172 / 176
山寺
しおりを挟む
優は今、優自身の前世である春陽の幼馴染である前世の朝霧と共にいる。
優は前世の朝霧の馬に乗り、その手綱を前世の朝霧が握りなだらかな山道を歩いて引いた。
優は、例え人影の無い山道でも人に偶然会う事を考え、青い瞳が周囲にバレないよう、朝霧の笠を借りて目深にかぶっていた。
そして朝霧は、歩きながら絶えず無言で何度も馬上の優を見上げてきた。
朝霧は、普段は鋭利で沈着冷静な武士そのものだが、今、優を見てくる朝霧は、その落ち着き払った中に優を深く心配するような雰囲気があった。
優はそんな朝霧と視線が何度も何度も合ったが、その度に優は視線を泳がせた。
兎に角、優は前世の朝霧といると安心感を感じる反面、色々な事情がある事や優自身も何かよく分からない感情が湧いてきてソワソワソワソワ落ち着かない感覚があった。
そしてそうかと思えば、朝霧とこうしている事で自分が摩耶優である事を忘れてしまう事への強い懸念と、何より、歴史を変えてしまっている恐怖に苛まれた。
程なくして、朝霧の知り合いの僧のいる、山中にある寺の門前に着く。
陽は更に傾いたが、灯がなくてもまだ充分歩ける位だった。
優は馬から降りようと思った。
だが、やはりつい先日までただ普通の高校生活を送ってた優だけに馬に慣れてなくて、どう上手く着地するか座ったまま戸惑う。
そこに地上の朝霧が、馬から降りる優を抱き止めて降ろしてやるとばかりに無言で逞しい腕を広げた。
「あっ……ええっと…」
優は呟くと、恥ずかし気に視線だけを空に向け戸惑う。
そして、思った。
(俺、戦国のお姫様じゃあるまいし。剣術より先に自分で馬に自由に乗り降り出来るようにならないとヤバいよな……)
しかし、朝霧は腕を広げだまま、クールだった表情を少し緩めて優の顔を見ながら言った。
「大丈夫、俺しか見てない。そなたを受け止めてやる」
優は、まだ少し戸惑いがあったがいつまでも馬に乗ってる訳にもいかず、優も腕を広げて朝霧の前上半身に向かい伸ばした。
すると、優を落とさないようにする為だろうか?
朝霧は、優を受け止めると一度強く抱き締めた。
「えっ?!」
優は、びっくりして声を出すと、朝霧の腕の中で自分から体を捩り地面に足を着け、それから慌てて朝霧から体を離した。
「す、すまない……落とさないようにと思ったら、つい……力が入り過ぎた…」
朝霧が珍しい程に動揺して慌てて弁解すると、気まずそうに優から視線をそらし、この場が変な雰囲気になる。
「あっ……そっ……そうですか…」
優も動揺しながら、この空気感を早くなんとかしようと無理矢理に微笑んだ。
優は前世の朝霧の馬に乗り、その手綱を前世の朝霧が握りなだらかな山道を歩いて引いた。
優は、例え人影の無い山道でも人に偶然会う事を考え、青い瞳が周囲にバレないよう、朝霧の笠を借りて目深にかぶっていた。
そして朝霧は、歩きながら絶えず無言で何度も馬上の優を見上げてきた。
朝霧は、普段は鋭利で沈着冷静な武士そのものだが、今、優を見てくる朝霧は、その落ち着き払った中に優を深く心配するような雰囲気があった。
優はそんな朝霧と視線が何度も何度も合ったが、その度に優は視線を泳がせた。
兎に角、優は前世の朝霧といると安心感を感じる反面、色々な事情がある事や優自身も何かよく分からない感情が湧いてきてソワソワソワソワ落ち着かない感覚があった。
そしてそうかと思えば、朝霧とこうしている事で自分が摩耶優である事を忘れてしまう事への強い懸念と、何より、歴史を変えてしまっている恐怖に苛まれた。
程なくして、朝霧の知り合いの僧のいる、山中にある寺の門前に着く。
陽は更に傾いたが、灯がなくてもまだ充分歩ける位だった。
優は馬から降りようと思った。
だが、やはりつい先日までただ普通の高校生活を送ってた優だけに馬に慣れてなくて、どう上手く着地するか座ったまま戸惑う。
そこに地上の朝霧が、馬から降りる優を抱き止めて降ろしてやるとばかりに無言で逞しい腕を広げた。
「あっ……ええっと…」
優は呟くと、恥ずかし気に視線だけを空に向け戸惑う。
そして、思った。
(俺、戦国のお姫様じゃあるまいし。剣術より先に自分で馬に自由に乗り降り出来るようにならないとヤバいよな……)
しかし、朝霧は腕を広げだまま、クールだった表情を少し緩めて優の顔を見ながら言った。
「大丈夫、俺しか見てない。そなたを受け止めてやる」
優は、まだ少し戸惑いがあったがいつまでも馬に乗ってる訳にもいかず、優も腕を広げて朝霧の前上半身に向かい伸ばした。
すると、優を落とさないようにする為だろうか?
朝霧は、優を受け止めると一度強く抱き締めた。
「えっ?!」
優は、びっくりして声を出すと、朝霧の腕の中で自分から体を捩り地面に足を着け、それから慌てて朝霧から体を離した。
「す、すまない……落とさないようにと思ったら、つい……力が入り過ぎた…」
朝霧が珍しい程に動揺して慌てて弁解すると、気まずそうに優から視線をそらし、この場が変な雰囲気になる。
「あっ……そっ……そうですか…」
優も動揺しながら、この空気感を早くなんとかしようと無理矢理に微笑んだ。
10
お気に入りに追加
131
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる