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しおりを挟む第3校舎の1階、3年生教員室の隣りに3年生用面談室がある。面談室は、外から室内が見えないよう出来ている。
そこに明人が先に入り続けて佐々木が入ろうとするが、佐々木は、恒輝が来ていないか廊下の左右を見渡す。そしていないのが分かると自分も入室してドアを閉めた。
だが、そのドアにいた佐々木から見て右側廊下端の角からその様子を確認していた恒輝は、ゆっくり面談室まで歩き出した。
「しかし……明人……俺は本当にお前が理解出来ない。あの西島の本当にどこがいい?今もオメガのお前を放って帰って、お前がアルファの俺と一つ部屋にいても知らん顔だ。あんな冷たい奴だぞ。いい加減……目を醒ませ」
佐々木が呆れ声で、持っていた書類や資料の束を長机の上にボンっと投げ置きながら言った。
明人はすでに、その机を挟んで置かれた二つのパイプ椅子の一つに座っていたが、佐々木を冷たい視線で見上げ言った。
「大河。俺はそんな話をしに来たんじゃ無い。修学旅行の話しだろ」
佐々木は、立ったまま薄っすら苦笑いして続けた。
「俺も修学旅行の話しをもうしてる。お前が無理を承知で修学旅行に行きたいと言うのは、どうせ西島絡みだろ?」
明人は、大きい溜め息を一つ着くと佐々木を見上げたまま話し出した。
「俺の母さんは本妻じゃないから、ずっと気苦労が絶えないから、俺は小さい頃から母さんに迷惑をかけないように、アルファやベータのように外で遊んだり遠くへ出かけたりする普通の生活は我慢してきた。オメガは、オメガだと分かると子供でさえ誘拐されて酷い目に合う事件はしょっちゅうある事だから。中学生になり高校生になっても、母さんに言われた通り安全の為にオメガだけの寄宿学校に入り、毎日毎日だだ囚人のように監視されて管理されて暮らしてきた」
「それは、俺もよく分かってる。俺は……明人を小さい頃からずっと見てたからな」
佐々木も明人を見詰めながらそう言うと、その後やっと席に着いた。
明人は、机に両腕を置くと少し前に身を乗り出し、佐々木に懇願した。
「なら、分かるなら、一回位、人生でこの3年生の残りの間だけでいい。俺のやってみたかったような生活を……やりたいようにやらせて欲しい」
「…」
佐々木は、腕を組むと視線を斜めに落とし、何か考えてるようですぐには返事をしなかった。
しかし…
「理由はそれだけじゃないだろ?西島はお前が欠点の無いハイオメガだと思ってるだろうが、お前は抑制剤の効きにくい体質で、この前救急車で運ばれた時から新しく処方された抑制剤を飲んでるがそれもいずれ効かなくなるかもと医者に言われたんだろ?今以上の強い薬を使うと副作用が酷いから使えない。ならもし効かなくなったら抑制剤の効かないオメガが入る収容所に行かないといけないからだろ?」
「なっ!」
明人は驚き表情を歪めた。現在飲んでる薬の事は、明人と母と担当医療関係者しか知らないし、佐々木が知ってると言う事は、母が佐々木に言ったとしか思えなかったから。しかも、あれだけ母に佐々木には言わないでくれと口止めしたのに。
「明人……家に帰ってお前の母さんを責めるなよ。母さんは本当に心配してるから俺に……この俺に相談してきた。お前が、もしかしたら収容所に入らないといけないから西島と修学旅行に行きたいと無茶を言ってると…」
「…」
今度は明人が視線を落とし、すぐには返事をしなかった。
丁度その時、明人と佐々木の居る面談室の閉じられたドアの前には恒輝が立って、中の声が聞こえないか聞き耳を立てていたが…
(チッ……何にも聞こえねぇ!)
恒輝は内心舌打ちした。
すでに部活動が始まり、今日は都内の私立高校の教師の集会もあり、教員室に教師はほとんどいなかった。すると、教員室の横開きのドアが開き男性教師が一人出てきたので、恒輝は慌てて廊下の窓側へ行き制服のズボンの両ポケットに両手を突っ込み、外の景色を何気なく見ている素振りをした。
教師も恒輝が問題児だと知ってるのでその様子を怪訝そうに見ていたが、やがて教師はその場を歩いて去って行った。
恒輝は、教師の姿が消えたのを確認すると落ち着かない様子で又面談室の閉まったドアの前に立ち、もう一度明人と佐々木の話しに聞き耳を立てた。
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