殉剣の焔

みゃー

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竹林

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 だが胡座の優は、真向かいにしゃがむ定吉に「はい」と一旦は返事したものの、視線を下にし黙りこんだ。
 そしてやはり何度考えても、優一人なら兎も角、5歳の千夏がいて、頼りの小寿郎も真矢も行方不明の今、前世の定吉の力を借りないといけない結論に達する。
 もし……もし万が一、優がこの戦国時代で命を落とせば、定吉なら千夏を守ってくれるかも知れないし。
 しかし、こうやって優が優の前世の臣下である定吉と交流して歴史を変えてるのは、明らかにマズいかもと優は体を固めた。

 (今もこうして俺が定吉さん達といるだけで、藍が有利になっているかも…)

 優はそう思いながら、藍の長い銀髪と藍の青い瞳を思い出した。
 あの藍の美しい瞳はいつも、どこまでも冷たく上から目線で追い詰めるように優を見詰める。
 そして優は意図せず、頭が藍で一杯になり呆然となってしまった。
 
 「……う!……う!優!」

 しかし、藍に飲み込まれそうになった優に定吉の呼び声が聞こえ、優はハッとして我に還った。

 「優……大丈夫か?」

 定吉はそう言い片膝を畳に着くと、優の顎を定吉の右手でそっと引き上げ更に優しく言った。

 「優……俺がやはり迷惑なら……そう言ってくれ」

 優は、首を左右に振ると定吉の瞳を見た。そして途端に、優から藍を思い出して始まった体の緊張感が抜けて答えた。

 「迷惑じゃ無いです。でも俺、どうしても、どうしてもやらないといけない事があって。それに定吉さんや佐助さんを巻き込めない……だから……だから…」

 優のあまりの深刻さに、定吉は優の顎に手をやったまま一瞬黙り込んだ。
 そして、思った。

 (優……お前は一体何なんだ?同じ顔の春陽と何か関係があるのか?そして……どうしてこんなに俺の気持ちを搔き乱す?)

 そして結局定吉は「迷惑なら言ってくれ」と言いつつ、優からはどんな言い訳をしても手を引けない自分を自覚して言った。

 「優……なら、俺と佐助はお前がしようとしてる事は聞かないし関知しない。お前と千夏が食べる事に困らないように、ただそれを助けるだけだ」

 それを聞き、居間の端に胡座でいた佐助は表情は変えなかったが、内心絶対関知しないなど無理だと思った。佐助も定吉も、優に関知しないなんて絶対に無理だと。
 そして優も、そんな事が可能だろうかと思案した。だが優は、現実的に定吉の提案を受け入れるしか無かった。
 そして、しばらくこの民家を留守にすると言う定吉を、佐助と千夏と共に玄関先で見送る事になった。
 外は白々と夜が明け始め、朝靄が薄っすら広がる。

 「優。俺はすぐに帰って来る。ただ、次に俺が帰るまで、それまでだけはこの家で千夏とじっとしていてくれ。それだけ約束してくれ。お前と千夏は、必ず佐助が守るから」

 定吉は、千夏と手を繋いでいた優に真剣な表情で請うた。
 
 「はい。分かりました」

 優は、コクリと頷き言った。
 勿論、小寿郎と真矢を一刻も早く探さないといけないと焦るが、もう付近の探せる所はすでに探していたし、これから捜索範囲を広げるなら計画をしっかり立てければならないし、まだ病み上がりの千夏を、流石にまだ佐助をそこまで信用して預けて捜索にも行けなかった。

 「佐助……俺の言った事を必ず……頼んだぞ」

 定吉は次に、優の隣りに優と少し間を空けて立っていた佐助に言った。
 
 「この身に変えましても、必ずや」

 佐助は、いつもの軽いノリの雰囲気を一切消して、深く頭を下げて真剣な面持ちで返した。
 そして定吉の言う「俺の言った事」とは、優と千夏を守る事。
 そして……優に指一本触れない事だと思い返した。

 「後……千夏。まだお前は病み上がりだから、俺が人形と飴を選らんで買ってきていいか?」

 定吉が突然、千夏の目線に合わせしゃがんで尋ねた。
 優は、定吉が千夏との約束を覚えていたのを不思議そうに眺めた。
 千夏はまだ少し定吉の顔が怖いのか、優の袴を履く足に無表情で軽くしがみついたが、やがて定吉の目を見るとコクリと頷いた。

 「じゃぁ…」

 定吉は、歩き出した。そして、少しして一度振り返り、佐助と千夏を見ると、最後に優をしばらくじっと見詰め、又背を向け歩き出した。

 (優……やっぱり……お前は一体何んなんだ?)

 定吉はそんな事を考えながら竹の群生地内を歩き、観月屋敷に急ぐ。
 竹林の中も、かすかに朝靄がかかり静かだが、時折暖かい強風が吹き竹の葉達をざわつかせる。
 
 「ん?!」

 ふと定吉は、竹と竹の間の靄の中に走る人影を見た。そして、先を急がなければならなかったが、どうしても気になりその後を走り追った。

 (速いな!本当に人か?)

 定吉も異能の忍びで足の速さには自信があるが、追いかける白の小袖を着た人物も異様に足が速い。
 だが定吉がやっと追い越し遠くからその姿を確認すると、その人物が頭から被り左手で落ちないようにしている紺の小袖の隙間から、その横顔がチラリと見え定吉は驚愕した。そして定吉は、迷わず後ろから気配を消して走り近づいて、そのまだ走る人物の右手を掴んだ。

 「えっ?!」

 急に手を捕らえられ驚いたその人物は振り返り、ハラリと頭から小袖を落とした。
 その人物は春陽だった。
 そして春陽の向かう先は、マリア菩薩のおわす寺。
 春陽は、淫魔である自分に耐えかねて、今まさにそこに自害しに向かっていた。

 「春陽…」

 定吉は、春陽が淫魔だと知っていたとは言え、春陽の手を捕らえたまま、白日の下、頭に小さな双角、口に双牙の生えた、何度見ても優にうり二つの春陽を呆然と見詰めたまま呟いた。











 

 

 



 





 

 





 
 

 

 

 
 


  


 



 


 
 







 

 


 







 


 

 


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