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兄の豹変
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「春頼……その、その……血の、血の匂いは、何の血だ?…」
頭の双角、口の双牙を春頼の前では隠すこと無く春陽はそう言うと、ゾっとする程美しく婬靡に微笑んだ。
春陽が笑うと、その口元の双牙も鋭く光る。
春頼はすぐに分かった。
血の匂いは、さっき春頼自らが春陽の為にニワトリを締めて料理したからだと。
そして……今、春頼の前で微笑んでいる春陽は、もういつもの清らかで優しい兄でない事も。
この時春頼は、自分だけは平常心と冷静さを失うまいとしていたが、正直すでに、春頼も精神的にかなり憔悴していた。
だがそれは、兄、春陽の苦しみは、偽り無くその全てが春頼自身の苦しみになっていたからだ。
兄の春陽のような婬魔と人との混血は、人と同じように食事をしなければ死に、そして婬魔のように、常に性交かそれが出来ないなら吸血をして生気も補充しなければ、水を幾ら飲もうと喉が乾いて死ぬという非常に厄介なモノだ。
春陽は、角と牙の生えたその日から、生気補充と言う婬魔の生理的欲求の為に湧き起こる性欲に苦しんだ。
そして、春頼と父の施す、婬魔の質を封じる荒清神社の加持祈祷をも、春陽の体は跳ね返し効果は無かった。
仕方無く、父が秘密裏に近くの遊郭から美麗な遊女を何人か連れて来て、春陽に抱くように諭した。
しかし春陽は、首を頑なに左右に振って断固拒絶した。
そして春陽は一人座敷に籠もり、布団の中で一日何度も自慰をして性欲を発散させた。
だがそれでも、それは一時だけ性欲を発散させても、結局、他人の生気を補充できないので根本的な要求解消にはならなかった。
そして、なら、残るは血飲しかなかった。
春陽は、人の血ではなく春頼が締めたにわとりの血を飲んで、なんとか喉の乾きを癒そうと努力したが、ここ何日も何度もそうしようとしても、口に一度含んでも、匂いと魔物に変わっていくと言う事への拒否反応か、すぐ吐き戻し咳込み苦しんだ。
春頼は、血を吐き戻し血塗れでのたうち苦しむ兄の春陽の背中を何度も擦りながら、何度も何度も、今すぐ自分が代わってやりたいと心底、心底懊悩し苦しんだ。
そして、春頼は、やっと落ちついた春陽の血濡れの小袖を替えてやり、汗を優しく拭いてやり、包み込むように春陽の背中を長い時間抱き締めてやりながら、いつも強く逞しいはずの一人前の武者の春頼が、春陽があまりにも哀れで、春陽に分らないよう静かに涙した。
だが春頼は、春陽が頑なに女を抱かない事には、ほっと胸を撫で下ろす所があり、その想いと弟としての兄への哀れみの感情の板挟みは、更に春頼を苦悩させた。
春頼も父も、何日も春陽が獣の血をなんとか飲めるような方法を模索していたが、なかなか見つからなかった。
そして、春頼は父から、春陽が性交と飲血が出来ず喉の乾きが極まれば、春陽が自分を完全に無くし、いずれ婬魔として暴走すると忠告されていた。
「はい……さっき、屋敷のニワトリを締めたので……その時のモノですね…」
春頼はさっきの春陽の問いに、兄の豹変にも一片も動揺を見せず、端正な顔の表情も変化させず、あくまでいつもの春頼らしく穏やかに答えた。
しかし、そう言いながら心の内では、これも分かっていた。
今まさにその……兄の暴走する時が来てしまったのだと。
そして春頼は、その時が来たら、迷わず即、まず、兄、春陽の首を刀で斬り落とすようにも父から秘かに説得も受けていた。
頭の双角、口の双牙を春頼の前では隠すこと無く春陽はそう言うと、ゾっとする程美しく婬靡に微笑んだ。
春陽が笑うと、その口元の双牙も鋭く光る。
春頼はすぐに分かった。
血の匂いは、さっき春頼自らが春陽の為にニワトリを締めて料理したからだと。
そして……今、春頼の前で微笑んでいる春陽は、もういつもの清らかで優しい兄でない事も。
この時春頼は、自分だけは平常心と冷静さを失うまいとしていたが、正直すでに、春頼も精神的にかなり憔悴していた。
だがそれは、兄、春陽の苦しみは、偽り無くその全てが春頼自身の苦しみになっていたからだ。
兄の春陽のような婬魔と人との混血は、人と同じように食事をしなければ死に、そして婬魔のように、常に性交かそれが出来ないなら吸血をして生気も補充しなければ、水を幾ら飲もうと喉が乾いて死ぬという非常に厄介なモノだ。
春陽は、角と牙の生えたその日から、生気補充と言う婬魔の生理的欲求の為に湧き起こる性欲に苦しんだ。
そして、春頼と父の施す、婬魔の質を封じる荒清神社の加持祈祷をも、春陽の体は跳ね返し効果は無かった。
仕方無く、父が秘密裏に近くの遊郭から美麗な遊女を何人か連れて来て、春陽に抱くように諭した。
しかし春陽は、首を頑なに左右に振って断固拒絶した。
そして春陽は一人座敷に籠もり、布団の中で一日何度も自慰をして性欲を発散させた。
だがそれでも、それは一時だけ性欲を発散させても、結局、他人の生気を補充できないので根本的な要求解消にはならなかった。
そして、なら、残るは血飲しかなかった。
春陽は、人の血ではなく春頼が締めたにわとりの血を飲んで、なんとか喉の乾きを癒そうと努力したが、ここ何日も何度もそうしようとしても、口に一度含んでも、匂いと魔物に変わっていくと言う事への拒否反応か、すぐ吐き戻し咳込み苦しんだ。
春頼は、血を吐き戻し血塗れでのたうち苦しむ兄の春陽の背中を何度も擦りながら、何度も何度も、今すぐ自分が代わってやりたいと心底、心底懊悩し苦しんだ。
そして、春頼は、やっと落ちついた春陽の血濡れの小袖を替えてやり、汗を優しく拭いてやり、包み込むように春陽の背中を長い時間抱き締めてやりながら、いつも強く逞しいはずの一人前の武者の春頼が、春陽があまりにも哀れで、春陽に分らないよう静かに涙した。
だが春頼は、春陽が頑なに女を抱かない事には、ほっと胸を撫で下ろす所があり、その想いと弟としての兄への哀れみの感情の板挟みは、更に春頼を苦悩させた。
春頼も父も、何日も春陽が獣の血をなんとか飲めるような方法を模索していたが、なかなか見つからなかった。
そして、春頼は父から、春陽が性交と飲血が出来ず喉の乾きが極まれば、春陽が自分を完全に無くし、いずれ婬魔として暴走すると忠告されていた。
「はい……さっき、屋敷のニワトリを締めたので……その時のモノですね…」
春頼はさっきの春陽の問いに、兄の豹変にも一片も動揺を見せず、端正な顔の表情も変化させず、あくまでいつもの春頼らしく穏やかに答えた。
しかし、そう言いながら心の内では、これも分かっていた。
今まさにその……兄の暴走する時が来てしまったのだと。
そして春頼は、その時が来たら、迷わず即、まず、兄、春陽の首を刀で斬り落とすようにも父から秘かに説得も受けていた。
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