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逃走
しおりを挟む突然だが…
理久は、今現在、異世界にいた。
そして、白い布で目隠しされ、腕は後でまとめられ縄で縛られて…まるでハリウッドの西部劇映画に出てきそうな幌馬車の荷台の中で座らせていた。
周りには、頭に本当の犬耳や猫耳を付けた4人ガラの悪い獣人がいて、理久が逃げないよう見張っている。
何故こうなったかと言うと…
理久は7日程前、高校生最後の夏休みを利用して両親と東京の自宅から北関東の山中に新しく出来た某有名グランピング施設に来た。
だが、理久が小さな頃から家族で色々な所に行くのは普通で、この日もいつものようにただ何気に遊びに来ただけだった。
しかし、昼間は両親と近くの川でカヌーを楽しみ、SNSで人気の近くのそば屋で天ぷら付きの十割そばを家族で堪能し、そろそろ夜のバーベキューの準備を始めた頃の夕刻…
理久は、森の木々の間に飛んでいるテニスボール大の明るい光を見て、両親に何も言わないまま追いかけて山の奥に足を踏みこんだ。そして、もうこれ以上行くと帰れなくなる、引き返そうとした瞬間地面が光り、気が付くと理久は、異世界に召喚されていた。
あっと言う間の出来事だった。
理久が来てしまったのは、頭に犬耳や猫耳がある獣人達の世界だった。
そして、理久が初めて会った獣人達は男ばかりだったが、皆、人間を珍しがり野蛮で冷酷だった。
理久を牢屋に入れ、食事も満足に与えず、着る物は粗末な白いローブだけ。
そして、獣人の男達は代わる代わる、牢屋の格子の向こうから理久にこんな風な同じような事を何度も言った。
「お前はもう奴隷なんだよ。そんでお前は、何日か後には人間をいたぶって遊ぶのが大好きな獣人の金持ちジジイに性奴隷として売られるんだよ。もし金持ちジジイに売るモンじゃ無かったらもっと殴ってるし、とっくの昔に俺らでお前を死ぬまで犯して廻して楽しんでたのにな」
理久が閉じ込められていた場所には他にも牢屋があり、理久の他にも若い人間の男女が何人も捕まっているようだった。そして、理久以外の男女は、獣人達の機嫌を損ねると殴る蹴るをされていた。
理久は、自分と自分と同じように捕まった人間がここから逃走出来ないかかなり思案した。いくら平和な日本育ちでも、自分から動きなんとかしなければならない。
しかし、獣人達の監視はかなり強くなかなかそれは難しかった。
一日、一日、理久より先に投獄されていた人間が獣人にどこかに連れて行かれ牢屋を出て行ったが、彼らの行く末を想像すると理久は鳥肌がたった。きっと彼らは悲惨な目に合っているはずだから。
そして理久は、ここにいる獣人達のグループが、多くの人間を理久と同じような形で召喚して奴隷として売り捌いてるんではないかと密かに疑念を覚えた。
だが、いよいよ理久が牢屋を出て獣人の性奴隷になる日が来た。
牢屋の場所を隠す意図だろう。手を後で縄で縛られた理久は、獣人に目隠しをされ幌馬車の荷台に乗せられた。
馬車が走り出すと、目隠しで見えないが、話し声から周りには少なくとも4人の監視の男の獣人がいる事が理久に分かり、そしてこの状況が今現在だ。
理久のこの状況で抵抗しても、最悪は殺されるだけだと、今は大人しくするしか無かった。
理久の額や体から、外の気温は高くないのに汗が滲む。
しかし、どれ位走ったかしばらくすると馬のいななきが理久に聞こえ、馬車が荒っぽく急停止した。
「うわっ!」
理久は思わず声をあげ、そのまま体が横に倒れこんだ。
監視の獣人達も予想外の事だったのだろう、理久の近くで口々に驚きの声を上げたが、馬車の運転をしていた獣人の御者が叫んだ。
「賊だ!盗賊だ!」
目隠しと腕の捕縛そのまま倒れ込んでいた理久の耳に、すぐさま激しい男達の怒声と金属音が聞こえ出した。金属音は、理久が自分の元いた世界でプレイしていたゲームの中の剣と剣がぶつかる時のものに似ていた。
そう言えば、牢屋の番人も腰に
剣を携えてはいた。
(まさか、本当に剣と剣で戦ってるのか?)
理久はまだ倒れこんだまま思ったが、今獣人達の気配が近くに無いと思い腕を必死で動かし縄を解こうとした。
だがその時、誰かが理久の目隠しをさっと取った。
理久は反射的に、その目隠しを取った誰かを見た。
「えっ?!…」
理久は思わず驚く。
倒れたままの理久の目隠しを取りさり、理久の目の前で右手に長い剣を持ち右膝をつき跪いていたのは、長い黒髮で、黒の長袖シャツの上からでも屈強な筋肉の分かる、いかにも長身のワイルド系超イケメン獣人だった。
頭の獣耳の毛も艶のある黒で、
ズボンから出ているフサフサの尻尾も黒で、大型犬系統の獣人を思わせた。
「…」
犬系イケメン獣人も、何故か理久を見て驚いたように一瞬目を見開き、無言で理久と暫く見詰め合う。
「くっ!」
しかし理久は、その隙を突いて、お腹に力を入れ声を出すとやっと、視力を開放された事から腕の縄が解かれていないにも関わらず起き上がり馬車から飛び降りた。イケメン獣人の持つ剣が怖いなど、もはや言ってられなかった。
すると外では、理久を監禁していた獣人達と、馬車を襲った獣人の何人かの男達が剣を交え戦っていた。
「待て!待ちやがれ!」
理久を監禁していた獣人の一人が襲撃者と戦いながら理久を見て叫んだが、理久はそのまま深い森に走って逃げた。理久は走った、疲労と空腹で体はボロボロだったが、何処へ行ったら良いのかも分からなかったが兎に角走った。
しかし…
「待てっ!人間!」
理久の背後から低くく逞しい声がして、理久は走りながら少し振り返った。
すると、さっきのワイルド系イケメン獣人はすでに理久のすぐ後にいて、理久の後ろ手に縛られた腕をつかんだ。
イケメン獣人は、理久を攻撃する気が無いのか?それとも素手でも負けない自信があるのか?すでにさっき持っていた剣を自分の腰に携帯する鞘に戻していた。
「離せっ!」
牢屋での数々の扱いや暴言にすっかり獣人不信になっていた理久は尚走りながら体をよじり暴れ、イケメン獣人の腕を振り払った。
そしてその間に、理久の腕を縛っていた縄が解けた。
しかし、更に木々の間を走ってすぐ、理久の目に、前方に立ち塞がるような大きな池が映る。
理久は、このままスピードを落とさず走り池に飛び込む決意をした。いくらイケメンでも、馬車を襲った盗賊には捕まりたくなかった。
しかし、そんな理久の右腕を、又イケメン獣人が理久の背後から今度はガッチリと掴んだ。
「離せ!離せっ!」
理久は前を向いたまま、残り少ない体力全てで体を何度もよじり抵抗した。
しかし、イケメン獣人は今度は理久の腕を離さず叫んだ。
「待て人間!お前何か誤解してるだろう?俺はお前を助けたいんだ!池に飛び込む気か?!池には巨大なナマズがいて人間も一口で食うぞ!これ以上近づくな!」
「嘘だ!全部嘘だっ!あんた盗賊だろ!それにそんな人間を一口で食うナマズなんてどんな世界にもいる訳ない!」
理久は振り返り、まだ理久の腕を離さないイケメン獣人と向かい合うと大声で反論した。
しかし、その直後、理久の背後の池から大きな魚が飛び跳ねたかと思うと、バシャンと大きな水音と水飛沫と共に水中に戻った。その魚はまるで、獲物が近くに来た気配に喜んでジャンプしているようだった。
理久はただならぬ雰囲気にゆっくりと、今度は池の方を振り返る。
すると本当に、人間を一口で食いそうな巨大なナマズがもう一回水面から飛び跳ね池に戻った。
(で……でかっ…)
理久は、それを見て思うと目が点になりその後顔色を青ざめさせ、まだ水面に残るナマズの残した大きな波紋を呆然と眺めた。
あのまま理久が池に飛びこんでいたら、間違いなく理久は一口で食べられていた。
「だから言っただろ?本当に人間も一口で食うでかいナマズがいるって。嘘じゃない」
イケメン獣人は、今度は穏やかな声で理久の背中に語りかけた。
イケメン獣人は、声も超イケメン。
理久はハッとして、イケメン獣人の方を向いた。
イケメン獣人は、理久の腕を強く掴んだまま何故か理久の顔を真剣に暫くじっと見詰めたが、今度は優し気に微笑んで言った。
「それに、俺は盗賊じゃない。俺は治安兵士団の団長で、ただ…お前を助けたいだけだ」
(治安兵士団の……団長?)
理久は、イケメン獣人の爽やかな笑みを見ながら、信用していいのか困惑した。
❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋
(この下の文は、この作品の内容紹介内からの一部抜粋です)
こんにちは。
いつもみゃーの創作を読んでくださる方、そして、初めて読んで下さった方、ありがとうございます。
今回のこのお話しは、先に連載を始めている「いなくなった愛犬を探していたら…」の理久とクロでの違う世界線のものになります。
実は「いなくなった愛犬を探していたら…」と今回のお話は同時に考えていたもので、どちらを書いて発表しようかと考えて「いなくなった愛犬を探していたら…」を先に書いて発表してました。
しかし、こちらのお話しも書いて発表してみたくなり、今回連載を始める事にしてみました。
色々作品を書き散らかしておりますが、連載に手応えを感じられ、こちらの理久とクロの恋も進展するよう頑張りたいと思います。
どうか皆様、よろしくお願いします!
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