113 / 181
幼女転世
しおりを挟む
その晩は、春陽も、春陽の中に囚われている優も、一晩中何度も泣いた。
朝霧との別れは、それくらい悲しく辛く…
だが、泣き疲れて、少し眠る事もあった…
しかし…
後ろから呼び止める春陽を無視して、朝霧が美月姫を抱き締めながら二人で同じ馬で去っていく夢を春陽も優も見て…
春陽も優も同時に泣きながら目覚めもした。
時折、心配して春頼が傍に来てくれて、その時は泣かず平静を装っている春陽の背をさすったり、体を抱き締めてくれた。
猫の小寿郎はずっと春陽の傍にいて、春陽が泣いているのを知ってるだけに、慰めるように鳴いて体を時折春陽に擦りつけてきた。
だが、優には無論分かっていた。
あの美しい桜の精霊の小寿郎が猫になって、優と春陽を慰めてくれている事を。
定吉と真矢は、春陽の姿を見られないまま、時折、遠くから春陽の閉め切られた座敷をじっと見詰めた。
いつの間にか又泣き疲れたのか?
春陽も優も、又布団の中で眠りに落ちてしまった。
そして刻は、あっという間にまだ薄暗いながらも朝になった。
「うっ…な…なんか、さっ…さむっ!」
優は、うっすら眠りから目覚めながら、春と言え朝は寒く体が冷えて思わず呟いた。
だが、いつもの春陽の体の中にいるだけで、春陽の体を自由に動かせない時と、呟いた感じ何かが違う。
そして…
「へっ…へっ…へっぷしゅん!」
寒さから思わず、変なくしゃみをして変顔になり鼻をすすった。
だが、やはり、いつもと何か違った。
そして、目が完全に覚めて驚愕した。
優は、よくわからない山中の短い草むらに横に寝転がっていて…
しかも、今、優の精神のいる体を自由に動かせた。
「まさか…又、春陽さんの体を俺が乗っ取った?」
優は慌てて、上半身起き上がったが…
だが、春陽の体にあったはずの、獣のような爪も、頭の小さな双角も口元の牙も今は無い。
春陽の手にもある、刀剣使いに出来る豆も無い。
それに着ている小袖が、江戸時代に優が着ていたものと同じ。
しかし、体付きや声は自分と春陽は似すぎていて…
長く春陽の体にいたせいもあるのか?
優は、今自分が一体誰の体にいるのか実感が湧かない。
そこに…
「ガサガサガサ…」
と、草むらの音がした。
何かと思い振り返った優は、更に驚く。
そこに、巫女の装束のおかっぱのかわいい幼女が、大きな布と愛らしい日本人形を持って立っていて、どう見ても千夏にしか見えなかったから。
優は仰け反りギョギョッと目を見開いたが、幼女はただ無表情だ。
しかし…
「もっ…もしかして…千夏ちゃん…なの?」
優が優しくも恐る恐るそう尋ねると、幼女は急に走って、人形と布を傍らに置き優の首に抱きついた。
「千夏ちゃん!」
優は、千夏の小さな体を強く抱き締めた。
そして、次に少し体を離し千夏の顔をよく見て、右手で千夏の頬を撫でながら呟いた。
「やっぱり、あれは夢じゃなかったんだ!良かった千夏ちゃん、無事で!」
やはり、嬉しいのか悲しのか感情が顔に出ないし、声も出せないようだが、千夏に間違いなさそうだった。
「もしかしてこれ、俺にかけてくれようとした?寒いから?」
布を見て、優が尋ねた。
千夏はやはり感情の無い表情だったが、コクリと一度頷いた。
「そうだったんだ…ありがとう…」
優はニコリとし、一度いつもの優らしくのんきになりかけたが、今の状況を改めて思い出し慌てる。
「千夏ちゃん、今の俺って、春陽さんか優、どっちの体にいるかわかる?」
優は、千夏の両肩に手を置き、千夏の顔を覗き込み尋ねた。
コクリと、千夏がうなずいた。
「今の俺…春陽さんの体にいる?」
千夏は、首を左右に振った。
「じゃぁ、今いるのは、俺の体?」
千夏は、首を上下に頷いた。
「えーっ!!!て事は、俺は精神だけじゃなく、俺の体もこの世界に来たって事?」
優は、思わず絶叫したが、千夏は、又、首を上下に振った。
「でも、どうしよう…俺だけならまだしも、ちっ…千夏ちゃんまでも、この世界に来ちゃったのー?!」
優は、思わず天に向かい又叫び、頭を抱えて心底悶絶した。
「ヒヒーン!ヒヒーン!」
そこに、急に沢山の馬の鳴き声がし始めた。
だがそれは、朝霧が、遂に春陽の元を旅立つ時が来た合図だった。
優はそれを悟り、心臓を、冷たい手で握り潰されそうな感覚になった。
朝霧との別れは、それくらい悲しく辛く…
だが、泣き疲れて、少し眠る事もあった…
しかし…
後ろから呼び止める春陽を無視して、朝霧が美月姫を抱き締めながら二人で同じ馬で去っていく夢を春陽も優も見て…
春陽も優も同時に泣きながら目覚めもした。
時折、心配して春頼が傍に来てくれて、その時は泣かず平静を装っている春陽の背をさすったり、体を抱き締めてくれた。
猫の小寿郎はずっと春陽の傍にいて、春陽が泣いているのを知ってるだけに、慰めるように鳴いて体を時折春陽に擦りつけてきた。
だが、優には無論分かっていた。
あの美しい桜の精霊の小寿郎が猫になって、優と春陽を慰めてくれている事を。
定吉と真矢は、春陽の姿を見られないまま、時折、遠くから春陽の閉め切られた座敷をじっと見詰めた。
いつの間にか又泣き疲れたのか?
春陽も優も、又布団の中で眠りに落ちてしまった。
そして刻は、あっという間にまだ薄暗いながらも朝になった。
「うっ…な…なんか、さっ…さむっ!」
優は、うっすら眠りから目覚めながら、春と言え朝は寒く体が冷えて思わず呟いた。
だが、いつもの春陽の体の中にいるだけで、春陽の体を自由に動かせない時と、呟いた感じ何かが違う。
そして…
「へっ…へっ…へっぷしゅん!」
寒さから思わず、変なくしゃみをして変顔になり鼻をすすった。
だが、やはり、いつもと何か違った。
そして、目が完全に覚めて驚愕した。
優は、よくわからない山中の短い草むらに横に寝転がっていて…
しかも、今、優の精神のいる体を自由に動かせた。
「まさか…又、春陽さんの体を俺が乗っ取った?」
優は慌てて、上半身起き上がったが…
だが、春陽の体にあったはずの、獣のような爪も、頭の小さな双角も口元の牙も今は無い。
春陽の手にもある、刀剣使いに出来る豆も無い。
それに着ている小袖が、江戸時代に優が着ていたものと同じ。
しかし、体付きや声は自分と春陽は似すぎていて…
長く春陽の体にいたせいもあるのか?
優は、今自分が一体誰の体にいるのか実感が湧かない。
そこに…
「ガサガサガサ…」
と、草むらの音がした。
何かと思い振り返った優は、更に驚く。
そこに、巫女の装束のおかっぱのかわいい幼女が、大きな布と愛らしい日本人形を持って立っていて、どう見ても千夏にしか見えなかったから。
優は仰け反りギョギョッと目を見開いたが、幼女はただ無表情だ。
しかし…
「もっ…もしかして…千夏ちゃん…なの?」
優が優しくも恐る恐るそう尋ねると、幼女は急に走って、人形と布を傍らに置き優の首に抱きついた。
「千夏ちゃん!」
優は、千夏の小さな体を強く抱き締めた。
そして、次に少し体を離し千夏の顔をよく見て、右手で千夏の頬を撫でながら呟いた。
「やっぱり、あれは夢じゃなかったんだ!良かった千夏ちゃん、無事で!」
やはり、嬉しいのか悲しのか感情が顔に出ないし、声も出せないようだが、千夏に間違いなさそうだった。
「もしかしてこれ、俺にかけてくれようとした?寒いから?」
布を見て、優が尋ねた。
千夏はやはり感情の無い表情だったが、コクリと一度頷いた。
「そうだったんだ…ありがとう…」
優はニコリとし、一度いつもの優らしくのんきになりかけたが、今の状況を改めて思い出し慌てる。
「千夏ちゃん、今の俺って、春陽さんか優、どっちの体にいるかわかる?」
優は、千夏の両肩に手を置き、千夏の顔を覗き込み尋ねた。
コクリと、千夏がうなずいた。
「今の俺…春陽さんの体にいる?」
千夏は、首を左右に振った。
「じゃぁ、今いるのは、俺の体?」
千夏は、首を上下に頷いた。
「えーっ!!!て事は、俺は精神だけじゃなく、俺の体もこの世界に来たって事?」
優は、思わず絶叫したが、千夏は、又、首を上下に振った。
「でも、どうしよう…俺だけならまだしも、ちっ…千夏ちゃんまでも、この世界に来ちゃったのー?!」
優は、思わず天に向かい又叫び、頭を抱えて心底悶絶した。
「ヒヒーン!ヒヒーン!」
そこに、急に沢山の馬の鳴き声がし始めた。
だがそれは、朝霧が、遂に春陽の元を旅立つ時が来た合図だった。
優はそれを悟り、心臓を、冷たい手で握り潰されそうな感覚になった。
0
お気に入りに追加
138
あなたにおすすめの小説

番だと言われて囲われました。
桜
BL
戦時中のある日、特攻隊として選ばれた私は友人と別れて仲間と共に敵陣へ飛び込んだ。
死を覚悟したその時、光に包み込まれ機体ごと何かに引き寄せられて、異世界に。
そこは魔力持ちも世界であり、私を番いと呼ぶ物に囲われた。
どうせ全部、知ってるくせに。
楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】
親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。
飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。
※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。

言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、

淫愛家族
箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。
事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。
二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。
だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

人気アイドルになった美形幼馴染みに溺愛されています
ミヅハ
BL
主人公の陽向(ひなた)には現在、アイドルとして活躍している二つ年上の幼馴染みがいる。
生まれた時から一緒にいる彼―真那(まな)はまるで王子様のような見た目をしているが、その実無気力無表情で陽向以外のほとんどの人は彼の笑顔を見た事がない。
デビューして一気に人気が出た真那といきなり疎遠になり、寂しさを感じた陽向は思わずその気持ちを吐露してしまったのだが、優しい真那は陽向の為に時間さえあれば会いに来てくれるようになった。
そんなある日、いつものように家に来てくれた真那からキスをされ「俺だけのヒナでいてよ」と言われてしまい───。
ダウナー系美形アイドル幼馴染み(攻)×しっかり者の一般人(受)
基本受視点でたまに攻や他キャラ視点あり。
※印は性的描写ありです。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる