殉剣の焔

みゃー

文字の大きさ
上 下
135 / 176

佐助

しおりを挟む

 「アニキどうすか? 俺っちの忍びの変化(へんげ)の術の腕前は? かなりのモンになったでしょうよ」

 さっきまで年配の男に化けていた男、佐助は、自分の右手親指を自分に向け、自信あり気にニコニコしなから定吉に聞いた。
 なんと、その声も姿と同様若返っていた。

 「まぁまぁ、様になってきたんじゃないか」

 定吉は、腕組みし立って木にもたれかかったまま、そう冷静な表情と声で言った。

 「まぁまぁかぁ……久々にアニキが鳥を忍術で操って忍びの里の俺に伝言をくれたからわざわざこんな遠くまで来たんだからさぁ……なんかもう少し褒めてくれてもいいんじゃないっすか?」

 佐助は口を尖らせ、少しスネたようにブツブツ言った。

 「お前はチビの頃からすぐ調子に乗るからな。本当の事を言った方がお前の為だ」

 定吉はそう、やはり冷静に言いながら、今優のいるだろう遠い方向を気にしているのが佐助には分かった。

 「へいへい。アニキの言う通りですよ。でもこんな田舎で、アニキの代わりに男と子供に魚や桃やらを渡して欲しいって事でこんな小芝居しましたけど……さっきのアレ……本当に男っすか? なんか、どっかの高貴なお姫様にも見えるんすけど…」

 佐助は少しぽっと顔を赤らめた後、定吉と同じ方角を見た。

 すると定吉はその佐助の表情に反応すると、いつもよりさらに低い、威圧的な声を出した。

 「佐助……お前に一つ言っておく。お前はまぁまぁ腕はいいし、俺達のような忍びの者は明日生きてる保証がないから、お前の女遊びや男遊びが派手だって事にも俺は色々言うつもりはないが、あの男には……一切ちょっかいは出すな」

 「あっ? えぇっ?!…」

 佐助は、慌てた声を出し定吉の方を振り返った後、オドオドと聞いてみた。

 「アっ……アニキが……そんな事言うなんて、珍しいっすよね。あのぅ……アニキ、アニキって……そのぉ……もしかして……あの男の事…」

 定吉はそれを聞き、目を眇めて佐助を睨むようにして呟いた。

 「もしかして……何だ?」

 「あっ、そのぉぉぉ…」

 佐助はかなり苦笑いしながら、視線を上下左右に忙しくさまよわせた。

 「だから……何だ?!」

 定吉は、目を眇めたまま声を大きくした。

 「アハハ……あっ、いえ……何でもないっす…」

 佐助は、笑って誤魔化し早々に退避した。
 そして、心の中で呟いた。

 (アニキがあんなにムキになるって……なかなか無いよな…)

 「それと、佐助。あの男と瓜二つの男がもう一人いるが、そいつにもちょっかいは一切かけるな。いいな……指一本も絶対に…」

 そう言うと定吉は、突然歩き出した。

 「えっ?! ちょっとアニキ!      
 あんなきれいな男がもう一人、いるんすか?」

 佐助はそう興奮気味に言うと、定吉の後ろを付いて行きながら更に聞いた。

 「双子っすか? でも双子って縁起わりぃって言うから、特に御武家様では片方始末されるでしょう……普通」

 「さあな……双子かどうかは……俺も分からん」

 定吉は言いながら、歩きながら、優の顔を思い浮かべていた。

 春陽に似すぎている、定吉にとっては優と言う名前も知らぬ謎の男は、どうやら観月屋敷の守護武者、轟真矢の関係者らしいが…
 定吉が忍んで後をつけたり、屋根裏から彼の様子を見ていてそれ以外で定吉が分かっているのは、
小寿郎と豆丸という者を探している事。食料が底を尽きかけていて、あの全く頼りないヒョロヒョロの体で、桃と魚を採ろうと下見していた事。その食料を採ろうとしている大きな理由が、あの口の聞けない、千夏とかいう幼い女の子を食わす為だという事くらいだ。
 定吉にとって、春陽に似た男が敵か味方か分からない今は下手に前には出られ無い。 今はこうやって変化の術に長けた佐助を使い、魚と桃と野菜を渡してやり、その先は様子を伺いながらおいおい考えるしか無かった。
 古びた民家にはまだ米と雑穀だけはあるようなので、大量の魚と桃と野菜で何日かは、春陽似の男と幼女の生活はなんとかなると定吉は思った。
 しかし…
 どうしてこんな真似を、春陽似の男にしてしまうのか?自分の事なのに、定吉には分からない。ただ、体が勝手に動く……という感覚だった。

 (いや……あんなどんくさいヒョロヒョロ野郎とおかっぱのチビに俺の目の前で死なれたら、俺の寝覚めが悪いからだけだ…)

 定吉は、そう内心自分に言った。
 その横で、佐助がひたすら一人でぺちゃくちゃ何やら明るく楽しそうに喋っていたが、この時は、定吉の耳には一切入っていなかった。定吉の頭の中は、春陽と春陽に似たあの男の事で一杯だったから。









































しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

上司と俺のSM関係

雫@3日更新予定あり
BL
タイトルの通りです。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

処理中です...