殉剣の焔

みゃー

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煙幕

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 「優様ぁー!」

 佐助の叫びも虚しく、優は道尊に向かい突入して、優の握る打刀の刃を上から振り下ろした。
 道尊は、それを軽く自身の刀で弾いたが、それでも優は、剣術を習った事がないにも関わらず果敢に道尊に向かい刃を振る。
 実は優は、道尊に勝てるとまで思ってはいないが、少しだけ刀を使えると確信のようなものも心の底に密かにあった。
 それは、優が数日間、春陽の体の中にいた時に春陽の剣の実戦や稽古を経験していた事が大きかった。
 しかしその他にもあった。何故だろう、優に前世の記憶は無いはずだが、優の体自身が前世で覚えた刀の捌き方事を覚えているかのような感覚があった。
 この戦国時代で一つ目に向かい妖刀紅慶(こうけい)を握った後からそんな感覚が強くなった。
 だが、やはり道尊は余裕で優の繰り出す攻撃を避けて、人間離れした能力で前を向いたまま大きく後ろに下って言った。
 
 「なかなか……おやりになりますな……しかし、いと美しき姫君が刀を振り回すのは……道尊、感心はいたしませぬぞ。これはかなりお仕置きをしてから貴方を我が妻として側に置かねばなりすまいな。よろしい。もっと近くへ…もっと私の元へ……かかってこられよ…」

 道尊は、そう言い終えると、右手の平を上にして、優にかかって来いと二回手招きした。

 「貴様…」

 優は、当然とは言えやはり自分が無力である事の悔しさと、そして、道尊に優が春姫で無いと言った所で通じないだろう不条理さに下唇を噛むと、更に道尊に突撃しようとした。
 しかし…
 佐助が突然風の如く動き優の前に立ち、背中で優を庇いながら言った。

 「優様!なりません!剣は感情に流され振り回せば勝てません!それに奴は、これから貴方の感情をもっと逆なでして奴に引き込もうとしてます!」

 優は、その言葉にハッと我に返った。
 そして、佐助の小袖の左肩に、少しではあるが血が滲んでいるのをみて言葉を失う。

 「さっきは油断しましたが、今度こそ奴をぶった切る」

 佐助は右手に刀を握り、道尊の方を向いたままそう言いまだ戦う気だった。
 しかし優は、本来の目的を思い出し、佐助の背中に体を近づけると小声で佐助に告げた。
 優の今の目的は、佐助の命を助ける事だ。
 すでに死したる者に、これ以上普通に立ち向かっても勝てるかどうかも分からないと言う理由もあった。

 「佐助さん、逃げよう」

 しかし、佐助は道尊を睨んだまま首を横に振り言った。

 「あいつをこのまま放置すれば優様の災いになる。俺が奴に向かって行ったら貴方は今度こそ逃げて下さい」

 しかし、今度は優が首を横に振って必死に言った。

 「ダメだ!佐助さん、ここから一緒に、俺と一緒に逃げよう。一緒に行こう!佐助さんも一緒じゃなきゃ俺イヤだ!絶対にイヤだ!」

 「優……様…」

 佐助は、前を向いたまま呟くと、再び優だけ逃がす算段だったが何かを決意したように刀を持つ手をぐっと握った。
 一方道尊も、優と佐助の体を寄せた親密そうな雰囲気に方目を眇めると、刀を持つ手をぐっと握った。
 そして優は、ふと、逃げ道を探し左右をそっと見た。
 すると、少し離れた地面に道尊のカラスがいて、その横に小さなガラスの瓶があるのが目に入った。
 優は、徐々に淫魔に覚醒していて、夜目が効くだけでなくすでに視力が人間離れして良かった。
 そしてそれ故に、ガラス瓶の中に小さくされた小寿郎が閉じ込められて、小寿郎が優を見ながら必死に中からガラスを叩いているのを発見した。

 「佐助さん……俺の仲間が……探してた俺の仲間がいた……」

 優は、佐助の背中に小声で言った。

 「えっ?仲間?」

 佐助は、あまりに急な展開に道尊を睨んだまま戸惑った。

 (小寿郎!)
 
 すると優は心の中で叫んだ。
 そして、道尊もガラス瓶との距離が少しあったのでそれを見て、小寿郎を取り返そうと走った。
 しかし、道尊も優の動きに気付くと走り、優より一足早く瓶を手に取った。

 「私のあやかしに何をなさいます?」

 道尊は、小寿郎の入った瓶を取り損ね唖然とする優の表情にかなり顔を近づけると、制圧するような低い声で言った。

 「誰がお前のあやかしだ!こいつは俺のもんだから、返してもらう!」

 優は、キッと道尊を睨んだ。
 しかし、道尊の顔の中で数少ない露出している部分の一つの右目が又細くなった。

 「何がおかしい!」

 優は、道尊の顔ほとんどが白布で分からないのに、道尊が又笑って優を馬鹿にしている気がして腹が立った。
 だが道尊は、そんな優を全く意に介さないで言い放った。

 「クククッ……怒った顔もほんに御可愛いらしいですな。でも「こいつは俺のもんだ」は、許せぬお言葉ですぞ。もし本当にこのあやかしが貴方のものなら、今すぐ貴方の目の前で瓶ごと私の手で潰してやりましょうぞ…」

 「やっ!止めろ!」

 瓶の中の小寿郎を見た道尊に、優は目を見開き青ざめた。
 だが、その優の悲壮な表情を見た道尊は何故か一瞬黙り込むと、今度は態度を急に変えてきた。

 「フフフッ……では……もし、このあやかしを貴方にお返ししたならば、貴方は代わりに何を私に下さいますか?」

 優は、道尊の言ってる事が不可解過ぎて、思わず道尊の右目を見てしまった。

 (ヤバイ!こいつの目を近くで見たらヤバイ!)

 すぐに優はそう思ったが、そして道尊が怪しい妖術使いなのを思い出したがすでに遅かった。
 優は、持っていた刀を落とすと、道尊の目を近くで見たまま、まるで術にかかったように動けなくなっていた。

 「何を……私に下さいますか?」

 道尊は、美しい優しい声で再度尋ねると、そんな優の右手を道尊の左手で優しくそっと握ってきた。
 道尊はすでに死人だけあり、
肌は氷のように冷たい。

 「貴方の肌は、とても温かい……」

 道尊が、うっとりしたように言った。
 優はおぞましい寒気がしたが、それでも催眠術にかかったように体が動かない。
 しかしそこに、優と道尊の所に佐助が何か小さい丸い物を投げ込んだ。
 それはすぐに破裂しかなり濃い煙のようなものが飛び出し、辺り一面広範囲が白く覆われ視界が効かなくなった。
 一瞬何が起こったか分からなかった優だが、気が付くと、佐助は優を抱き抱え民家の敷地から出て山中を走っていた。
 そして、優の両手には、小寿郎の入った瓶があった。
 佐助がどさくさに紛れて、小寿郎をも取り返してくれたのだ。
 佐助の顔と瓶の中の小寿郎を見て、優はホッと息を一つ吐いた。
 だが、まだ完全に喜び合い安心出来る状況では無かった。

 「佐助さん!肩の傷!俺、重たいから…」

 優は佐助の体を考え、下ろしてくれと続きを言おうとしたが…

 「あっ!いえ、これくらいの傷大丈夫です。それに俺、忍びなんで大丈夫。しっかり俺につかまって!」

 佐助は一瞬顔を赤らめそう言ったが、すぐに道尊を警戒し表情を引き締めた。

 

 

 


 


 

 

  
 

 

 

 
 

 

 

 

 


 



 

 
 


 

 









 
 
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