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でも…
ふっと恒輝は、明人の上がり症のまじないと言うのが、一体何をするのか興味が湧いてしまった。
そして、一瞬されるままになる。
「大丈夫、大丈夫…絶対に大丈夫。読む前に、一度この俺の言葉を思い出して、一度意識をリセットするんだ…」
明人は優しい声で、恒輝を抱き締めたまま、恒輝の背中を制服越しにゆっくり撫で始めた。
確かに前の休み時間、恒輝は明人に言っていた。
家庭教師は御崎だとは言わなかったが…
恒輝は今回の英語の朗読を、この土日で家庭教師と練習して、かなり上手くなったと。
だから大丈夫だと恒輝は明人に言っていたが、明人はそうせずにいられなかった。
(はぁ?!これがまじないぃー?やっぱ俺の事ガキ扱いしてんだろうが!彩峰!)
恒輝は、一瞬呆れた。
第一、自分が自分に大丈夫だと言い聞かせる方法など、恒輝はとっくの昔に子供の頃実行済で失敗している。
ただの子供騙しだ。
「大丈夫、大丈夫…絶対に大丈夫…」
明人は繰り返し言い、繰り返し撫でる。
恒輝は、「ざけんなっ!」と、明人を突き飛ばそうと思ったが…
それでも、明人の声が優しいのに、何処か切実な感じがして…
明人がふざけてるとか、恒輝をバカにしてるとか、そんな感じが一切無くて…
本気でやってる気がして…
その手が出せない。
それにそう言えば恒輝は子供の時から、親や兄弟、家庭教師から「出来無い。出来無い。お前は絶対に出来無い!」と、呪いの言葉のようにずっと言われてきたが…
「大丈夫」と、肯定するような事は言われた記憶がなかった。
そして、明人がまだ恒輝を抱き締めている感覚に、この前、花菜が恒輝に抱き着いてきた時の事を思い出す。
花菜の時とは…今は、何かが違った。
花菜の時には感じなかった、何かを恒輝は感じ取る。
やがて…
(全く…この前倒れた事といい。突然何するかわかんねぇ、しょーがねぇ明人お坊ちゃんだな…)
そう恒輝は心の中で思うとそっと微笑み、明人を突き飛ばそうとしていた両腕を、そっと明人の背中に回した。
(えっ?!)
今度は、明人が内心驚く。
てっきり、恒輝に「ざけんなっ!」と突き飛ばされるのは覚悟していたから。
それに明人には、最初は明人が恒輝を抱き締めていた感覚が強かったのに…
いつの間にか、恒輝が明人を抱き締め受け止めている感じの体勢になっている。
どうして恒輝も自分を抱き締めているのか明人は分からないまま呆然として…
でもほんのしばらく、恒輝と明人は無言で抱き締め合った。
他の生徒達の騒ぐ声が、遠くから聞こえる。
キーンコーンカーンコーン!
キーンコーンカーンコーン!
そこに、始業のゆっくりしたチャイムの音が、陽の光が満ちる校舎内に響き渡った。
ふっと恒輝は、明人の上がり症のまじないと言うのが、一体何をするのか興味が湧いてしまった。
そして、一瞬されるままになる。
「大丈夫、大丈夫…絶対に大丈夫。読む前に、一度この俺の言葉を思い出して、一度意識をリセットするんだ…」
明人は優しい声で、恒輝を抱き締めたまま、恒輝の背中を制服越しにゆっくり撫で始めた。
確かに前の休み時間、恒輝は明人に言っていた。
家庭教師は御崎だとは言わなかったが…
恒輝は今回の英語の朗読を、この土日で家庭教師と練習して、かなり上手くなったと。
だから大丈夫だと恒輝は明人に言っていたが、明人はそうせずにいられなかった。
(はぁ?!これがまじないぃー?やっぱ俺の事ガキ扱いしてんだろうが!彩峰!)
恒輝は、一瞬呆れた。
第一、自分が自分に大丈夫だと言い聞かせる方法など、恒輝はとっくの昔に子供の頃実行済で失敗している。
ただの子供騙しだ。
「大丈夫、大丈夫…絶対に大丈夫…」
明人は繰り返し言い、繰り返し撫でる。
恒輝は、「ざけんなっ!」と、明人を突き飛ばそうと思ったが…
それでも、明人の声が優しいのに、何処か切実な感じがして…
明人がふざけてるとか、恒輝をバカにしてるとか、そんな感じが一切無くて…
本気でやってる気がして…
その手が出せない。
それにそう言えば恒輝は子供の時から、親や兄弟、家庭教師から「出来無い。出来無い。お前は絶対に出来無い!」と、呪いの言葉のようにずっと言われてきたが…
「大丈夫」と、肯定するような事は言われた記憶がなかった。
そして、明人がまだ恒輝を抱き締めている感覚に、この前、花菜が恒輝に抱き着いてきた時の事を思い出す。
花菜の時とは…今は、何かが違った。
花菜の時には感じなかった、何かを恒輝は感じ取る。
やがて…
(全く…この前倒れた事といい。突然何するかわかんねぇ、しょーがねぇ明人お坊ちゃんだな…)
そう恒輝は心の中で思うとそっと微笑み、明人を突き飛ばそうとしていた両腕を、そっと明人の背中に回した。
(えっ?!)
今度は、明人が内心驚く。
てっきり、恒輝に「ざけんなっ!」と突き飛ばされるのは覚悟していたから。
それに明人には、最初は明人が恒輝を抱き締めていた感覚が強かったのに…
いつの間にか、恒輝が明人を抱き締め受け止めている感じの体勢になっている。
どうして恒輝も自分を抱き締めているのか明人は分からないまま呆然として…
でもほんのしばらく、恒輝と明人は無言で抱き締め合った。
他の生徒達の騒ぐ声が、遠くから聞こえる。
キーンコーンカーンコーン!
キーンコーンカーンコーン!
そこに、始業のゆっくりしたチャイムの音が、陽の光が満ちる校舎内に響き渡った。
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