殉剣の焔

みゃー

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今生の別れ

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いつまでも未練がましい…

朝霧は、自分でそう思いながらも…

「ハル…俺は、俺は、お前の事が……」

朝霧が声を振り絞りその先を言おうとすると…

その朝霧の言葉に春陽が言葉を被せて、先を言えなくして邪魔をした。

「さっき、俺に出来る事は無いかと聞いてくれたな?なら貴継…ちゃんと予定通り美月姫と明日出立し、立派に役目を果たして私を安心させてくれ。それに、私には、両親も、春頼もいるから大丈夫だ…」

最後の方は、言葉が震えるのをなんとか耐えたが、春陽の両目から涙が零れ出した。

朝霧の将来の為…

都倉家から朝霧を守る為には、春陽はこうするしか無かった。

こう言うしか無かったのだ。

そして、春陽は、障子のお陰で情け無い姿を朝霧に見せなくて済んで良かったと思ったが…

朝霧は、それを聞いて暫く無言だったが…

やがて、朝霧の逞しく成長した男の双眼からも静かに涙がつぅーと流れた。

朝霧が泣くなんて、本当に滅多に有りえ無い事だ。

そして春陽同様、震えを気取られない様に、跪く足の横にある両手を必死に握って告げた。

「…分かった…ハル…俺は、予定通り明日の朝立つ…朝が早い…明日は、お前に別れは言わず出立する…」

一瞬、春陽はハっとしたが、明日になっても多分、顔を合わす事は叶わないだろう…と諦めた。

「そうか…なら、私からのお前への餞別、春頼に預けておく。明日の朝、受け取ってくれ…」

「なら…ハル、もう一つ、お前に餞別を頼んでいいか?」

「ああ…いいとも。出来る事なら何でもする…」

「お前の髪…髪の毛を、少し切って俺にくれないか?」

「髪を?」

「ああ…遠江(とおとうみ)国では、親しい者の髪を持っていれば無事に旅する事が出来ると言われてるらしい…」

「そうか…なら、切っておく。それも春頼から受け取ってくれ…」

無論これは、朝霧の作り話だっ
た。

ただ、恋しい春陽の、何か代わりになる物欲しさからの…

そして…

もっと言いたい事が山程あるの
に、これ以上話せば泣いている事が分かってしまうので、朝霧は大きく息を吸い上を向いて言った。

「では…ハル…達者でな…」

「ああ…お前も…」

「ハル…最後にこれだけは約束してくれ。死なないと。俺が生きている限りは死なないと…」

朝霧は、上を向いたまま両目を閉じて懇願した。

「ああ…」

春陽も、目をぐっと閉じて答えた。

最後は互いの顔さえ見られず…

これが、何年も共に過ごした幼馴染みとの今生の別れとは到底思え無かったが…

春陽も朝霧もこれ以上は平静を装え無かった。

静かに朝霧が立ち上がり、その場から去って行く。

そして…静まり帰った座敷。

(今日だけは…今日一日だけは、泣く事を許して欲しい。明日からは、貴継…お前が居なくなっても、会えなくても…もう泣かない…泣かないから…)

更に春陽の目から、大粒の涙がとめどめも無く溢れ出し布団に落ちた。

春陽は生まれて初めて、死ぬ程泣いた。

声と嗚咽を必死で殺して泣いた。

そして、春陽の中に囚われる優もいつしか…

朝霧を止める手段も無く…心の中で
呼ぶ。

(朝霧さん…朝霧さん…)

そして…春陽の中で…

同じように泣いていた…
































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