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小さな楽園
しおりを挟む(自分はどれくらい眠っていただろう?)
ふっと、理久は未だ両瞼を閉じながらも、頭は薄っすらと覚醒した。
それでも、まだ目を開けたくない。
まだ、このまま微睡んでいたい。
理久は、自分が今どんな所で眠っているのかは分からないまま、そう思う。
ここは、あの奴隷商人の監獄のように冷たくも寒くもない。
自分の今いるここは、とても、今すぐ泣きたくなるくらいに温かい…
しかし、突然完全に目が覚めて、理久の瞼がパチリと開いた。
するとすぐ目の前に見えたのは、あのイケメン獣人団長のキレイな青い双瞳だった。
団長は、理久をお姫様抱っこしてゆっくりと歩きながら、理久の目覚めを優し気に見詰めていた。
理久も男だが、団長は、かなりの長身でガッチリした体格で理久を軽く抱き上げている。
団長の瞳の美しさに、理久も一瞬団長を見詰めてしまったが、自分の置かれた現実がすぐに我に返らせた。
「えっ!?俺、どうしてこんな事に?」
理久が身の置所がないかのように恥ずかしそうにごそごそして動くので、団長は理久にクスっと笑うと言った。
「少しは眠れたようだな。良かった」
実は理久は馬車内で眠りに落ちた後、ずっと団長の逞しい肩に寄りかかって安らかな寝息を立てていた。
そして今、そのまま団長に抱き抱えられて馬車を出ていた。
「あの……大丈夫ですから、降ろして下さい…」
理久はそう困惑しながら、自分の周りの風景を見渡した。
すると、辺りは沢山の緑と色とりどりの美しい花が咲き誇る。しかし、それらは野生ではなく明らかに誰かに手入れされていて、花壇や柵も所々に見える、蝶の飛びかう庭だった。
明るい光に満ちた、まるで小さな楽園だった。
「無理はするな。お前は明らかに体が弱ってる。落としたりはしない」
団長はそう言うと、理久を抱く腕に力を込めた。
確かに理久は、奴隷として長期監禁されていて、体も心も限界だった。
しかし、まるで本当に団長に抱き締められてるような感覚になり、理久はギョッとして顔を紅潮させた。
すると団長は、理久の顔に団長の唇を近づけて囁くように言った。
「俺の腕の中にいれば大丈夫だ」
理久は、更にドキッとして言葉が出なくなったが、男同士でも団長程のイケメン相手になれば誰でもそうなると心の中で自分を正当化した。
そして、更に右前方を見ると、団長の直属の部下の犬系とうさぎ系獣人騎士が、蔦のからまる木造の2階建ての家の玄関の前で、やはり犬系だろうか?栗毛中に白髪が混ざる髪をアップにした中年女性獣人と何か話をしていた。
中年女性獣人は、普段使い用のリネンで出来たウェストラインを絞らない丈の長い茶色のシフトドレスに、スカート部分にはペチコートを着けていた。
理久にすれば、まるで中世時代のヨーロッパの女性のようだった。
家は年季が入っていたがとても
庶民的で家庭的な匂いがして、理久を抱く団長の歩く庭はこの家の物だった。
理久が獣人の世界に来て、奴隷商人達意外の活動拠点を見るのは初めてだった。
やがて、団長と彼に抱かれた理久が彼女の前に近づくと、獣人騎士達は右側にどき直立した。
そして、団長は女性獣人と向かい合うと、ニコリと笑いかけて言った。
「やぁ!マーサ。元気そうだな。もう聞いてるだろうが、しばらく、俺とこの人間をここに泊めてくれないか?」
理久は、事の成り行きにキョトンとしながら、団長の腕の中からマーサを見た。
マーサと呼ばれる女性獣人は、
人間の理久を見ても一切躊躇う事なく、すぐに優しい笑顔で返した。
「よろしいですよ。何日でも
お泊りください」
(えっ?!俺、ここに、団長と一緒に泊まるのか?)
理久は、てっきり団長に連れて行かれるのは、もしかしたら監禁もあるかも知れない、寒くて冷たくて暗い場所だと思っていたので、その意外性にそう思った。
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