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布団
しおりを挟む程なくして、優と前世の朝霧は離れに戻って来た。
離れは、外から鍵をかける事が出来た。
しかし、やはりここは戦国時代。
朝霧は慎重で、中に不審者がいないか、先に朝霧が鍵を開け引き戸を開き中に入り、安全を確認してから優を中に入れた。
又狭い空間で前世の朝霧と二人きりになる事になった優は、緊張感がどんどん高まるのを感じる。
そして、タイムスリップした先の人達と極力関われない焦りと、優は前世の朝霧を見ていると、様々な複雑な感情が次々に湧いてもくる。
ガチャッ…
朝霧は、離れの中から鉄錠に鍵をかけた。
戦国時代の錠は、やたら大きくいかつい。
金属の音は、緊張している優にはやたら大きく聞こえた。
そして朝霧は、更にきっちり施錠されたか確認を怠らない
しかし、これだけでは無い。
前世の朝霧は、優とさっき出会ったばかりだが、全ての事柄において一時が万事、何かにつけ優を守るように行動する。
優は、ソワソワしながらも上がり框(かまち)からすぐに座敷に上がらず、一度玄関土間で草履のまま座敷の奥を見た。
すると、住職の予告通り離れに一つしかない座敷には、すでに夕食が膳の上に用意されていた。
しかし、それを確認した優は、次にその膳の向こうにあるモノを見て固まった。
小さな離れには座敷が一つしか無いので当然だが、温泉に行く前には座敷の端に畳まれていた二枚の布団が、今はまるで夫婦の夜の床のようにピッタリとくっつく形ですでに引かれて用意されていた。
(えっ!?…)
だが、優は驚愕したが、すぐに意識するのにブレーキをかけた。
今の優は春陽では無い。
そして、真矢の世界で、優は生まれ変わりの朝霧と精神体とは言え肉体関係を持ったが、生まれ変わりの朝霧の方から性交は過ちだったと否定されてしまったのだ。
優は、生まれ変わりの朝霧とも、今目の前にいる前世の朝霧とも距離を取らなければと自分を律した。
すると、優の右肩に、朝霧が背後から手を置いた。
「わぁっ!」
優は、大声で驚き目を見開いて後ろを振り返った。
「あっ、すまん。座敷に上がらないから、どうしたのかと聞こうとして…」
いつもクールな朝霧がそのままの体勢で、余りの優の驚愕ぶりに一瞬目を丸くした。
「すいません!ちょっと考え事してて!」
優は朝霧と向かい合うと、布団を変に意識してるのは自分だけだと、朝霧は布団など何とも思ってないと自分を心の中で叱咤した。
すると、朝霧はフッと笑うと、
「風邪を……引くぞ…」
そう言い優の長い黒髮を朝霧の手縫いで拭きだした。だがそれは、髪の先からまだポトポトポトポトと水を滴らせていた優を見かねてだった。
優は、驚きながらも朝霧にされるままだったが、以前、生まれ変わりの朝霧から髮をタオルで拭いてもらった時を鮮明に思い出した。
あの時の朝霧の手つきと今目の前にいる前世の朝霧のそれはやはりよく似ていて、怖くなる程に優しくて気持ちいい。
「よし!もう大丈夫だ」
朝霧は、優の髮から手を引いて目元を緩めた、
優は、朝霧の顔を見られず黙っていると、朝霧が又フッと微笑んで言った。
「そなた、見かけによらずやる事がにぎやかだな…」
「えっ?!」
優は、やはり朝霧の顔を見られないまま固まりながら思考した。
(それって……俺を褒めてるのか?それとも?……それに、俺と瓜二つだけど物静かな春陽さんと俺を比べて言ってるのかも…)
しかし、あまりに深刻に優は考え過ぎて「にぎやかだな…」の後に朝霧が続けて小声でボソボソっと言った言葉が「でも、見ていて飽きない…」と言った言葉が耳に入らなかった。
その所為で優が朝霧の本心をいつまでも考えこんでいると、朝霧が不審に思った。
「どうした?どこか苦しいのか?」
優は、苦しいのかと聞かれれば胸の辺りが息苦しい気がした。
そして、前世の朝霧が、優より優の前世の春陽を優先するのは当たり前だと、何がおかしいのだと釈然としていない自分に言い聞かす。
優は、やはり朝霧の顔を見られないまま造り笑顔でニコリとし返事はした。
「あっ……いえ、大丈夫です。ありがとうございます…」
しかし、優は表情は伏し目がちでそそくさと草履を脱ぎ、朝霧より先に座敷に上がった。
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