108 / 180
雷鳴
しおりを挟む
屋敷の外は、あんなに晴れていた空を今や暗い雲が覆い、強い雨が降りしきる。
そして、大きな雷鳴が、それが今近くにある事を知らせる。
春陽は、もう一度自分の両手を見た。
だが…何度見ても…
十本の指には、獣のような鋭い爪が突然生えていた。
春陽の中にいる優も、勿論驚く。
しかし、優にはいつかこうなる事が分かっていた分、ついに来るべき時が来たと冷静になろうとした。
しかしやはり、自分の出自を未だ知らない春陽には受け入れ難い事だったのだ。
焦る春陽は、突然春頼の座敷を、縁側から雨の降る庭に飛び出た。
ちょうどその時、春頼が縁側を着替えを持って帰って来た。
そして、濡れた男巫女姿のまま、裸足で庭を走り裏山の方向に行く兄の後ろ姿を見て大声で呼び止めた。
「兄上!」
だが、春陽は一顧だにしない。
異変を感じ、春頼も着替えを放り出し春陽の後を追った。
春陽は、裏門から裏山に入った。
そして、走った。
「兄上ー!兄上ー!」
遠くから春頼の呼ぶ声がするが…
春陽は、走ってこのまま何処か遠くへ行って、自分の存在自体この世から消し去ろうと思った。
もうそれ位、春陽を取り巻くものの多くが辛かった。
しかし…
都倉家からの召喚状には、春陽が何処かに逃げれば、両親や春頼、
荒清村の村人全員を処刑するとあった事を思い出す。
藍の罠だと知らない春陽の足が、すぐ止まった。
自分の肩に、大切な人達の命がかかっているのだ。
だが、今暫くは春頼にこの姿を見られたくなくて、膝を地面に付き草むらに隠れる。
強い雨粒が顔や体に当たりながら、春頼が来ないかどうか探りながら息を殺す。
やがてほんの暫くして、春頼の気配が無くて少し安堵の息を漏ら
す。
だがその時…
「兄上…」
突然、背後から春頼の声がして、
春陽は後ろを向き地面に尻もちを着いた。
「あっ…兄上…それは…」
明らかに春頼は、春陽の頭の二本の角、口元の二本の牙、指の鋭い爪を見て固まっていた。
実は、春陽は認識してなかったが、瞳も黒から青に変色してい
た。
「はっ…春頼…私も分からないんだ…分からないんだ…さっき突然、突然体がおかしくなって…こんな…こんな姿に…こんな…化け物みたいな…どうしたらいいか分からない…どうしたらいいか…分から、」
春陽は、酷く動揺しながらなんとか言葉を続けようとしたが…
「兄上!」
春頼も地に膝を着け、春陽を胸に抱き締めた。
「春…頼?…」
「兄上、大丈夫です。大丈夫ですよ。兄上には私がいます。大丈夫です…落ち着いて…」
甘く優しくそう囁きながら、春頼は春陽の背中を優しく何度も擦る。
だが、その時…
ガサ…ガサガサ…
少し離れた草むらが揺れた。
そして、春頼の背中に、ふと人の気配がした。
「春頼。お前、実の兄に何をしている?」
地を這うように低い声は、激しい怒りを孕んでいた。
その人物から、春陽の身体を隠すようにしゃがんでいた春頼は、聞き覚えのあり過ぎる声にそっと顔だけ振り返る。
「答えろ!春頼!」
実は春頼同様、走り何処かへ行く春陽の後ろ姿を見かけ、追いかけて来た朝霧の怒声は凄まじかった。
そして、大きな雷鳴が、それが今近くにある事を知らせる。
春陽は、もう一度自分の両手を見た。
だが…何度見ても…
十本の指には、獣のような鋭い爪が突然生えていた。
春陽の中にいる優も、勿論驚く。
しかし、優にはいつかこうなる事が分かっていた分、ついに来るべき時が来たと冷静になろうとした。
しかしやはり、自分の出自を未だ知らない春陽には受け入れ難い事だったのだ。
焦る春陽は、突然春頼の座敷を、縁側から雨の降る庭に飛び出た。
ちょうどその時、春頼が縁側を着替えを持って帰って来た。
そして、濡れた男巫女姿のまま、裸足で庭を走り裏山の方向に行く兄の後ろ姿を見て大声で呼び止めた。
「兄上!」
だが、春陽は一顧だにしない。
異変を感じ、春頼も着替えを放り出し春陽の後を追った。
春陽は、裏門から裏山に入った。
そして、走った。
「兄上ー!兄上ー!」
遠くから春頼の呼ぶ声がするが…
春陽は、走ってこのまま何処か遠くへ行って、自分の存在自体この世から消し去ろうと思った。
もうそれ位、春陽を取り巻くものの多くが辛かった。
しかし…
都倉家からの召喚状には、春陽が何処かに逃げれば、両親や春頼、
荒清村の村人全員を処刑するとあった事を思い出す。
藍の罠だと知らない春陽の足が、すぐ止まった。
自分の肩に、大切な人達の命がかかっているのだ。
だが、今暫くは春頼にこの姿を見られたくなくて、膝を地面に付き草むらに隠れる。
強い雨粒が顔や体に当たりながら、春頼が来ないかどうか探りながら息を殺す。
やがてほんの暫くして、春頼の気配が無くて少し安堵の息を漏ら
す。
だがその時…
「兄上…」
突然、背後から春頼の声がして、
春陽は後ろを向き地面に尻もちを着いた。
「あっ…兄上…それは…」
明らかに春頼は、春陽の頭の二本の角、口元の二本の牙、指の鋭い爪を見て固まっていた。
実は、春陽は認識してなかったが、瞳も黒から青に変色してい
た。
「はっ…春頼…私も分からないんだ…分からないんだ…さっき突然、突然体がおかしくなって…こんな…こんな姿に…こんな…化け物みたいな…どうしたらいいか分からない…どうしたらいいか…分から、」
春陽は、酷く動揺しながらなんとか言葉を続けようとしたが…
「兄上!」
春頼も地に膝を着け、春陽を胸に抱き締めた。
「春…頼?…」
「兄上、大丈夫です。大丈夫ですよ。兄上には私がいます。大丈夫です…落ち着いて…」
甘く優しくそう囁きながら、春頼は春陽の背中を優しく何度も擦る。
だが、その時…
ガサ…ガサガサ…
少し離れた草むらが揺れた。
そして、春頼の背中に、ふと人の気配がした。
「春頼。お前、実の兄に何をしている?」
地を這うように低い声は、激しい怒りを孕んでいた。
その人物から、春陽の身体を隠すようにしゃがんでいた春頼は、聞き覚えのあり過ぎる声にそっと顔だけ振り返る。
「答えろ!春頼!」
実は春頼同様、走り何処かへ行く春陽の後ろ姿を見かけ、追いかけて来た朝霧の怒声は凄まじかった。
0
お気に入りに追加
137
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。



見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる