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尋問
しおりを挟むしかし、理久は、イケメン獣人団長の言葉を信じた事をすぐに後悔する事になった。
理久は、治安兵士団達が乗って来た、もう一台の屋根も幕もある大きな幌馬車に乗せられた。そして、中の備え付けの縦長のイスに座らされ、他の一人の獣人団員による理久に対する尋問が始まった。
イケメン獣人団長は、理久と同じく馬車に乗り、理久の座る向かいの備え付けの縦長イスに理久と距離を取り座った。
「お前が囚われていた場所が知りたい。お前が囚われていた所からここまで馬車でどれ位走った?」
団長と同じように体のガッチリした犬系獣人のようだが、団長と違い獣耳の毛と短い頭髪が白い若い男が理久の前に立った。だが、その声はかなり上からで優しさは無かった。
理久は体の芯から疲れ切ってる上に、助けてくれたはずの獣人にさえぞんざいに扱われてるようで、心底失望して小声になった。
「一時間はかかって無いと思う」
すると、獣人団員が身振り手振りで方向を差して理久に尋ねた。
「あちらが北でこちらが南、それでこっちが東でこちらが西。どちらから来たか分かるか?」
「分から無い。ここへ来る途中俺目隠しされてたし、何度も何度も馬車は曲がったり引き返して又曲がったり引き返してを繰り返してたから。全然分からない」
嘘では無い。理久には本当に分からなかった。
しかし、獣人団員の口調が厳しくなる。
「もう一度よく考えろ!思い出せ!」
理久は、もう一度思い出してみたが、本当に分からない。
「分からない!本当に分からない!」
だが、獣人団員は、語気を強め詰問を止めようとしない。
「もう一度思い出せ!」
これではまるで、獣人に囚われて無理矢理奴隷にされた理久の方が悪人のような扱いだった。
それに何度思い出しても同じ事だ。
(もう、いやだ!だから、獣人は信用出来ない!)
理久は、無言で横を向き押し黙った。
しかし獣人団員は、更に詰問しようと理久に向かい一方前に出ようとした。
だがその時だった。
理久と獣人団員の間にイケメン獣人団長が入り込み、イケメン獣人団長は、向かい合う団員に圧を感じる低い声色で言った。
「止めろ。その男は本当に目隠しされていたのは俺が見ているし、奴隷商人達がアジトを特定されないようにかなり緻密な計算をして移動するのはいつもの事だ。その男が分からなくても仕方ないだろう。しかし、この近くにアジトがあるのは確かだ。それが分かっただけでも進歩した。一緒に来た兵士の何人かはもうアジト捜索に向かわせたが、至急兵士を増員してここから馬車で一時間以内の怪しい場所を徹底的に当たる。いいな!」
団員は一歩後に後ずさりすると、声をうわずらせた。
「はい。ではそのように指示いたしました後、この男には次に別の聞きたい事を…」
だが、イケメン団長は、首を横に振った。
「今日はもういい。別の日に改めて色々聞くがいい」
「では、この男は、今日の所は収容所に連れて参ります」
団員はそう言い、団長に向かいスッと頭を下げた。
しかし、理久は、不安から声を上げた。
「収容所?そこはどんな所?」
イケメン団長も理久の方に体の正面を向けたが、答えたのは団員の方だった。
「お前のように攫われて来た人間を助けて収容してる所だ。人間を助けて無闇にこの獣人世界で自由にさせても、又攫われて奴隷にされるだけだから」
「ちょっと待って。この世界に連れてこられた人間は、元の世界に帰れるんでしょ?」
理久は、顔を青ざめさせて聞いた。
理久が今までこの異世界で耐えてきたのは、いつか日本へ帰る為だ。
帰る方法が必ずあると信じていたからだ。
だが、団員の答えは残酷だった。
「今の所……お前達人間が元いた人間の世界に帰る方法は無い」
理久は、目を見開いたまましばらく固まった。
あまりの衝撃で、理久は涙さえ出せない。
獣人団長は、真剣な眼差しでその理久の様子をしばらく見詰めていた。
やがて理久は我に返り、団長に視線を向けた。
「嘘ですよね?嘘だ…」
理久の声は、僅かに震えていた。
「…」
団長は、理久の目をじっと見たまま無言だった。
しかし、団長の視線は、まるで理久に同情してくれているかのようにも見える。
「嘘だって……帰れるって、俺は父さんと母さんの所に帰れると言って下さい」
その団長の視線に助けを求めるように理久は懇願した。
だが、団長はやはり無言で理久を見詰め、団員がその代わりに状況を前に進めようとした。
「では、私がこの人間を、奴隷売人達の乗っていた馬車で収容所に連れて参ります。そして、明日からもう一度色々尋問いたします。団長は他の団員とこの馬車にてお先にお戻り下さい」
団員は、理久の腕を掴もうとした。
だが、団長が理久を見たまま右腕を前に出し、団員のその行動を阻止した。
「どうかされましたか?」
団長の背後で団員が怪訝な顔をした。
「その人間は俺が預かる。尋問もその人間が落ち着いた頃合いを見て俺がする」
団長はそう団員に告げると、理久をじっと見詰めた。
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