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休み時間ももう終わる。

恒輝と明人は部屋を出たが、不意に廊下の角から出てきた人物が声をかけて来た。

「彩峰!彩峰!無事か?」

恒輝がよく見ると、最近赴任して来た若い男の教師、佐々木だっ
た。

彼を見て、恒輝の表情が自然に歪む。

佐々木の、端正で涼し気な顔。

スーツの上からでも分かる、引き締まった鍛えられた体。

明人に負けないだけの高い身長。

そして、何より恒輝をムカつかせるのは、そんな佐々木がT大卒の頭脳明晰なアルファだと言う事
実。

一体、なんの理由でこんな底辺高校に赴任してきたのかはさて置
き、佐々木はまるで恒輝が思い描くアルファの完璧な見本…

正に上級アルファだ。

現に着任してまだ数日。

すでに校内中生徒から教師まで、ベータの女性という女性はほぼ全てと言っていい位、佐々木を見る目がうっとりしている。

佐々木は、とても慌てていた様で息を切らしながら明人を見ると、次の瞬間、恒輝の胸ぐらを掴ん
だ。

「止めて下さい!先生!」

明人が佐々木の右腕を掴み止めに入ったが、佐々木の怒りは収まらない。

「西島!あき…いや…彩峰に何した
!」

(あき…?今、彩峰の事、下の名前で呼びかけた?)

恒輝は、目敏くそう感じた。

そして更に、佐々木の怒り方が新任の教師が余り馴染みの無い学校の生徒を心配したにしてはおかしいと思いながら、珍しく冷静な態度を取った。

「何って、何も…ただ話しをしてただけですよ…」

「嘘つけ!」

佐々木は、恒輝からまだ手を離さず大声を出した。

何故か、佐々木が感情的になればなる程、恒輝の頭が冷静になる。

まるで、下流アルファの自分が、上級アルファの佐々木より自分の方が上だとマウントを取ろうとしているかのように。

「止めろ大河!俺と西島君は、普通に話してただけなんだよ!」

突然…

明人が佐々木に低い声でタメ口を使い、強引に恒輝と佐々木の体の間に割って入った。

そして、恒輝を背に庇い佐々木の方を睨んで言った。

暫く明人と佐々木、二人の視線が絡んだが、その様子から恒輝は、二人の間に何か妙な意味深なモノを感じて何かもやもやとする。

「ごめん…西島君…この佐々木大河は、俺の、母の友人の息子で、俺の友達でもあるんだ…」

明人が、顔だけ恒輝に向けて言った。

だが、その友達…と言う言葉に、佐々木の表情が歪んだのを恒輝は見逃さなかった。

佐々木が明人と同じ頃にここへ赴任して来た事といい、さっきからの諸々の態度といい…

(少女マンガかよ!)

恒輝は内心ボヤキく。

佐々木が明人に気があるのはすぐ分かった。

しかし、佐々木は、怒りが収まらない。

「明人、お前が西島に拉致されたって、お前の教室が大騒ぎになってるぞ!」

「あんの…クソ共!何が拉致だ!ざっけんな!」

恒輝は、クラスメイトに無実の罪を着せられ叫ぶと壁を思っきり蹴り、教室へと苛立ちながら歩き始めた。

しかし、すぐ一度足を止め、明人を見た。

どうかした?…

とでも言っているように、立ち止まったままの明人が恒輝を見た。

「彩峰…行くぞ!」

目を眇め恒輝が、まだ佐々木の傍にいる明人を呼んだ。

「あっ、うん!」

明人は微笑むと、背を向け歩き出した恒輝に付いて行った。

しかし途中、一度だけ明人は振り返り再び佐々木と視線を合わせ
た。

とても不安そうで不服そうな佐々木だったが、明人はそれを見て深い溜め息を付くと再び恒輝の後を追った。

恒輝と明人が教室に戻ると、騒がしかった教室が一瞬で静まり返
る。

すると恒輝は、ドカドカと粗っぽく長野とその取り巻きの元に行き問い詰めた。

「お前か?長野!お前が俺が彩峰拉致ったって言ったんだろ!」

取り巻きの男女はドン引きし黙ってしまったが、長野だけは違っ
た。

「私がそんな事言う訳ないじゃ
ん!そりゃ、心配したけど…絶対言ってないから!」

長野が眉根を寄せて言うと、真剣に恒輝の顔を暫くの間見た。

たがら恒輝は、同じクラスなのに殆ど接点も交流も無かった長野だが、ちょっと位は可愛気があんじゃん…と思い、少しだけ笑って言った。

「あー、分かったよ…今回だけは信じてやるよ」

それを見た長野の体が固まった。

「何んだよ?」

恒輝が、怪訝そうにした。

「べっ…別に!」

フイっと恒輝に背を向けた長野の顔が少し赤くなっているのを、すぐ近くで見ていた明人は見逃さずじっと見詰めた。


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