ベッドの上での姿があらわに映る巨大な鏡張りにされているのがアシュには確認出来たが…

実は左の壁も、鏡に一部占領されていた。

余りに異質な雰囲気にキョロキョロしているアシュに、グレンが不意に言った。

「所で…お前の立場だか…いくら何でも、私に未だに乳母がいるというのは公言出来ない。だから…お前は今日から、表向きは私の愛人という事にする。アシュ。今からお前は、私の愛人のフリをしろ」

「愛人の…フリ…?」

アシュは、話しの内容に付いていけず、グレンの目を見てただ呆然とした。

「まぁ…さっきのように、これからも互いのペニスを愛撫し合う事までならあるだろうが…それ以上は無い」

アシュは、体が硬直した。

「私とお前は、愛し合う仲では決して無い。お前は私の愛人では決して無い。私とお前は、あくまで主人と乳母。それ以上でもそれ以下でも無い。だから愛人のフリをしろ!」

グレンは、ひたすら淡々と続け
る。















しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

Unwanted Children

Akechi
BL
第1王子ザッカルト・ジグルド・プリマは18歳になり学園に通うことになる。見学に訪れたとき、彼は自分を”ジン”と名乗る白髪のとても美しい”忌み子”に出会う。 陽キャ王子×美人忌み子

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

お客様と商品

あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

ヤクザと捨て子

幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子 ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。 ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

俺にとってはあなたが運命でした

ハル
BL
第2次性が浸透し、αを引き付ける発情期があるΩへの差別が医療の発達により緩和され始めた社会 βの少し人付き合いが苦手で友人がいないだけの平凡な大学生、浅野瑞穂 彼は一人暮らしをしていたが、コンビニ生活を母に知られ実家に戻される。 その隣に引っ越してきたαΩ夫夫、嵯峨彰彦と菜桜、αの子供、理人と香菜と出会い、彼らと交流を深める。 それと同時に、彼ら家族が頼りにする彰彦の幼馴染で同僚である遠月晴哉とも親睦を深め、やがて2人は惹かれ合う。

処理中です...