エターナルウィンター（邪狼神の籠愛）

銀狼

「え？！」

突然目の前に現れた白銀の巨大な狼に、ゼインは驚愕しながら固まった。

襲われるかもしれないのに、狼の紫の瞳から目を背けられないし、指一つ体は動かない。

けれど…

ゼインの両目から、涙はとめどめめも無く流れていく。

どれ位、ゼインと銀狼はただ見詰め合っただろうか？

やがて銀狼の右前足が動き、ゼインはまだ体が動かないまま、てっきり飛びかかり噛みつかれると覚悟した。

所が…

銀狼は、ゼインにそっと近づいたかと思うと、その銀の毛に覆われた頭や体をゼインに擦り付け出し
た。

まるで、忠犬が飼い主にするような…

まるで、自分のモノだと匂い付けするように…

ぐりぐり、ゴシゴシ…繰り返す。

次第にゼインから何かが解けて、徐々に体が動くようになる。

そして、余りに忙しくゼインの回りを回り体を擦り付けてくるの
で、思わず笑ってしまった。

「ハハハッ…」

子供の頃から兎に角余り笑わないから、こんな風に笑ったのはいつぶり位だろうか？

涙も、いつしか止まっていた。

しかし、銀狼は、まだ頭を撫でてくれと言わんばかりに、自分の頭をゼインの手に押し当ててくる。

「ハハッ…分かった、分かったから！」

ゼインは、思い切り銀狼の頭を撫で回した。

暫くそうしていると…

ガタガタッと、窓を雪風が叩いた。

「しかし…いつ…止むんだろう…でも…俺が赤ん坊の頃、親に捨てられてたのもこんな雪の日だったな…」

ゼインは、銀狼の頭をまだ優しく撫でながら呟き、窓の外を見た。

そして視線を移し、紫の獣眼を覗いた。

普通、獣の目は見詰めてはいけないし、

勿論、答えは帰ってこないが…

その美しい瞳が、ゼインを一心に見詰め返してくる。

ふと…

さっき、遠くの窓にいた、グレイの髪の青年を思い出した。

彼の瞳の色までは分からなかったが、どんな色なのだろうか？と、

やはりただの見間違いだったのだろうか？と考えて、

そして…

（獣狼神は、銀狼で紫の瞳で…
人型にも、獣型にもなれるとか…
俺が殺さないといけないのは、まさか？…まさか？…）

ゼインの中に、仄暗い疑問が生まれる。

しかし、その柔らかい銀毛を撫でる動きは止まらなかった。

そして、やがて不思議だが…

狼を前に、普通はあり得ないのだが…

部屋も暖かかったが、銀狼も温かくて、何故かゼインの心まで温まるようで…

生きて来て感じた事の無い安心感に包まれるように、

ゼインは、伏せをした銀狼の巨体にもたれかかりながらいつしか眠っていた。

森を彷徨っていた時からの数々の緊張が解けて、深い深い眠りに…

だが、そのうち…

銀狼の姿はみるみる人の形にな
り、ラフな服装のジークへと変貌した。

ジークは、穏やかな寝顔のゼインを両腕で軽々抱き抱えると、ベッドに運んで寝かせた。

そして…

暫くじっと、ゼインのとても穏やかな寝顔を見詰めていたが…

やがて…

そっとベッドサイドに跪き、ゼインの唇にキスをした。