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碧き城
しおりを挟むゼインの予測は、正しかった。
ゼインの目の前に現れた獣耳の男は、ゼインの探していた狼神ジークだった…
そのジークは、ゼインが彼を探していたとも知らず、倒れたゼインを何故か助け、自分の城に連れ帰った。
すでに雪に覆われた白亜の壁とターコイズブルーの屋根が印象的な広大な碧き城。
それは、純白の雪が深々と降る深い森の中に、息を潜めるようにひっそりとあった。
城の中は、外とは別世界のように暖かい。
そしてまるで、刻が永遠に止まったかのように静かだ。
どの部屋も、こんな辺境にあるとは思えない程純金で華麗な装飾がなされ、美しい絵画や調度品の数
々に彩られている。
「手を尽くしましたが、残念ですが…もう、助からないかと…」
同じく狼の耳を頭に付けた初老の医師の男がゼインの診察をして、すぐ横にいたジークにポツリと告げた。
ジークはそれを聞き、広い豪華なベッドに横たわるゼインの青白い顔を無表情で無言なまま眺めた。
医師は、それを見て小さく呟いた
。
「どうなさいます?この人間、せめてこれ以上苦しまないよう、安楽死の薬を投与いたしましょうか
?」
それでもジークは口を閉じ、ゼインを見詰めたままだった。
ジークの顔を見ながら、彼が何を考えているのか医師が様子を見る
。
すると、おもむろにジークがやっとポツリと呟いた。
「たった一つだけ、方法がある…」
それを聞き、ジークと医師の後ろにいた若く美しい青年、同じく狼耳のアレンが青ざめ叫んだ。
「まっ、まさか!ジーク様の血を
、その人間に与えると言う事ですか?」
ジークは、振り返りもせず無言。
「何故?ただの人間にジーク様がそこまで?!」
アレンは、激怒に近い声で詰問した。
だが、ジークは、又ゼインを見詰めたままだった。
「血を与え命が助かったとしても
、ジーク様の血は人間にとっては媚薬です。すぐ発情してしまいます!」
アレンの指摘は、正しかった。
「ジーク様!まさか…その男と、体を交えるおつもりですか?」
アレンは、大きく目を見開く。
「分からない…分からないが…どうしても、この人間だけは、この人間だけは、救いたい…」
「ジーク様…けれど、助けてどうするおつもりですか?」
「もし、助かれば、この男のここでの記憶を消し去って、禁足地から離れた場所に置いてくる…だから…頼む…アレン…時間が無い…」
ジークが振り返り、アレンを見た
。
ジークがアレンにこんな風に懇願するのは珍しかった。
しかも、こんな悲壮な目で…
結局、アレンは溜め息を付き、医師と共に部屋を出た。
ゼインとジーク、二人きりになった部屋。
ジークは、そっとゼインの左頬に自分の右手をやった。
そして、ゼインをじっと見詰めると、おもむろにに自らの左腕を自らの鋭利な牙で噛んだ。
やがて流れ肌を伝ったのは、人とは違う…真っ黒な魔獣の血…
それをジーク自身の口に含み、迷い無くゼインに口移しで与えた。
驚くべき速さでゼインの体が軽くなり、顔色が良くなり、頬に血色が戻る。
しかし、途端に、まだ瞳を閉じたままのゼインの口から、ハアハア…と、色艶のある吐息が漏れ出した
。
ゆっくり、ゼインの瞼が上がる。
今のゼインには、今がいつでここが何処で、夢か現実かすらもハッキリしない。
しかし、体の内から湧き上がる苦しい程の性欲に、ベッドの上で程よく筋肉の付いたスリムな男の体を動かし始める。
「うっ…くっ…」
もうどうしようもなくなり…
夢うつつ、左に寝返り何度も体をくねらせた。
しかし、すぐ、そのゼインの背に
、ベッドに上がってきたジークが覆いかぶさった。
そして驚き、顔だけ振り返ったゼインの唇に、背後のジークの唇が重なった。
「う…んん…」
生まれて初めてのキスに、鼻にかかった甘えるような声をゼインが漏らした。
更にジークは、ゼインを後ろから襲うようにしながら、優しく優しく、執拗に、何度もキスを続ける
。
その度に、ゼインは艶声を漏らし
、ゼインの性器はピクピクと歓喜し揺れる。
ここは、天国か?
それとも、淫らな罠に嵌ってしまった、地獄か?…
すぐ、もう、ここが何処で、いつで、自分が誰でなんて…一切分からないくてももうどうでもいい位…
ゼインの思考と体は、甘美に気持ち良くドロドロに溶けきった。
ただ、何故かゼインの体は、ゼインも認識しない内に、ジークから与えられる口付けが懐かしくしっくりきている事を密かに感じていた。
やがて、自身も甘い吐息を漏らし始めたジークが、背後からゼインの性器に手を伸ばした。
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